企業が知っておくべき!外国人労働者の脱退一時金を徹底解説

執筆者:

社会保険労務士/川﨑潤一

脱退一時金は、外国人の方が企業を退職し母国へ帰国をすることとなった際に支払った年金保険料の一部を払い戻しできる制度です。
企業の担当者の方から、外国人労働者へ脱退一時金について説明をすることで、社会保険への加入について理解をしてもらえるようになり、安心して働いてもらうことに繋がります。

こちらの記事では、企業が外国人労働者へ脱退一時金について説明するべき理由、脱退一時金の支給条件、2021年度の制度改正、脱退一時金の手続き方法、脱退一時金の計算方法、脱退一時金について注意すべきこと、などを記載していますので、外国人労働者へ説明の際に参考にしてみてください。

そもそも「脱退一時金」とは?

脱退一時金とは、保険料を掛け捨てにするのではなく、支払った年金保険料の一部を払い戻しする制度のことです

外国人労働者であっても、社会保険の加入条件を満たす場合には、強制加入となります。老齢年金をもらうためには、10年以上の年金保険料納付済み期間が必要ですが、老齢年金をもらう前に帰国してしまうと保険料を掛け捨てにしたようになってしまうため、支払った年金保険料の一部を払い戻しすることで掛け捨てになることを防ぐのです。

 

外国人労働者に脱退一時金は適用される?

条件を満たせば外国人労働者に脱退一時金は適用されます

そもそも、脱退一時金は日本人のための制度ではなく、日本に在留して年金保険料を支払う外国人に対する制度です。

脱退一時金は、日本で年金保険料を支払っていた外国人が、日本を出国して日本国内に住所を有しなくなり、その後、再来日の可能性や老齢年金の支給条件を満たすかどうかわらない場合の救済措置となります。

そのため、脱退一時金の支給条件の1つに、「日本国籍を有していない」とあります。

企業が外国人労働者へ脱退一時金を説明するべき理由

「社会保険への加入を拒否する外国人労働者がいます。どうしたらよいでしょうか。」という相談を受けることがあります。

外国人労働者が社会保険への加入を拒否する理由は、給与の手取りが減るからということもありますが、最も大きな理由は「将来的に帰国するかもしれず、その場合には支払った年金保険料が掛け捨てになることを懸念しているから」です。

このことから、企業が脱退一時金のことを外国人労働者へ説明し、理解してもらうようお勧めしています。

脱退一時金のことを知ると、外国人労働者の方もすんなり加入してくれます。

支給額の目安となるように、モデルケースとして概算額について、数字を提示して説明できると、より納得してもらいやすくなるでしょう。

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支給の条件

先述の通り、脱退一時金には支給の条件があります。

条件は下記の通りです。

  • 日本国籍を有しない
  • 年金の加入期間が6か月以上10年未満(保険料未納期間は除く)
  • 障害年金を受ける権利を持っていない、過去に持ったことがない
  • 日本に住所がない
  • 社会保険の資格を喪失してから2年が経過していない

(社会保険の資格を喪失した日に日本国内に住所を有していた場合は、社会保険の資格を喪失した後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)

支給対象外となる場合

脱退一時金の支給対象外となる条件は、下記のとおりです。

  • 年金の被保険者となっているとき
  • 日本国内に住所を有するとき
  • 障害基礎年金などの年金を受けたことがあるとき
  • 最後に社会保険の資格を喪失した日から2年以上経過しているとき

(ただし、社会保険の資格を喪失した日に日本国内に住所を有していた場合は、社会保険の資格を喪失した後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年を起算)

脱退一時金の手続き方法

手続きについては支給の条件にて記載しましたように、「社会保険の資格を喪失してから2年が経過していない」、「日本に住所がない」ことが条件となっております。そのため、外国人労働者が企業を退職し、日本を出国した後に手続きをすることとなります。

手続きの詳細につきましては、後述の「提出する人・提出先・提出方法・提出時期」と「請求するときに必要な書類等」の項目をご覧ください。

提出する人・提出先・提出方法・提出時期

手続きをするのは、外国人労働者本人または外国人労働者から委任を受けた代理人です。手続きをする請求者(本人または代理人)が、脱退一時金請求書および添付書類を日本年金機構などへ提出してください。

必要書類の詳細については、後述の「請求するときに必要な書類等」の項目にてご確認ください。

区分内容
提出者請求者(本人または代理人)
提出先日本年金機構本部または各共済組合等 ※加入していた制度およびその期間により提出先が異なります。 ※日本滞在中の年金の加入期間が、国民年金または厚生年金保険の期間のみである場合の脱退一時金は、日本年金機構あてに請求手続きを行ってください。
提出方法郵送・電子申請 ※旅行など就労以外の目的で来日した場合には、年金事務所または街角の年金相談センターの窓口での提出が可能です。
提出時期短期滞在の外国人が日本の住所をなくして出国後2年以内

請求するときに必要な書類など

脱退一時金を請求する際に必要な書類は「脱退一時金請求書」と「添付書類」の2種類です。こちらも基本的に外国人労働者の方が自身で準備します。

1. 脱退一時金請求書

脱退一時金の請求書は外国語と日本語が併記された様式で、以下の14カ国語に対応しています。

英語/中国語/韓国語/ポルトガル語/スペイン語/インドネシア語/フィリピノ(タガログ)語/タイ語/ベトナム語/ミャンマー語/カンボジア語/ロシア語/ネパール語/モンゴル語

日本年金機構のサイト「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」からダウンロードできるほか、「ねんきんダイヤル」に電話することで郵送してもらえます。また、年金事務所や街角の年金相談センター、市区町村および自治体の国際化協会でも入手できます。

脱退一時金に関する手続きをおこなうとき|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

2.添付書類等

書類名確認事項
パスポート(旅券)の写し (氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格の確認できるページ)本人からの請求であることの確認。
日本国内に住所を有しないことが確認できる書類 (住民票の除票の写しやパスポートの出国日が確認できるページの写し等)日本から出国していることの確認。 ※帰国前に市区町村に転出届を提出している場合は不要です。ただし、日本年金機構が外国人のアルファベット氏名の管理を開始した「平成24年7月」以前から被保険者である場合など、日本年金機構でアルファベット氏名を把握しておらず、住民票の消除情報を確認できない場合には、左記書類の提出が必要となります。
受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類(金融機関が発行した証明書等。または請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明でも可)受取可能な金融機関であることおよび請求者本人名義の口座であることの確認。 ※日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されていることが必要です。 ※ゆうちょ銀行および一部インターネット専業銀行では脱退一時金を受け取ることができません。
基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類年金の加入期間の確認。
代理人が請求手続きを行う場合は「委任状」受任者からの請求手続きであることの確認。 ※代理人を通じて、脱退一時金の請求を行うことはできますか。|日本年金機構 (nenkin.go.jp)をご確認ください。

3.企業が代理人となる場合に必要となる書類

企業が代理人となる場合には、外国人労働者が退職する前に、上記1、脱退一時金請求書と2、添付書類等に記載されている書類を用意しておくと、手続きしやすくなるでしょう。外国人労働者が退職した後に、必要書類を揃えようとしますと、本人と連絡が取れなくなり、手続きが滞る可能性がありますので、注意が必要です。

なお、代理人が手続きをする際には、「委任状」が必要となります。

年金相談を委任するとき|日本年金機構

請求手続きの3つの注意点

請求手続きにおいて特に注意すべき点は3つあります。外国人労働者の方へ脱退一時金について説明する際は、この点も併せて説明しましょう。

【3つの注意点】

①脱退一時金を受けとると、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなってしまいます。したがって、脱退一時金を請求するかどうかは、将来、日本の老齢年金を受け取る可能性などを考えた上で慎重に検討してください。

②日本年金機構等が請求書を受理した日に、住所がまだ日本にある場合には、脱退一時金は請求できません。このため、住んでいる市区町村に転出届を提出した後で、脱退一時金を請求してください。

③支給条件に「日本国内に住所を有しない」とあるので、日本年金機構へ請求書を提出タイミングには注意が必要です。出国前に日本国内から請求書を提出する場合は、住民票の転出(予定)日以降に提出してください。郵送等で手続きをする場合には、請求書が転出(予定)日以降に日本年金機構等に到達するように送付してください。

なお、市区町村に転出届を提出したうえで、再入国許可・みなし再入国許可を受けて出国する場合、脱退一時金を請求することができますが、転出届を提出せずに再入国許可・みなし再入国許可を受けて出国した場合には、再入国許可の有効期間が経過するまでの間は国民年金の被保険者とされますので、脱退一時金は請求できません。

社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者の場合の注意点

脱退一時金と併せて知っておくべき制度に「社会保障協定」があります。

社会保障協定とは、外国人労働者の母国と日本において「社会保障に二重加入することを防ぎ」、「日本と相手国の年金加入期間を互いに通算する」ことができるようにした制度です。つまり日本で働いて納めた保険料は、母国で保険料を納めていたことと同じ扱いになるわけです。

「年金加入期間の通算」が可能な国の人(社会保障協定を結んでいる国の人)は、支払った年金保険の受け取り方を以下のどちらか選択することが可能です。

  1. 帰国後、加入期間を通算して将来の老齢年金として受給する
  2. 日本出国後すぐに、脱退一時金を受け取る

これらで注意点すべき点は、外国人労働者が脱退一時金の支給を受けた場合、支給額の計算の基礎となった期間(日本の会社で働いた期間)は、母国での年金加入期間として通算されなくなるということです。

母国の老齢年金として通算したいか、脱退一時金として受け取りたいか、確認したうえで脱退一時金を勧めたほうがいいでしょう。

【社会保障協定を結んでいる国】

ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、ヒリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン

※イタリアは署名済未発効、イギリス・韓国・中国との協定は「保険料二重負担防止」のみ

詳細については日本年金機構ホームページにてご確認ください。

脱退一時金の支給時期

脱退一時金は、提出した書類に不備や確認事項等がなければ、請求書の受付後、およそ4カ月後に支払われます。

脱退一時金の送金と同時に「脱退一時金支給決定通知書」が送付されます。

書類に不備がある場合、脱退一時金の支給額の決定及びお支払いまでに時間がかかってしまうので、日本年金機構 に記載してある内容に留意の上、請求手続きを行ってください。

脱退一時金は、日本円ではなく、支給対象となる国ごとにドル、ユーロなどの外国の通貨で支払われます。

為替レートは、支給決定された月の平均為替レートをもとに支給額が算定されます。申請書を提出した時点の為替レートではありません。支給が決まると、日本の銀行経由で振込が行われます。

脱退一時金の金額を計算する方法

脱退一時金の支給額は、国民年金と厚生年金とでそれぞれ計算します。

ここでは、厚生年金に対する計算方法を記載します。企業担当者も外国人労働者へ説明する時のために確認しておきましょう。

概算額での計算方法(おおよその見込み額)と、正確な金額を算出する計算方法とがあります。

脱退一時金 概算額の計算方法

企業が外国人労働者へ脱退一時金の金額をおおよそで説明したい場合には、下記の方法で計算してお伝えするとよいかと思います。

【概算額の計算方法】
過去の年収×9%=概算支給額

例:給与20万円 賞与年間で30万円 年収270万円 社会保険加入期間3年
年収270万円×3年×9%=支給概算額729,000円

入社時に脱退一時金について説明する場合には、年収が確定していないため正確な金額を算出することはできないので、概算額で説明することとなります。

ただし、あくまでも概算額となりますので、実際の支給額とは若干異なることを併せて説明し、理解してもらってください。

2021年に制度改正 脱退一時金の支給上限が3年から5年に変更

脱退一時金の正確な支給額の計算をする際、年金保険料納付済み期間をもとに計算しますが、支給上限が3年となっていました。その支給上限年数について2021年4月に変更が行われ、現行の3年から5年に引き上げられました。

2021年の法改正前までは、3年以上保険料納付をしていても、最大で3年分までしか支給対象にならなかったものが、法改正により最大5年分までに拡充されたということです。この法改正は、特定技能1号の創設により期限付きの在留期間の最長期間が5年となったことや、近年、短期滞在の外国人の状況に変化が生じていることなどを踏まえて見直されました。

脱退一時金の正確な支給額の計算方法は、次の「脱退一時金 正確な金額の計算方法」で解説します。

脱退一時金 正確な金額の計算方法

外国人労働者の方が退職する際に最終給与額が確定すると、年収が確定します。ここで初めて脱退一時金の正確な金額を計算することができるようになります。退職時に、外国人労働者へ説明する際には、下記の脱退一時金の正確な金額の計算方法にもとづいて計算し、その結果を伝えるといいでしょう。

計算式は以下の通りです。

【正確な金額の計算方法】
被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率(保険料率×2分の1×支給率計算に用いる数)

例:給与20万円 賞与年間で30万円 年収270万円 社会保険加入期間3年

給与20万円(標準報酬月額20万円)、賞与30万円(標準賞与額30万円)(20万円×36カ月+30万円×3回)÷36カ月=225,000円(平均標準報酬額)
支給率3.3(厚生年金保険料率:18.3%×2分の1×支給率計算に用いる数:36)
225,000円×3.3=支給額742,500円

※支給額から所得税が引かれますが、還付申告をすることで所得税は還付されます

※支給率や支給率計算に用いる数は、日本年金機構ホームページに掲載

厚生年金保険の脱退一時金として、いくらもらえますか。|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

脱退一時金について企業が注意すべきこと

企業は、外国人労働者に対して脱退一時金の説明をする際、以下の点に注意して説明をおこないましょう。

支給申請手続きは企業が行うのではなく、本人または代理人が行うものであることを伝えて理解してもらう

支給申請手続きは、請求者(本人または代理人)が行うものとなります。

企業が手続きするものではないことを、外国人労働者へ伝える必要があります。

外国人労働者が手続きを行うのは企業であると誤解している場合、手続きしないままとなり、後々トラブルとなる可能性があります。

脱退一時金を受け取ると、対象となった年金加入期間は加入していなかったものとして取り扱われる

先ほども少し触れましたが、社会保障協定によって年金加入期間の通算が認められる国の人の場合、脱退一時金を受けとると脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなってしまいます。

帰国後に再来日する可能性が高いのであれば、受け取らないという選択肢もあります。

また、脱退一時金の支給を受けた後に、再来日して年金被保険者として保険料の支払いをし続けたことで、再度脱退一時金の支給条件を満たした場合には、2度目の来日後に帰国した際に、再度脱退一時金の支給を受けることができます。母国の習慣や行事などで一時的に帰国をする際には、再来日することが想定されるのかどうかで、手続きを行うかどうかの検討が必要でしょう。

脱退一時金支給額の概算額を伝える場合には、実際の支給額と多少誤差があることを伝えること

外国人労働者に対して脱退一時金の説明をする時に、支給額の目安となるようにモデルケースとして、概算額について数字を提示して説明できますと、理解してもらいやすくなります。

ただし、ここで提示する金額はあくまでもモデルケースであり、実際の支払額とは異なることを伝えるようにしましょう。

外国人労働者に安心して働いてもらうために脱退一時金の説明をしましょう

今回は、脱退一時金について解説しました。

特定技能外国人の増加や、新型コロナウイルス感染症対策における水際対策の緩和などにより、日本国内で働く外国人労働者は今後も増えていくものと思われます。外国人労働者でいずれ母国に帰国されたい方と、できるだけ長く日本国内で働きたい方では、将来に向けた働き方に対する考え方が大きく分かれます。

どちらにしましても、企業が外国人労働者に脱退一時金のことを説明し、社会保険料の掛け捨てにならないことを知ってもらうことは、外国人労働者に安心して働いてもらうことへと繋がります。そのため、入社時に説明をしておくことが必要でしょう。