技能実習生とは?制度の問題点や受け入れ方法をわかりやすく解説

執筆者:

行政書士/武田敬子

「若い労働力」「頑張っている」「失踪が多い」「企業が違法な就労をさせている」など様々な評価を受けている技能実習制度ですが、昨今は有識者会議で制度の廃止案が出るなど話題となっています。しかし技能実習について正しく知っている人は意外と少ないのではないでしょうか?
監理団体などの技能実習斡旋先に任せっきりにするのではなく、採用担当者も制度をきちんと知って受け入れるのが理想です。

本記事では、外国人技能実習生とその制度、対応業種や監理団体や制度の問題点・注意点などについて、行政書士がわかりやすく解説します。

※技能実習制度は廃止となり、育成就労制度が新設されます。詳しくはこちらの記事で解説しています。

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技能実習制度とは

まずは技能実習制度の概要について見ていきましょう。

目的

技能実習制度は1993年に創設されました。その目的は、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下「技能実習法」)第一条により、以下のように定められています。

「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術または知識の移転による国際協力を推進することを目的とする」つまり技能実習は本来、海外への技能移転を目的としているため、「労働力として雇用するための制度ではない」ということがわかります。

最長5年しか日本に在留できない

「技能移転」が目的であれば長く日本に留まる必要性はないので、技能実習生は最長5年で本国へ帰る必要があります。つまり、技能実習は「永住」の取得ができない在留資格なのです。

ただ、コロナ禍で技能実習終了後も帰国できない技能実習生に対し特例措置があったため、5年以上いる技能実習生もいます。

受入れ人数の推移 2015年に急激に増加

令和3年末の技能実習生の数は,276,123人です。2019年の41万人をピークに以後2年は減少しているのは、新型コロナが大きな要因となっています。新型コロナの影響がなければ、引き続き右肩上がりだったでしょう。

2015年に急激に増加したのは 2013年に、2020年の東京オリンピックが決まり、関連施設整備が急務にもかかわらず、建設業界の高齢化および人手不足が原因だったためでしょう。同じころ、建設業に限りオリンピックまでの時限措置で「特定活動」ができたことからもわかります。

▼技能実習生の人数推移など詳細についてはこちら

「技能実習」から「特定技能」への移行が可能に

技能実習2号または3号を良好に修了することを条件に、技能実習から特定技能1号に移行が可能です。

技能実習から特定技能への移行の条件は、以下の2点です。

  • 技能実習2号を良好に修了していること
  • 技能実習の職種・作業内容と、特定技能1号の業務に関連性が認められること

メリットは、慣れたころに帰国しなければならなかった技能実習生に引き続き日本で働いてもらえること、人数制限がなくなること(介護・建設除く)です。

▼詳細は過去の記事をご覧ください

特定技能とは?技能習との違い

特定技能と技能実習制度の違いは4つあります。

1. 技能実習生は最長5年働けるのに対して、特定技能は最長10年

特定技能1号で5年、2号で10年以上働くことが可能です。現在特定技能2号は建設、造船の2分野のみですが、政府が他分野も2号の創設を検討しているという報道発表がありました。まだ予定ですが、特定技能に移行後、全14分野で10年間働ける可能性があります。

2. 技能実習は需給調整の手段として使われないが、特定技能は需給調整手段として使われる

したがって、特定技能の受け入れ人数は5年間で34万人という上限があります。

3. 技能実習は転職不可。特定技能は転職可能

特定技能は転職可能なので、技能実習時とは別の企業で受け入れることも可能です。

4. 異なる基本理念が定められている

技能実習法第三条では「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」という基本理念も定められています。

一方、特定技能の基本方針は「深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築する」と、技能実習制度の真逆をいくものです。

技能実習から特定技能への移行はできますが、この法律上の大きな違いのために、業種や仕事内容はほぼ同じなのに、異なる制度、仕組みとなり複雑化の原因となっています。

▼技能実習と特定技能の詳しい比較や、移行方法についてはこちらの記事で解説しています。

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技能実習生の在留資格

5年の在留期間のうち、1年目を1号、2・3年目を2号、4・5年目を3号といいます。

各号に移行する前の1年目、3年目にテストがあり、合格した場合のみ次の段階に進めます。ちなみに3号は、優良な一般監理団体のみに認められています。

監理団体とは、日本で技能実数生を受け入れて各企業に配属する団体のことです。技能実習生に日本語教育をしたり、技能実習が適法に行われているか企業を定期監査したりする役割があります。詳しくは後半の「監理団体とその役割とは」で説明します。

監理団体には「一般」と「特定」の2種類があり、通常「特定」のほうが優良に思えますが、技能実習制度では「一般」管理団体のほうが優良です。

実習期間が3年だと仕事に慣れたころに帰国になるので、実習期間が5年と長く設定できることは一般監理団体の大きなメリットです。

技能実習の要件

技能実習の主な要件は以下のとおりです。

  • 同一の作業の反復のみによって修得等できる技能ではないこと
  • 技能実習生の本国において修得等が困難な技能を習得すること
  • 18歳以上で、帰国後に本国への技能等の移転に努めること
  • 技能実習職種と同種の業務に従事した経験等を有すること

技能実習の対象職種・業種

2022年4月時点で85職種158作業があります。年々追加されていて、最近では外国人のインバウンド需要に対応するために「宿泊」が増えました。「そう菜製造」、「介護」「自動車整備」も比較的新しい職種です。

技能実習制度 移行対象職種・作業一覧(86職種158作業)

▼外国人介護士受け入れ施設のインタビュー記事はこちら

職種は建設、食品製造が多い

技能実習生の多い職種は、1位「その他」で、印刷、塗装、介護、宿泊などが含まれます。ついで2位「建設」3位「食品製造関係」となります。今現在の人手不足業種が一目瞭然です。

外国人技能実習制度について|出入国在留管理庁

受け入れ方法

受け入れ方法には、企業単独型と団体監理型があります。

企業単独型

企業単独型は、海外支店や海外の取引先がある場合のみ可能です。海外支店の従業員を日本本店に転勤させるような場合で、送出機関と監理団体を介す必要はありません。

団体監理型

一方、海外につてを持たない中小企業が技能実習生を受け入れたい場合のために、団体監理型が存在します。

団体監理型では、送出機関と監理団体が介在し、海外の送出機関が企業の希望する希望職種・人数の技能実習生を募集、選考、決定します。監理団体はそれらの技能実習生を日本で受け入れします。

技能実習生のうち、団体監理型での受け入れが98.6%を占めています(2021年末)。これは、日本の全企業数のうち99.7%が中小企業であることが背景にあります。

独立行政法人中小企業基盤整備機構より

企業が技能実習生を受け入れるには

企業は、受け入れようとする技能実習生ごとに技能実習計画を作成し、技能実習機構から認定を受ける必要があります。

また、技能実習生の待遇や受け入れられる人数などの基準に適合すること、労働法令、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法の順守も必須です。

受け入れまでの流れ

団体監理型の大まかな流れは以下のようになります(番号は下記の図に対応)。

  1. 企業は監理団体に技能実習生の人数等を申込む(図の④)
  2. 送出機関による応募・選考を経て技能実習生と雇用契約(図の⑥)
  3. 企業は外国人技能実習機構に実習計画認定の申請(図の⑦)
  4. 企業は実習計画認定後、出入国在留管理庁に在留資格の申請(図の⑨)

企業単独型は、送出機関と監理団体がすることを自社で行うことになります。

監理団体とその役割とは

監理団体は、技能実習の適正な実施や技能実習生の保護について企業をサポートします。主な3つのサポート内容を紹介します。

  1. 送出機関との連絡や技能実習計画作成の支援
  2. 認定された技能実習計画に従って適切に技能実習を行わせていることの確認。関係法令に違反していないことについて3ヶ月に一回、企業の定期監査を行う
  3. 技能実習生の相談に応じる

▼詳細はこちらの記事をご覧ください

監理団体にまつわる問題点

法律で決められた監理団体の役割を適切に実行していない場合、許可を取り消されます。許可を取り消された監理団体の処分理由を見ると、以下3つが主となっています。

  1. 契約の不履行について違約金を定めていた
  2. 訪問指導や監査を適切に行っていなかった
  3. 虚偽の報告書を技能実習機構に提出した

違約金をとるのは違法

技能実習は原則3年間という期限を定めた有期雇用契約で、その間は働き続けることが基本的に期待されます。それなのに外国人が失踪したら、送出機関はそれまでにかかった日本語教育や手続き費用などを回収できないため、失踪をした場合の違約金を定めたい気持ちもわからないではありません。

しかし、技能実習生の保護という観点から技能実習法では違約金を定めることを禁止しています。

きちんとした監理団体を選ぶ

監理団体は監理費用として毎月定額の報酬を企業からもらいますが、法律で定められている訪問指導や定期監査に来ないという企業の声を聞くことが時々あります。

一方、しっかりした監理団体もありますので、監理団体が3ヶ月に1回定期監査に来るかどうか、相談に真摯に乗ってくれるかを判断基準にするとよいでしょう。

団体監理型では監理団体によって得意分野、取り扱う国が異なります。技能実習機構に管理団体のリストがあり、検索できます。

◆ 近くであること
◆ 働かせたい業種を取り扱っていること
◆ 許可取り消し処分や改善命令などを受けていないこと

などを基準に選ぶとよいでしょう。

送出機関とその役割とは

送出機関とは、日本で働きたい外国人を海外で募集し、日本へ送り出す機関です。

送出機関は技能実習生候補者に事前講習を行い、監理団体の要望に応じて選考し、日本へ送出すために海外での必要な手続きを代行します。

送出機関にまつわる問題点

技能実習法で違約金を取ることは禁止されているため、対策として送出国との二国間取り決めにより、送出国による送出機関の認定、問題のある送出機関の情報共有など、悪質な送出機関の排除に努めています。

技能実習における課題と今後の見通し

最後に、筆者が考える技能実習制度、技能実習生の課題と今後について紹介します。

SNSの普及による課題

現在はSNSで実習生同士、また同国人同士が簡単につながり、給与額や待遇は筒抜けです。また不満を持つ技能実習生が不法就労に誘われるのもSNSを通してです。

なかには最初から失踪する予定で来る悪質な実習生もいますが、大半は「残業があると聞いていたのに残業が少ない」「もっと賃金が高い仕事がある」「仕事がきつい」などの理由で失踪します。ただ、失踪しても賃金が高いと言っていたのに違ったと言って戻りたいという技能実習生もいます。

対策として、企業は実習生面接時、仕事のきつさや残業時間の多さなどを適切に伝えるよう監理団体に依頼すること、SNSの情報が正しいとは限らず、失踪すると在留資格取り消しの対象となること、会社が外国人を仲間、あるいは我が子と思って大切に扱うことが挙げられます。

最初は反発していた技能実習生が、会社側が悩みを聞いて一緒に解決してきたことで、態度がガラッと変わったという話も聞きました。

技能実習と特定技能の目的の違いによる煩雑さ

技能実習と特定技能は一本の線の延長上にあると考えます。実態はどちらも労働力不足の補填として使われているにもかかわらず、技能実習法の目的が実態と違う結果、煩雑な手続きとなっています。

日本語の習得はマスト

技能実習生の日本語習得レベルはN4くらいですが、もっと日本語習得に力を入れたほうがよいと考えています。日本語がわからないことで労災なども起こりやすく、意思疎通ができないことから失踪の一因になってしまうこともあります。

「多文化共生」と言いますが、ある程度の日本語の基礎があってこそ、互いの文化的差異を認め合うことができるのではないでしょうか。

ドイツが移民を多く受け入れた結果、分断社会を招いた反省から、移民にドイツ語数百時間の習得を義務付けた例もあります。

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