特定技能外国人はどの国・国籍から雇用できる?最新の各国法令・ガイドラインを解説

特定技能外国人はどの国から雇用できるのか?最新の各国法令・ガイドラインを解説
執筆者:

㈱マイナビグローバル 代表取締役 社長執行役員/杠元樹

2019年に鳴り物入りで登場した在留資格「特定技能」は、国内在住者を対象に急速に拡大してきました。
2023年6末時点173,101人から、2024 年6月末時点では251,747人、前年比145%にまで増加しました。

当初は、日本国内の別の在留資格から移行した特定技能外国人で構成されていましたが、現在では海外現地から特定技能外国人を採用する割合がかなり増えてきました。

本記事では、特定技能に関する二国間の協力覚書、通称「二国間協定」や最新の各国法令・運用ガイドラインを解説しながら「特定技能外国人はどこの国から採用可能なのか」を説明していきます。

外国人採用で最低限押さえておきたい各国の特徴・状況まとめ

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特定技能外国人を採用できる国は決まっている?

日本政府と諸外国との二国間の協力覚書(二国間協定)締結のニュースや技能実習制度、EPA(経済連携協定)のイメージがあり、特定技能も採用可能な国が限定されていると思われがちですが、正確には異なります。

二国間協定は、特定技能制度というプロジェクトを円滑に進め・外国人を保護することを目的とした取り交わしです。

つまり、海外での特定技能試験の実施は基本的には締結国のみとなりますが、在留資格発行の国籍を限定している訳ではありません。日本在留者はその時点での在留資格に関係なく、特定技能試験と日本語能力試験N4等に合格すれば特定技能を取得することが可能です。実際、自国で試験が受けられないため、隣国で特定技能試験を受験する方もいます。

2020年4月1日から日本国内試験の運用ルールが変更され、受験目的で「短期滞在」の在留資格により入国し、特定技能試験を受験することが可能となりました。例えば台湾韓国の方が短期滞在ビザで日本旅行と合わせて特定技能試験を受けて合格し、特定技能外国人としては働くこともできます。

特定技能に関する二国間の協力覚書 締結国

国内在留者の採用は国籍の選択肢が広がる

先ほど、「日本在留者の場合、在留資格問わず特定技能試験と日本語能力試験N4等に合格すれば特定技能の在留資格取得が可能」と説明しました。しかし、在留資格「技術・人文知識・国際業務」などの高度人材が特定技能試験を受けて特定技能を取得することはごく稀です。

日本在留者を採用する際、以前は技能実習や留学からの在留資格変更者が多くを占めていたため、技能実習生が最も多く在留するベトナム国籍の方が多くを占めていました。
しかし、現在は特定技能の在留者が増加したことで、特定技能外国人の転職者が増加しています。
結果的に、対象の国籍が広がり、国籍の選択肢も広がっています。特にインドネシアやミャンマーの増加が顕著です。

【技能実習における国籍・地域別認定件数(構成比)】

国内転職者は海外在住者と比較して日本生活が長く業務経験もあることから、勤務地や給与などの希望が高くなる傾向があり、採用難易度も高くなります。
これに加えて国籍を限定すると採用難易度が更に上がり、なかなか雇用できなくなってしまいます。
また、よく企業の方が気にされるのは、残りの在留期間です。今後は特定技能2号への移行も目指せますし、こちらも限定せず、採用選考をすることをおすすめします。

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海外からの特定技能在留外国人数が増加傾向

次に海外からの入国の現状を確認しましょう。

日本の渡航制限が緩和されて以降、特定技能の新規入国者数は大幅に増加しています。
特にインドネシア、ミャンマーの増加が顕著で、これには海外現地での試験実施の状況が大きく影響しています。詳しくは後述致します。

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特定技能で採用できる対象者が多い国はどこか?

それでは、海外から採用可能な国・地域はどこになるのでしょうか。

海外試験合格者は増加、インドネシアとミャンマーが圧倒的

海外での試験合格者数を国別に見ると、インドネシアとミャンマーが圧倒しています。
次いでフィリピン・ネパール・カンボジアと続きます。

また、分野ごとに実施状況が偏っている点も見逃せません。以下は現在の試験の実施状況です。

■特定技能試験実施状況(2023年実施分)

※試験合格者数 ◎=1,000名以上 〇=500名以上 △=500名以下 ×=実施なし
特定技能在留外国人数の公表等|出入国在留管理庁を加工

全体的に介護・農業・外食業が進んでいるのに対して、試験がほとんど実施されていない分野もあり、そもそも採用できる分野が限定されている状況です。

インドネシアの介護職希望者は看護学校出身者や介護施設での研修経験者が多く、合格者も多く存在します。また農業も母国での農業経験者が多く、受験者が多数います。
ベトナムについては2021年を最後に試験は中断していましたが、2024年から農業・介護・宿泊・建設、自動車整備分野の試験が実施されているため、今後は合格者が増加すると予想されます。

日本語試験の実施状況と合格者数

特定技能の試験同様に重要な指標となるのが、日本語試験の実施状況と合格者数です。以下の表をご覧ください。

【日本語試験(JFT-Basic)実施状況(2023年実施分)】

こちらはJFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)の受験者数と合格者数です。海外在住の特定技能求職者の多くは実施回数の問題でJFT-Basicを受ける人も多いです。

表を見てわかる通り、受験者数と合格者数ではインドネシアとミャンマーが他国に大きな差をつけています。これは特定技能試験の実施状況において、インドネシアとミャンマーが進んでいることともリンクしています。

【平均点】

平均点では、ミャンマーとインドネシアが1,3位を占め、合格者の人数だけでなく、日本語能力も他国と比べて高いことが分かります。これは現地の送り出し機関や教育機関の日本語教育が熱心なことが理由で、会話力においても他国と比較して高い傾向です。

ベトナム一強時代は終焉に…インドネシアやミャンマーの台頭

特定技能の在留者数は、ベトナム一強時代を経て、現在はインドネシアやミャンマー、ネパールなどの東南アジアの在留者が増えています。これはベトナム人在留者の増加率が横這いであることに加え、インドネシアやミャンマーから新規在留者数増加していることが要因です。

ベトナム国籍の特定技能外国人の多くは技能実習からの移行でした。ベトナム現地の賃金水準が上昇しているうえに円安の影響で送金額が目減りしてきたことや、コロナ禍の入国停止、技能実習制度が廃止になることなどの影響を受け、ベトナム人在留者の増加率が横ばいとなりました。
2024年から現地試験がスタートしたものの、他国と比べるとベトナム現地での特定技能試験実施が遅れていることから、ベトナムにいる特定技能の要件を満たす外国人は少なかったと予想できます。

一方、増加傾向であるインドネシアは、技能実習生が多いだけでなく現地での試験が活発に行われており、新規入国者数が著しく増加しています。
同様にミャンマーも新規入国者数を増やしており、いずれ国内在留者数もベトナムより多くなる可能性があります。

このように、コロナ禍を境に特定技能外国人の国籍の割合は転換期を迎えており、どの国から外国人を受け入れるべきかについても、コロナ禍以前とは状況がかなり変わってきたと言えるでしょう。

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それぞれの国の法令や明文化されていないガイドラインの存在

特定技能に限らずではありますが、国民が海外で労働するにあたって多くの国で法令やガイドラインが存在します。当然受け入れる国の法令は重要ですが、送り出す国も大事な国民を守る義務があります。
しかし、この現地法令やガイドラインは国ごとに異なっているだけでなく、明文化されていない場合もあり、情報が錯綜しています。

外国人が日本に渡航して労働する場合の本国での許可や手続きなどの流れについては出入国在留管理庁から情報が提供されていますが、実際のルールが十分に記載されていない部分もあるため、知らず知らずのうちに法令違反を犯してしまうこともあり注意が必要です。

国の法令・ガイドライン(2024年9月末時点)

ここからは、筆者が実際に現地エージェントから見聞きした法令やガイドラインについて国別に解説していきます。

インドネシア

<ポイント>

インドネシア政府のポータルサイトでマッチングする仕組み、もしくはインドネシア政府許可の職業紹介事業者(P3MI)を利用

インドネシアは、インドネシア政府が立ち上げた特定技能ポータルサイト「労働市場情報システム(IPKOL)」にインドネシア現地求職者と日本企業が登録してマッチングを図る仕組みがあります。全てネイティブ言語のみの対応となっています。
インドネシア現地在住者を採用するには、IPKOLのマッチングシステム、または、技能実習やその他在留資格を含めた総合的な人材紹介ライセンスである「インドネシア人海外労働者派遣会社許可(P3MI)」を持った送り出し機関を利用する必要があります。

しかし、IPKOLは実際のところはあまり機能していません。採用担当者がインドネシア語を駆使してIPKOLを通じて求職者とやり取りすることができたとしても、その後の来日の現地手続きを、求職者本人が遂行することは非常に難しいためです。実態としては、企業はP3MIを所持する送り出し機関を利用する場合が多いと予想されます。

注意が必要なのは、P3MIと技能実習生の派遣許可は別物という点です。インドネシアの送り出し機関から受け入れる場合はP3MIを持っている会社でなければ現地法令違反になるので、気を付けましょう。

【インドネシアの情報を併せて読むならこちら!】
日本で働くインドネシア人が増加中なのはなぜ?直接聞いてわかった理由と日本企業に求めること|外国人採用サポネット
現地取材!インドネシアの特定技能「介護」の外国人はどんな人材?|外国人採用サポネット

フィリピン

<ポイント>

フィリピン側の認定送出し機関と「直接契約」が必要
MWO(在東京フィリピン共和国大使館又は在大阪フィリピン共和国総領事館の移住労働者事務所)への書類提出と審査。
受入機関の代表者の方又は委任された従業員の方は、MWOに赴き、労働担当官による英語での面接を受ける必要がある

フィリピンについては日本在留・現地在住に関わらず、フィリピン人を雇用する日本企業がDMW(旧POLO)に審査され、合格することが必要です。審査には雇用条件の基準をクリアすること以外に、東京もしくは大阪で英語による対面面接があります。

また、フィリピン側のエージェントと「直接契約」が必須です。日本側のエージェントが関わることは問題ありませんが、間に入る関係者が増えることで結果的に採用費用が大きく膨らむことがあります。この仕組みは国内在留者も同様に適用される点が他国とは異なる重要なポイントです。

日本に在留するフィリピン人を採用する際も同様の手続きを経ないといけないため、企業側はフィリピン人だけは特別な対応を行う必要があります。フィリピン側にも利益があり、また求職者を守る仕組みとしてはよく考えられていますが、手続きの難易度・手間がかかり、また基準が十分にオープンにされていない面があるため、採用側(企業)が敬遠するケースがあります。

詳細は以下の記事をご参照ください。

ベトナム

<ポイント>

ベトナム側の認定送出し機関と「直接契約」が必要
送出し機関経由でベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)で「推薦者表」の取得が必要

技能実習最大の送り出し国であるベトナムへの期待値は、特定技能創設当初から非常に高かったのですが、現地での試験実施はインドネシアなどに比べると大きく遅れをとっています。要因は定かではありませんが、技能実習制度で問題となっている求職者の多額の借金を排除したい日本側と、それによってベトナム企業に利益が増えないことを懸念するベトナム側との調整が難航しているためとも言われています。
結果的に求職者側の金額上限の設定と、日本企業から給与の1カ月分以上の費用を課すことがガイドラインでは定められました。

受け入れに関する現地ルールとしては、ベトナム現地から新たに入国する人を採用する際は、ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)から認定された送出機関と、ベトナム人を採用したい日本企業が、労働者提供契約を結ぶ必要があります。その後、DOLABから送り出し機関との労働者提供契約を承認されれば、日本企業は、採用したいベトナム人と雇用契約を結ぶことができるようになります。

また、DOLABに「推薦者表交付申請」を行い、推薦者表を取得する必要があります。この推薦者表がないと、日本に入国するために必要な在留資格認定証明書交付申請ができないため、忘れずに取得するようにしてください。
上記の手続きを自社で行えない場合、送り出し機関や仲介する人材紹介会社、行政書士などがサポートしてくれるかを確認しておきましょう。

ミャンマー

<ポイント>

ミャンマー政府から認定を受けた現地の送出し機関の利用が必須
送り出し機関経由でMOLIPにデマンドレター(求人依頼書)を提出、履歴事項全部証明書を在日ミャンマー大使館に提出

ミャンマーは東南アジアの中でも特定技能の期待値が高い国の一つですが、軍事クーデター以降は国内の情勢が安定しないため、この先いつまで出国ができるのか、現地採用の継続が不安視されています。一時的に出国ができない期間もありましたが、現状は試験も出国行われて、その数を増やしています。
法令・ガイドラインはありますが、その他の国と比較して企業側に多大な工数が発生することはないため、非常に魅力的な国です。

法令ガイドラインについては、ミャンマー政府から認定を受けた送り出し機関経由でミャンマー連邦共和国労働・入国管理・人口省といいます(MOLIP)にデマンドレター(求人依頼書)を提出し、履歴事項全部証明書を在日ミャンマー大使館に提出するという流れで受け入れを行うことが定められています。

また、 特定技能外国人として来日予定が決まったミャンマー人は、MOLIPにOWIC( Overseas Worker Identification Card )というスマートカード発給の申請を行う必要があります。

特定技能人材はどこの国から採用可能なのか

まず、国内在留者については特定技能の転職者が中心となるため、国籍の選択肢は増えました。現在急増している国籍はインドネシアやミャンマーです。
そのため、ベトナム人含め国籍不問で採用を進めることをおすすめします。

そして現在主流になりつつある海外在住者の採用についてですが、現地での試験実施状況は国によって大きな差があります。二国間の協力覚書を締結済みの国でも、試験が未実施の国もあります。
また、特定技能の分野ごとの試験や日本語試験の実施状況も大きく影響しており、インドネシアやミャンマーのように海外試験合格者が増加している国からは多くの人材を募集することが期待できるでしょう。この二国については、今後、国内採用も海外採用でも特定技能の主流になっていく可能性が高いです。

とはいえ、国によってガイドラインが異なり、それぞれの国を得意とする日本側のエージェントが存在します。直接現地エージェントからの案内もあると思いますが、法令違反なく採用するには、現地の法令を企業が調査したり法令・ガイドラインへの対応について信頼のおけるエージェントに細かく依頼して確認してもらったりすることをおすすめします。

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