日本で働くベトナム人急増の背景と理由とは?

前回の記事ではなぜ海外で働くベトナム人が多いのかを解説しましたが、今回は日本に焦点を当てて、日本で働いているベトナム人が近年急増している理由、彼らが何故日本で働きたいのか、仕事を選択する際にどのようなポイントに注目するのかを自分なりの観点から述べていきます。

ベトナム人は日本で様々な在留資格を持って働いていますが、もっとも多いのは技能実習生、その次留学生のアルバイト(資格外活動)、就労ビザ人材(技術・人文知識・国際業務)のような専門や技術分野のビザを持っている人材になります。今回はこの3つの人材にフォーカスして分析していきます。

日本で働くベトナム人が急増

厚生労働省が発表している『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』によると、外国人労働者は166万人にのぼります(2019年時点)。そのなかで最も多いのは中国人ですが、近年ベトナム人が急増し、ついにベトナム人と中国人の数がほぼ同数になりました。前年比の増加率はベトナム人が最も高く、2018年は31万人だったところ2019年は40万人以上にまで急増しています。

ベトナム人就労者を在留資格別にみると、技能実習が19万人とベトナム人就労者の中の実に48%を占めています。次いで多いのが資格外活動(9割以上が留学生)13万人、専門的・技術的分野の在留資格が約5万人(うち技術・人文・国際業務が4万5千人)です。

日本で働くベトナム人が増えている背景

日本で働くことを目指して日本語学校に通う学生

前回の記事で述べたように、海外で働くベトナム人から家族への送金がベトナム経済の一部を支えており、政府としても労働者輸出国を目指し、海外への労働者送り出しを促進しています。また、多くの日系企業がベトナムに進出しているため、日本での就労を希望しているベトナム人は毎年増え続けています。ここでは、「技能実習生」「留学生」「就労ビザ」の3つに分けてなぜ日本で働くベトナム人が増加しているのかを解説します。

技能実習生の増加理由

日本は恒常的な人手不足により、近年建設現場や製造工場など様々な分野で外国人材を受け入れないと労働力を維持できない状況に陥っています。1993年に制度化された「外国人技能実習生制度」は2017年に改正され、介護などの職種追加、優良な監理団体・実習実施者に対しては実習期間の延長や受入れ人数枠の拡大などの制度拡充が行われました。また、本来最長で3年だった実習期間は5年に延長され、技能実習生に長く日本で働けるチャンスを開きました。

以前は技能実習生の大半は中国人でしたが、中国の急速な経済発展よって富裕層や中間所得層が増加したことにともない、日本へ稼ぎに来る中国人技能実習生の人数が近年減少しています。その欠員を埋めるために多くの日本企業はベトナム人技能実習生を受け入れるようになりました。このように技能実習制度の拡充や中国人技能実習生の減少を背景にベトナム人の技能実習生が増加しています。

留学生の増加理由

2008年7月29日に日本政府が「留学生30万人計画」を公表し、留学生のビザが緩和されたのがきっかけで、ベトナムをはじめ多くの外国人が日本への留学を志望しました。そして、留学生が日本で学べるように日本語教育機関、留学生の受け入れ体制が整った専門学校、大学も増えていきました。2019年には計画が達成され、31万人以上の留学生を受け入れました。

アメリカやヨーロッパ諸国で留学生のアルバイトが禁止又は時間が制限される一方、日本は資格外活動を申請すれば、留学生でも週28時間、休暇中は40時間アルバイトを行うことができます。日本に留学すれば学費と生活費の一部をアルバイトでまかなうことができるので、経済的に余裕があまりないベトナム人留学生にとっては好都合です。

また、多くの日本の大企業がベトナムに進出しているため、日本での留学後にそのまま日本企業に就職し、将来的にベトナム支社に戻って現地の幹部として働くことが留学生の理想でした。私も同じ夢を持って、日本へ留学しました。留学生ビザを利用して出稼ぎを目的に来日し、勉強に集中しない留学生も近年では増えているようですが、ここでは触れないことにします。

就労ビザ人材(技術・人文・国際業務)の増加理由

留学生が大学・専門学校を卒業後に就労ビザを取って企業に就職するので、当然就労ビザ人材も増えてきています。以前は海外から直接日本企業の求人に応募し、就労ビザを取得して日本へ働きにくる人材は少数派でしたが、ここ5年で徐々に外国人を呼び寄せたい企業が増え、日本での留学経験なく就労ビザを取得し、日本で働いているベトナム人も増えています。

日本への留学経験なく就労ビザを取得して日本で働く時は、現地法人がベトナム人を採用してから日本に転勤になった、または日本企業が技術力のあるベトナム人材を直接採用、というケースが多いですが、最近では技能実習生のマネージャーとして日本語力もありスキルもある人を技能実習生の受け入れと同じタイミングで採用するパターンも増えてきています。

ベトナム人が日本で働く理由とは?

ベトナム現地の日本語学校に通う学生たち

1.ベトナムは親日国

ベトナムはバイクが「国民の足」と言われるほどのバイク社会ですが、ベトナムで使用されているバイクは圧倒的に日本製が多いです。ホーチミンをはじめベトナム南部ではバイクを「xe Honda」と呼ぶほど日本製のバイクが浸透しています。また、ベトナムでは日本製品は高品質なことで有名で家電製品から化粧品まで多くの人々に支持され、信頼されているためベトナム人は日本に親近感を持っています。

加えて、日本からベトナムへODAなど国際援助が多いため、ベトナム人にとって日本は助けてくれた国という印象が強いです。また、ベトナムでは日本の漫画とアニメが浸透していることもベトナム人が日本に好印象をもつ要因の一つです。ドラえもん、ドラゴンボール、ワンピースなどを見て育っていた若者も少なくありません。

2.技術力の高い先進国日本で知識を学びたい

ベトナムは新興国で、自国の製造業とその裾野産業がまだ発展途上の状態です。原材料や部品の現地調達率がまだ低く、ベトナムに進出している多くの日系企業は世界中から製品の部品を輸入し、ベトナム工場で組み立てています。最近はベトナムブランドの自動車やスマートフォンが国内で開発・販売された例もありますが、それまでは国産ブランドの製品が多くありませんでした。そのため、日本で技術を勉強したいと思っている若者も少なくありません。

3.生活環境の良さ

日本は社会保障制度や企業の福利厚生制度が整っており、労働環境と生活環境がベトナムより優れています。そのような生活のしやすい環境も日本で働く魅力の一つです。日本では企業が従業員を健康保険に加入させることが当たり前ですが、ベトナムでは簡単には健康保険に加入させてもらえません。また、ベトナムには日本のように子どもが生まれた時に政府が補助する制度もありません。そのため、特にベトナム人女性は子供の教育環境、生活環境を気にしているため、空気がきれいな日本、教育制度がしっかりしている日本で働き、長期的に住みたい人と思う人が多く存在します。

4.給料の格差

私の感覚だと日本の新卒月給は約18~25万円ですが、ベトナムでは3万円前後です。もちろん、英語や日本語などの外国語スキルを持っていれば、給料は新卒でも上がっていきます。例えば日本語能力試験(JLPT)のN2程度を持っていれば平均より5万円~10万円以上の給料がもらえます。ただし、ベトナムの昇給率は日本と比べると割と高く、毎年5~10%の昇給が一般的です。また、比較的にスキルが高いと評価されているベトナムのITエンジニアはベトナム国内でもニーズが非常に高いため、給料も年々急上昇しています。5年~7年の経験を持つITエンジニアはベトナム国内で働いた場合でも15~20万円の給料がもらえます。ベトナムで働けば家賃も物価も安く貯金ができるので、わざわざ日本に働きに出ようとは思わない人がいるのも事実です。

そのため、全ての職種でベトナム人が海外で働きたいという訳ではありません。ただ、ベトナムで経験を積んだ人の給料が20万前後なので、新卒だと給料アップを狙って日本に行きたいと思う人もいます。

ベトナム人が日本で働く時に気になっていることとは?

最後に、ベトナム人が日本で働く時にどのような点を重視しているかをご紹介します。ベトナム人の採用を検討している方の参考になれば幸いです。

1.日本語の学習環境があるか

在日留学生の場合、彼らは数年間日本で生活しており日本語がある程度理解できるため、日本人社員ともコミュニケーションがとりやすいです。一方、海外から直接採用する人材の場合は、日本語を使用する環境で過ごしてないので日本語の会話はなかなか上達しません。私の場合もそうでしたが、ベトナムではN2相当レベルまでの文法・単語を勉強していても、会話するとなると緊張でほぼ話せません。ただ、日本に来てから日常生活を送ったりアルバイトをしたりする中で日本語を使用しないといけない環境ができたため、約6ヶ月間で日本語の会話が徐々に上達しました。

そのため、外国人を採用する際は彼らの日本語能力の低さで判断するのではなく、技術レベル・スキル、態度、やる気、今後の成長性や潜在性にフォーカスした方が良いと思います。日本語の会話力は来日後、コミュニケーションしやすく、学習ができる環境を整えれば、徐々に上達するはずです。企業によっては自社社員が日本語クラスを開いて、外国人従業員に日本語を教えるケースも見受けられます。

2.給与・福利厚生

ベトナム人が日本で働くにあたって、給料や賞与はもちろん、福利厚生も非常に重要です。技能実習生は最低賃金に近い金額で勤務しているケースが多いですが、新卒・既卒の留学生や就労ビザ人材を正社員・契約社員として採用する場合は日本人と同じ給料水準になります。外国人だから日本人より安く雇えると思ってしまうと優秀な人材を逃してしまいがちです。また、寮・家賃補助があり、交通費が出て、日本語学習制度や手当、研修制度が充実している企業はベトナム人に人気が高いです。

3.丁寧な指導やサポートがある働きやすい職場か

はじめて異国の地で働く、しかも仕事に対する要求が高い日本企業で働くと外国人の誰もが緊張し、不安しているでしょう。言葉の壁はもちろんですが、職場環境も一つの壁と言えます。多くの企業は即戦力を期待していると思いますが、丁寧な指導やサポートによって外国人でも働きやすい職場環境をつくることが非常に重要です。

私は大学生の時にベトナム人技能実習生の通訳としてよく企業に訪れていましたが、親切な対応をすればするほど彼らは恩を感じ、それを仕事で返そうとしてくれると感じました。ある中小企業の社長は私にこのように言いました。「彼らは母国を離れて、親から離れて日本に来て働いてくれるから、親の代わりに面倒見てあげないといけない。彼らに良くしてあげると自分の子供が将来外国に行く時にきっと誰かが良くしてくれるだろう!」

ベトナム人は家族を非常に大事にしているので、家族のように扱ってくれる人々や会社には期待に応えようと頑張ると思います。日本では仕事終わりや週末に職場の人との交流を好まない人も増えてきていますが、多くのベトナム人は同僚、上司との付き合いを大事にしています。毎月の食事会、誕生日祝い、週末のBBQなどを開催したらみな喜んで参加してくれると思います。ベトナムの企業は年に一度社員旅行にいくことが一般的で、社員旅行はチームの絆を深める場として重要な役割を果たしています。

 

4.明確なキャリアプラン・昇進プラン、会社のビジョンや将来の展望があるか

ベトナム人は向上心が高い人が多いです。特に技術職の人は単純なライン作業を嫌って、新しい技術、新しい仕事に挑戦したい人が多い傾向にあります。人によっては独創性が高く、新しい方法を見出すことで仕事の効率を上げることも多々あります。彼らに明確なキャリアプラン、昇進プランを示し、彼らに目標を与えてあげると一所懸命に努力してくれます。そして、会社のビジョン、将来の計画、事業の展望、彼らに期待している仕事、役割、ポジションを示してあげることも非常に重要です。

まとめ

日本で働くベトナム人が増加しているのはもちろん政府の制度や政治的な用地が影響していますが、やはり日本国内の需要とベトナム側の供給が一致したのが大きなポイントかと思います。彼らが日本へ行きたい背景はやはり日本とベトナムの給与格差です。そして日本との親近感や憧れ、日本で働いて豊な生活を手に入れたいという気持ち、が彼らの背中を押したのでしょう。

日本で働く際に気になる労働条件、職場環境等はベトナム人だけでなく、外国人に共通するポイントだと思います。彼らが日本で安心して働くには会社の福利厚生、キャリアビジョンだけでなく、会社全体が一体となって彼らを歓迎し、チームそして家族として受け入れることが根源にあるかどうかだと実感しています。