介護業界における外国人採用のリアルとは?施設に聞いた「外国人介護士の活躍」と「定着のコツ」
少子高齢化で「拡大する需要への対応」と「労働力不足の解消」というふたつの課題に直面している介護業界では、外国人材採用に活路を見出そうという動きが着実に広がりつつあります。
今回は、2年前から複数の施設で海外からの技能実習生を受け入れている社会福祉法人「昭徳会」の法人本部事務局の纐纈(こうけつ)純司さんと、技能実習生受け入れのきっかけをつくった同法人「特別養護老人ホーム 安立荘」施設長の中村範親さんにお話をうかがいました。
昭徳会では現在、特別養護老人ホーム3施設、ケアハウス1施設の他、デイサービスセンター1事業所で、ベトナムとインドネシアから来日した技能実習生が活躍しているとのこと。外国人材を受け入れるまでの経緯から、具体的に取り組んだ受け入れの準備、そして定着のコツなど、様々な疑問について、纐纈さんと中村さんのおふたりにお答えいただきました。
纐纈 純司 さん
社会福祉法人「昭徳会」 法人本部事務局 人事課長
同法人における「外国人雇用推進委員」のメンバーを務める。高浜地区における技能実習生受け入れでは、受け入れ準備や書類作成など担当。ベトナム人技能実習生の採用時には現地へ行き、採用試験を実施した。
中村 範親 さん
特別養護老人ホーム 安立荘 施設長
昭徳会で初めて技能実習生の受け入れた特養 高浜安立荘で、施設長として現地での採用活動を含む受け入れ準備全般に関わったのち、2021年4月に特養 安立荘に異動。ベトナム人技能実習生、インドネシア技能実習生の採用にあたり、施設内の体制整備や実習生の住居確保、生活支援などに取り組んでいる。
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現場からの声が、外国人材受け入れの最初のきっかけに
―昭徳会様では特別養護老人ホームやデイサービスセンターなど、様々な施設で技能実習生を受け入れていらっしゃいますが、その最初のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
中村:私が以前に在籍していた特別養護老人ホーム「高浜安立荘」に、施設全体で取り組んでいた「自立支援介護(おむつ外し)」※の取り組みに特化した海外の人材を現場に迎えたらどうかという提案があったんです。
今後は日本人スタッフの採用がますます難しくなるという危機感は現場にもありますが、その時の提案はどちらかといえば海外の人材との交流や、ネットワークの構築を通じて、それぞれにとってメリットのある仕組みをつくりたいという、国際貢献色の強いものでした。私自身も共感できる内容でしたので、法人本部にもかけ合ってみることにしたのが最初のきっかけです。
※「自立支援介護」で水分、栄養、運動、排便の4つの基本ケアを繰り返し実践することにより、身体的自立、精神的自立、社会的自立の回復を図る取り組みのこと。特徴的な取り組みに「おむつ外し」、「歩行・排泄の自立再獲得」、「自力摂取の再獲得」などがある。
―外国人材を介護の現場に迎えることに不安はありましたか。
纐纈:それはやはりありました。様々なご利用者様と接する介護職では、きめ細かく、そして根気強いコミュニケーションが欠かせません。当初は技能実習生の日本語能力でその対応ができるのかが不安でしたね。
中村:言葉の壁の他にも、宗教や文化、生活様式の違いも心配でした。それらが現場にどんな影響をもたらすかについては、全く予測できていませんでしたね。
―それでも技能実習生を迎えた理由は?
纐纈:将来、介護業界の人手不足がさらに深刻化することは明らかですので、何か新しいことをやらねばという危機感があったのは間違いありません。今、技能実習生を受け入れることは、いずれ介護のあらゆる現場で外国人材の力が必要になる時などにも役立つ経験や知見を得ることにも繋がると考えていました。
当初の期待を大きく上回る活躍をみせる技能実習生たち
―現在、昭徳会様には何名の技能実習生がいらっしゃるのでしょうか。
纐纈:昭徳会の全施設合わせて、ベトナム出身者が7名、インドネシア出身者7名の計14名が活躍しています。
―最初に技能実習生を受け入れてみての感想はどのようなものでしたか?
中村:結論からいえば、技能実習生の活躍ぶりは当初の期待以上でした。非常に優秀なメンバーが集まってくれたので、日本語でのコミュニケーションにも全く支障はありませんでした。最初は心細さなどもあったでしょうが、業務や環境にもしっかり馴染んでくれ、今では技能実習生全員が現場にとって欠かせないメンバーになっています。
纐纈:一期生は皆さんベトナムからの実習生だったのですが、まだ新型コロナウイルスの感染拡大前でしたので、私も中村さんとともにベトナムを訪問し、直接面談を行いました。メンバーの選抜やテスト自体は現地の送り出し機関や監理団体が担当してくれたのですが、非常に厳しい基準で選ばれているようで、本当にレベルの高い人材ばかりで驚きました。私たちとの面接も、オール日本語で問題なく行うことができたんです。
中村:技能実習生は日本で働くという目標を持って、しっかり準備していますので、来日してからも業務や日本語学習などあらゆることに真剣に向き合う人が多いですね。挨拶などもきちんとしていたり、その生活態度や仕事ぶりには、日本人スタッフのほうが学んだり、刺激を受けることも少なくありませんでした。
―現在は技能実習生にどんな業務を任せているんですか。
中村:基本的には日本人スタッフとほとんど同じ仕事を担当してもらっています。ただし、あくまでも実習生という立場ですので、何かあればすぐにかけつけることができるような体制づくりには配慮しています。
―入浴介助など、具体的な介護方法などの指導はどのように行っていますか。
纐纈:環境や設備に違いがあるため、基本的には施設ごとに行っています。介護の仕事は実際に現場でやってみて覚えるのが基本ですので、研修もOJTが中心です。
中村:研修の内容も、日本人の未経験者の場合とほとんど変わりません。むしろ技能実習生の場合は、送り出し機関や監理団体などで介護についても基本を学んでいるので、成長が早い印象があります。
―懸念されていた、施設の利用者と技能実習生のコミュニケーションに関してはいかがですか。
中村:全く問題はありません。多少、会話にたどたどしいところがあっても、丁寧に相手の意を汲みながら話をしてくれるので、ご利用者にもきちんと伝わっているようですね。
纐纈:一方、日報などの作成には苦労しているという声は、技能実習生本人たちからもあがってきています。細かい書式やルールを理解するのは、やはり難しいようですね。そのため各施設では、日報は日本人スタッフが書くといったそれぞれの役割分担が、自然とできてきています。
文化や信仰を尊重し、互いに働きやすい環境を実現
―外国人材の成長支援や働きやすさ向上のために、昭徳会様でとくに取り組んでいることはありますか。
纐纈:月2回、姉妹法人である日本福祉大学と連携して行う日本語教育講座を開いています。いずれの施設でも業務時間内に実施していますので、技能実習生全員に無理なく参加してもらうことができており、反応も上々です。
中村:言葉以外では、生活習慣や信仰などに合わせた働き方ができる環境やルールづくりにも積極的に取り組んでいますね。例えば、インドネシアからの技能実習生は、希望があれば「ジルバブ」と呼ばれる、イスラム教徒が使用する顔や身体を覆う布を着用してもいいことにしています。
実際に実習生と相談しながら生まれたこうした細かなルールは他にもいくつかあります。特に「ラマダン」と呼ばれる断食の時期の勤務においては、日本人スタッフの方から「勤務配慮をしてあげるべきではないか」との声が上がったことは、予想外の出来事でした。
纐纈:宗教関連でいえば、インドネシアにはイスラム教徒が多いのですが、その宗派によっては1日のうちに何度かお祈りをしなければいけないそうです。その時間は、ある程度自由に持ち場を離れることができるようにしています。日本人スタッフもそれぞれの生活様式や信仰を尊重してくれており、非常に協力的です。
また、技能実習生の方でも忙しい時間を避けたり、本来は昼と夕方に2回行うお祈りを1回にまとめて行ったりなどの工夫をしてくれているので、現時点では非常にうまくいっています。断食の期間などは日中の水分補給もできないということなので、大量に汗をかく夏場の入浴介助などは避け、別の仕事をしてもらうといった工夫も現場ごとに見られます。
中村:そのほか、技能実習生の悩みを聞くといった日頃のサポートやフォローも大切です。優秀とはいえ若いメンバーばかりなので、異国での暮らしに孤立感を募らせてしまうことがないよう、細かい部分にも気をつけるようにしています。
―技能実習生の側の反応はいかがですか?
中村:最初はやはり緊張もあったようですが、打ち解けてからは自分自身のことや日ごろの悩みなど、いろんなことを話してくれるようになりましたね。私にしてみれば子どものような年代の子たちなので、頼りにしてもらえると嬉しいですし、できるだけ力になりたいと思っちゃいますね。
纐纈:2020年はコロナのために中止でしたが、毎年開催されている「日本自立支援介護・パワーリハ学術大会」で、私たちの施設で活躍する技能実習生が学びたいことや今後の目標を発表してくれたことがあります。「故郷に老人や孤児のための施設を建てるために、日本で介護について学びたい」といった夢を聞いていると、私たちの取り組みも一人ひとりにとって役立っていると感じることができ嬉しかったですね。
今後は特定技能での外国人材受け入れも検討
―外国人採用に関し、今後の課題はなんでしょうか。
中村:現在は技能実習生のみの受け入れですが、他のスタッフの目が届かない場所での業務は任せることができないなど、様々な制約があります。フロアごとにチームを組んで業務にあたる特別養護老人ホームでは、どうしてもスタッフ一人だけになる時間帯も発生しますが、技能実習生の場合は一人で夜勤対応するといったこともできませんので、人員の配置には特別な工夫が必要になるという面もあります。
その意味でも今後は特定技能など、日本人スタッフと同じような働き方ができる在留資格での外国人材の受け入れも検討したいと考えています。
纐纈:技能実習は外国人材を受け入れるために何が必要かを知る大変いい機会になりました。ここで得た経験を生かしながら、国籍問わず、誰もがのびのびと働ける環境をさらに充実させていきたいと思っています。
特定技能では技能実習のような制約もありませんが、一方で外国人材も自由に転職できるので、人材の獲得や定着のための競争は激しくなることが予想できます。日本で働きたい海外の方に、より魅力を感じてもらうことができる職場環境をつくっていくのがこれからの課題ですね。
外国人材採用を検討している施設へのメッセージ
―最後に現在、外国人材の受け入れを検討中の介護事業者や介護施設のご担当者様へ、外国人材の採用について、お伝えしたいことはありますか?
中村:技能実習では十分なサポート体制を築くという意味からも、監理団体選びが大切です。実績をきちんと確認するのはもちろんですが、同じ地域で活躍している団体の場合は、地元からの援助も受けやすくなったりすることもありますので、様々な観点から最適なパートナーを選んでいただきたいですね。
纐纈:外国人採用で何よりも大切なのは、やはり実際に働いてくれる外国人スタッフときちんと対話しながら、働きやすいと感じてもらえる環境を実現することです。今はSNSなどを通じての評判が海外でもすぐ広まりますので、私自身、今働いているスタッフたちの想いにしっかり向き合っていきたいと考えています。
中村:ただ不足する労働力を補うという意識だけでは、やはりWin-Winな関係を築くことはできません。日本人か外国人かではなく、同じく介護に向き合う仲間として、誰もが働きやすさや働きがいを感じることができる職場づくりを目指していただきたいですね。
今回は昭徳会の纐纈さん、中村さんから介護の現場での「技能実習生の活躍」と「定着のコツ」についてお話をうかがいましたがいかがでしたでしょうか。マイナビグローバルでは「面接での外国人採用の見極めポイント」という資料も下記ボタンよりダウンロードできますので、こちらもぜひご覧ください。
※2021年6月16日インタビュー実施
▼インタビュー第2回目はこちらから