【2023年度】外国人労働者数が200万人を突破!外国人雇用状況の実態や背景を詳しく解説
年に1回の『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)』が公表され、この1年間の外国人雇用状況の詳細が明らかになりました。大方の予想通りこの1年間で外国人労働者数は大幅に増加しました。
届出が義務化された2007年(平成19年)以降、過去最高を更新し200万人を突破 。
対前年増加率は 12.4 %と、前年の 5.5 %から 6.9 %増加し、コロナ禍で足踏みしていた状況からV字回復しました。
単年の増加数も225,950人となり、過去最高値を更新しています。
ただ、200万人という数字もここ数年の労働者不足や、外国人労働者の増加傾向からすると何ら驚きのない状況と言えるかもしれません。国籍・就業地域・業種・在留資格など、主要項目におけるシェア率には大きな変化はなく、いつもの顔ぶれといった見え方になるかもしれませんが、それぞれの伸び率、「変化」は昨年以上に顕著であり、今後数年間で更に大きく変化する可能性があります。
本記事では、特に前年からの伸び率、「変化」にフォーカスして、外国人雇用状況の実態や背景を詳しく解説していきます。
①【総数】予想どおりのV字回復。外国人労働者総数は過去最高の200万人を突破
②【在留資格】数字では読み取れない技能実習の低迷、特定技能の飛躍
③【国籍】主役の交代は現実路線。インドネシア・ミャンマーの興隆
④【業種】介護・飲食・サービス業でインドネシア、ミャンマーの増加。ベトナムの牙城だった建設で変化
⑤【就業地域】すべての都道府県で増加。2年連続で九州・東北の伸び率が高い
目次
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<在留資格別の分析>在留資格別の雇用状況 噂の技能実習の動向は?
昨今大きな話題となっている「技能実習の廃止」というテーマですが、労働者数にどう影響したのでしょうか?
言わずもがな、2022年時点で30万人を超える在留者数となり、日本の労働力を牽引する存在となっている技能実習生ですが、一方でその制度には様々な指摘があります。制度変更のニュースが飛び交う中、雇用主の判断が注目されるところとなっていました。
在留資格別でみると、「技能実習」は 412,501 人、前年比20.1%増となっており、「特定技能」(前年比75.2%増)に次ぐ伸び率となっています。
この2年は入国制限の影響がありマイナス成長となっていましたが、見事にV字回復しています。「辞めない人材」という企業側にとって貴重価値が高い制度ゆえに根強い人気がある、あるいは今後の制度変更を懸念しての駆け込み需要という見方もあります。
しかし、この増加率や背景分析には留意が必要です。出入国在留管理庁より発表された特定技能制度の運用状況(令和5年10月末速報値)によると、特定技能在留者数は194,667人となっており、今回発表された同時期の雇用状況の届出人数がと56,149人も乖離しています。実は 在留資格が「技能実習」から「特定技能」へ移行しても、離職を伴わずに、同一の事業主に引き続き雇用される場合には、外国人雇用状況届出の提出が義務付けられていません。
このため、実際の技能実習の在留者数は今回の「外国人雇用状況の届出状況まとめ」よりもかなり少ない人数であることが想定できます。同時期に公表された「令和5年における外国人入国者数及び日本人出国者数等について(速報値)」でも裏付けられています。
このデータは2023年度における在留資格別の新規入国者の前年比を表していますが、特定技能が前年比213.7%増(23,208人)増に対して、技能実習は昨年比2.2%増(3,998人増)と僅かして増加していません。
仮に56,149人すべてが特定技能の在留者数だとすると、技能実習の前年比は4%増に留まることになり、他の在留資格と比較しても「停滞」している状況となります。
入国前を含めた「認定件数」において2023年度は回復傾向にあるため、今後在留数が増加する可能性はありますが、現時点では雇用主側としては、特定技能での雇用を優先し、技能実習は制度変更の詳細が固まるまでは慎重に判断をしている現状もあるかと思います。
入国前を含めた「認定件数」において2023年度は回復傾向にあるため、今後在留数が増加する可能性はありますが、現時点では雇用主側としては、特定技能での雇用を優先し、技能実習は制度変更の詳細が固まるまでは慎重に判断をしている現状もあるかと思います。
特定技能の飛躍、主役の交代へ
今回の発表から、専門的・技術的分野の在留資格に合算されていた「特定技能」が単独で集計されるようになりました。在留者数が大幅に伸び、存在感が強まったことが伺えるエピソードかと思います。
前述の通り、今回の「外国人雇用状況の届出状況まとめ」では、技能実習から特定技能への同職場内での在留資格変更を含めない統計となっていますが、それでも前年比で75.2%増加と、大方の予想どおりの伸び率でした。これを「特定技能制度の運用状況」のデータで見ると、前年比79.1%増と更に高い伸び率です。制度創設当初の停滞や不安感が嘘のような進捗となっています。
「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書(2023年11月)の通り、今後は特定技能が外国人労働者 のキャリアの中心となっていくことは間違いありません。
特定技能1号の分野追加、2号の運用が本格的にスタートすると、今後は「どうすれば採用できるのか」「どのような特定技能人材を採用すべきなのか 」と採用可否判断から次のステップに進むと考えられます。
国籍別の在留資格の前年比
留学生(資格外活動)は増加 に転じる
2022年度は技能実習と同様に減少していた資格外活動(うち留学生)ですが、渡航制限解除により、2023年度は前年比5.9%増と、予想どおり増加に転じました。 ネパールが60,723人(対前年29.8%増)となり、ついに中国を超えました。ミャンマーも11,546人(対前年64.3増)と大きく伸ばしているのに対して、ベトナム(対前年10.1%減)、中国(対前年4.7%減)は減少しています。
本記事では雇用状況の解説のため、各国の留学事情については説明を省きますが、少なくとも留学生の雇用状況についても国籍ごとの割合の変化が進んでいる状況です。
特定活動は唯一の減少
他の在留資格が伸長する中、特定活動は唯一減少に転じています。そもそも特定活動とは個々の外国人について特別に指定する活動 のため、その時々の社会情勢等に大きく影響されます。
2022年はコロナ禍で帰国困難を理由に多くの国で増加しましたが、今回はベトナム・中国・ネパールが大きく減少しています。これらは、航空便が大幅に回復し、帰国困難者が特例措置※ の対象から外れたことが要因と考えられます。
一方で、政情不安が続くミャンマーは今回も前年比65.0% と大きく増加しています。技能実習や留学で日本国内に在留するミャンマー国籍の方の多くが、就職する際、特定活動を選択することで就職先の幅が広がっていることも要因です。
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による帰国困難者に対する在留資格上の特例措置として、帰国できるまでの間「特定活動(6か月)」または「短期滞在(90日)」の在留資格が許可されていました。
<国籍別の分析>主役の交代は現実路線。インドネシア・ミャンマーの興隆
公表されたすべての国で外国人労働者数は増加していますが、伸び率の上位3カ国であるインドネシア(前年比56%増)・ミャンマー(前年比49・9%増)・ネパール(前年比23.2%増)の増加が突出しています。この3カ国は前年もTOP3であり、2年連続で大幅に増加したことになります。
ベトナムは前年比12.1%増と2022年ほどの低成長ではないですが、2桁増の国が多数ある状況を考えると、かつての勢いが失われているとも言えます。
在留者数に占めるシェア率もインドネシア(4.3%→5.9% )・ミャンマー(2.6%→3.5%)・ネパール(6.5%→7.1%)とこの3カ国は増加しています。
これをさらに、在留資格を変更するのが難しい「身分に基づく在留資格」を除いて、在留者数に占めるシェア率を集計し直すと、インドネシア(8.0%)・ミャンマー(4.7%)・ネパール(9.7%)となり、急速に存在感が高まっていることが分かります。
この3カ国に共通するのは特定技能の伸び率が高いことです。
特定技能については二国間協定※ 後の運用状況に差があるのが現状ですが、3カ国ともに現地で特定技能の試験を活発に行い、合格者を多数輩出しています。
特にミャンマーは政情不安の影響により経済状況は非常に厳しい状況にあります。大学を中退してまで来日することも珍しくなく、そのため 、本来は在留資格「技術・人文知識・国際業務」で来日するレベルの人材が特定技能人材として来日することも日常的な状況です。
また、数字には表れませんが、日本の円安、諸外国の賃金アップにより各国の差が 出ている現状があります。インドネシア・ミャンマー・ネパールは待遇面の希望が比較的少なく、就業地域に固執しない 傾向にあります。このため、雇用側の要件にマッチングし易いことも大きな要因です。
※二国間協定(二国間の協力覚書)は、特定技能制度というプロジェクトを円滑に進め・外国人を保護することを目的とした取り交わしです。詳しくはこちらをご覧ください。
<業種別の分析>介護、飲食・サービス業でインドネシア、ミャンマーの増加。ベトナムの牙城だった建設で変化
「うちの業界で働く外国人はどの国籍が多いの?」とよく質問を受けますが、業種によって各国が占める割合は異なります。
在留者数が多いベトナム(518,364人)・中国(397,918人)・フィリピン(226,84人)は様々な業種で働いていますが、その中でもベトナムは建設(42.8%)、製造分野(36.4%)とその業種の中での比率が高く、中国は情報通信・卸売業・小売業・宿泊業・飲食サービス業の比率が高い傾向があります。
ネパールは飲食サービス業の比率が高く、フィリピンは介護に多い。このあたりは一般的なイメージ通りではないでしょうか?
今回も業種別の上位国にさほど入れ替えはありませんが、伸び率やそれに伴うシェア率はこの1年で変化が生じています。業種別の国籍比率は今後数年間で大きく入れ替わる可能性が高いと考えられます。
順位変動
建設
- 2022年度:1位ベトナム 2位フィリピン 3位中国
- 2023年度:1位ベトナム 2位インドネシア 3位フィリピン
インドネシアが就労人数で2位に浮上
製造
- 2022年度:1位ベトナム 2位中国 3位フィリピン
- 2023年度:1位ベトナム 2位フィリピン 3位中国
フィリピンが中国と入れ替わり2位に浮上
医療、福祉
- 2022年度 :1位ベトナム 2位フィリピン 3位中国
- 2023年度:1位ベトナム 2位フィリピン 3位インドネシア
インドネシアが中国と入れ替わる3位に浮上
業種別シェア率の変化
医療、福祉
ベトナム・中国・フィリピン国籍の比率が下がる中で、インドネシア・ミャンマー・ネパール国籍の比率が一気に高まっています。
平均賃金が比較的低い業種は、ベトナム・中国・フィリピン国籍の外国人から敬遠されているという見方ができます。
宿泊業 、飲食・サービス
ホテルや飲食店は 比較的日本語力が求められる仕事内容のため、中国国籍の比率が高い傾向に変わりはありませんが、日本語レベルが高いと言われるネパール・ミャンマーが増加しています。
特に飲食業においては食材を取り扱うため、仏教国で宗教的な配慮をあまり必要としないミャンマー国籍の外国人が増加しています。
建設
建設といえばベトナムという状況に変化はないものの、インドネシアの急増が目を見張ります。
建設業で働く在留者数の多くは技能実習(前年比126%)が占めていますが、人材需要に反して求人に苦戦する傾向があり、先述した医療・福祉と同様にインドネシアからの入国が増えています。
製造
製造業は職種の幅が広く、それぞれ専門職として熟練技術を必要とするため、技能実習経験者が多く、ベトナムの優位が変わらない状況があります。
<就業地域別の分析>すべての都道府県で増加。2年連続で九州・東北の伸び率が高い
■都道府県の状況
すべての都道府県で在留者数が増加しており、前年度からも大きく増加している都道府県が数多くあります。ただ、エリアによって伸び率に差はあります。
- 対前年20%以上が15都道府県
- 対前年10~19% 24都道府県
この2つで47都道府県全体の83%となります。
(参考)前年
- 対前年20%以上が1県
- 対前年10~19% 18都道府県
この2つで全体の40.4%となります。
20%以上を超える15都道府県のうち、九州・沖縄が6件、東北が3県あります。
2022年度もトップ15のうち、九州・沖縄が6県、東北・北海道が3道県ありましたので比較的九州・東北の伸び率が高い傾向にあります。
都道府県別の増加率の違いはなにか
増加率上位・下記の5県を在留資格資格別で見ると、特定技能の増加率に差があることが分かります。
短期間で人数を増やしづらい資格外活動(留学生)や、採用難易度が高い技術・人文知識・国際業務、採用までの期間が長い技能実習との比較において、特定技能は採用までの期間が短く短期的に成果が出やすい傾向です。
実は、愛知・東京・大阪の3都県が外国人労働者全体に占める割合は43.9%と非常に高く都市部に集中している現状がありますが、特定技能の愛知・東京・大阪が占める割合は27.3%と低く、特定技能人材が比較的全国に分散していることがわかるでしょう。
地方エリアでの採用成否は特定技能にかかっている、という見方もできるかと思います。
▼昨年の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」の解説記事はこちら