韓国人からみた現在の日本就職と、日本企業がこれから考えるべき採用戦略【前編】

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執筆者:

㈱マイナビコリア 代表取締役社長/柳楽 太郎

人材不足が深刻化し、外国人採用も一般化してきた昨今の日本企業では、日本語能力が高い国=韓国というイメージを持つ方が増えているのではないでしょうか。
韓国の学生は、競争環境を自身の成長の原動力にできるという特徴があります。
社会人として働き始めた後も、終業後に語学学習や語学のスコアUPに余念のない彼らを見ていると、日本と韓国の教育環境には大きな差があると感じています。

今回は、海外現地法人のマイナビコリアで代表取締役社長を務めている筆者が、韓国人からみた現在の日本就職について、日韓の就職・転職事情の違いを中心に、日本企業がこれから考えるべき採用戦略について、前後編の2本立てで解説したいと思います。

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韓国の新卒採用の市場

韓国企業の人事部門の方や現在40代後半以上の方に聞いた話を総合すると、かつて90年代頃までは、韓国でも財閥系などの大手企業を中心にある程度の枠を用意して採用し、入社後に集団で研修を行ってから現場に配属するという、日本企業のような新卒採用慣行もあったそうです。

ところが、1997年のIMF危機(※1)以降、景気の悪化とともに新卒採用の枠が減少してしまいました。それ以降も韓国の大学進学率は基本的に上昇傾向を続け、現在では新卒の入社は狭き門となり、企業にとっては新卒にも即戦力を求める環境が生まれています。

韓国経済研究院が発表した「2021年下半期新規採用計画」では、採用計画を立てている韓国の売上額上位500の大企業は32.2%に留まり、7割近い大企業が大卒の新規職員を選ぶ計画がなかったり、採用計画を立てたりすることができずにいると回答しています。

日本と韓国の求人倍率を比較してみると、2022年は日本が1.28倍に対し、韓国は前年比+0.15ptの0.65倍と、まだ日本の半分程度に過ぎません。韓国国内で就職することは日本と比較して難しいことがわかります。日本企業が韓国で新卒採用を実施すると、優秀な学生に比較的容易にたどり着きやすいのはこのためです。

※1:タイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落現象のこと

スペック就活と超大手志向

韓国の学生の就職活動は「スペック就活」と「超大手志向」が特徴です。

韓国では4年制大学の進学率が7割を超えており、幼少期から受験戦争を勝ち抜くために勉強を続けています。それは、書類に明記できる「学歴/語学スコア/大学の成績/海外経験/インターンシップ経験」というような数多くの項目を学生時代に獲得し、就活でアピールすることにつながっています。その中で、求められるスキルや雇用条件から企業を選択する傾向が強くなっています。

日本企業は個人の「パーソナリティ」や「意欲」を重視するため、韓国の学生に「日本では志望度や熱意が求められるよ」と伝えると、「抽象的すぎて良く分からない」と言われてしまいます。

超大手思考は、官僚や財閥系大手企業のことを指します。単純にブランド志向というわけではありません。

韓国では大手企業と中小企業の給与格差が大きすぎることが社会問題になっており、求人倍率が0.6倍前後という就職難の環境下でも、応募が財閥系大手に集中し、雇用ミスマッチの一つの原因ともなっています。このミスマッチに関しては、韓国ではキャリア教育があまり浸透していないということも原因の一つとして挙げられるかもしれません。

このような環境にある韓国の学生は、競争意識が強く、競争することで自身を成長させていきます。社会人になってからも向上心が高く、会社での仕事が終わった後も語学学習などの自己研磨に余念がありません。日本の学生や社会人と比べて教育環境に大きな差があると感じます。

韓国人にとって日本就職はどう見えている?

以前に比べて海外や韓国からの採用が難しくなっているのは事実です。

これには大きく2つの理由があり、1つ目は給与の差、2つ目は円安が影響しています。

日本企業は以前に比べて給与・待遇面においての優位性が薄れてしまいました。2016年に日本と韓国の平均給与は逆転して以降、その差は開く傾向にあります。(OECD調査)。韓国では新卒の採用も総合職採用ではなく職種別採用のため、入社時点での年収も職種ごとに異なります。

また、機電・情報系学生などのいわゆる工学系の学生が就職マーケットにおいて人気が高く、財閥系などの韓国大手企業は大幅に年収を上げることで良い学生を集めています。

韓国の大手ジョブサイトSaramin が2022年9月に行った1000大企業年収調査を見てみると、初任給が最も高い企業は1位が金融、次いで2位がIT(情報通信)、3位が製造・化学と理系分野が続いています。初任給が高い代表格と言える財閥系やNaver、KakaoなどのIT系大手は、理系学生に対して5,000万~6,000万ウォンの年収を提示することも普通で、日本企業が韓国の理系学生を採用することは給与面では難しくなっています。

これに追い打ちをかけているのが、円安の影響です。

かつては1円=10ウォンが一般的な日韓の為替レートでしたが、2023年10月~12月前半のほとんどは1円=8ウォン台後半で推移しました。例えば新卒初任給300万円の日本企業の年収を、仮に1円=9ウォンで韓国通貨に換算して考えてみると、かつては3,000万ウォンだったのが、現在では2,700万ウォンにまで下がり、韓国国内企業と比べてかなり見劣りしてしまうことがわかります。

このようにとくに理系学部卒の採用は以前より難しくなりましたが、実は、文系学部卒、特にサービス業を希望する人材の獲得においては、給与差がそれほどなく採用が可能です。特に、外食やホテル・宿泊業界では日本就職が人気です。外食業・宿泊業において採用を行いたい企業には、現在も狙い目であると言えるでしょう。

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実は、韓国の中小企業よりも給与額は高い

先ほど日本と韓国の平均給与額はすでに日本より韓国の方が高いと言いましたが、その詳細を見てみると多くは一部の韓国大企業が引き上げています。求人倍率が0.6倍前後という就職難の環境下でも、応募が財閥系大手に集中してしまっているのが実情です。

韓国の一般的な求人サイトや新聞記事に掲載されている新卒初任給(年収)は、中小企業で2,000万ウォン台(日本円で約200万円台)が大半で、前述した財閥系大手や有名IT企業だと5,000万ウォン台(日本円で約500万円台)を見かけます。その差は3,000万ウォン(約300万円)です。

一方、日本の賃金構造基本統計調査2020年によると、日本企業の大卒初任給は2,702,300円(※2)です。また、就職情報サイトにおける初任給額では、日本は韓国ほど大きな企業間格差がありません。

つまり、日本の企業は総じて韓国の中堅・中小企業よりは良い待遇を提示することが可能なことがわかります。先ほども解説した通り、理系学生に関しては日韓の給与格差が広がる傾向にありますが、文系学生においてはまだまだ日本の企業の初任給でも採用競争に勝つことができると言えます。

※2:企業規模10人以上、勤続0年、内訳:所定内給与12か月分+年間賞与その他特別給額。参考:初年度は年間賞与が少額だが、勤続1-2年で年平均3,394,000円に上昇。

日本就職を希望する韓国人はどんな人材か

では「日本で就職したい韓国人はいないのか」と言えば、そんなことはありません。未だに根強い日本就職人気は残っています。日本就職を希望するのは、元々給与に対するこだわりは少なく、以下①②③の目的を持つ人が多いといえるでしょう。

日本語を活かしたい

日本で生活してみたい

③ 日本企業で何かを学びたい

①日本語を活かしたい

韓国から日本就職を目指している人は日本語を得意とし、日本語を活かしたいと考えている人材が多いです。

韓国では高校からすでに第二外国語の授業があり、視野が海外へ向いています。元々、日本が好きになったきっかけは、漫画・アニメや映画などのポップカルチャーというケースが多いですが、就職も視野に入る大学生になると、本腰を入れて日本語能力試験(JLPT)等の日本語資格を取得するため、それを活かせる仕事の優先順位は高まります。

早期からの日本語の学習、日本文化へ慣れ親しんでいることなどから他国に比べて日本語能力は高い人材が多いでしょう。

②日本での生活経験を自身の経歴にしたい

2つ目は、日本での生活経験を活かしたいと考えている人です。

最近の日本では海外からの就職でも比較的在留資格が下りやすいことや、先輩たちの日本企業への就職事例も他国に比べて多いことから、自国の大学を卒業して就職するタイミングで日本生活を選ぶというケースも多いようです。

③日本企業で何かを学びたい

3つ目は企業での「学び」です。

学科系統別に考えた場合、例えば文系でサービス職を希望する学生だと、旅行で行った経験がある日本の接客マナーやおもてなしを学びたいとか、理系のエンジニア職を希望する学生だと、車や家電などの日本製品に親しみがあってその技術を学びたいとういケースが多いです。

ここまで韓国国内の採用市場や、日本就職を目指す韓国人について解説をしました。後編では、韓国人の採用をおこなうのであればすべき採用戦略について詳しく説明します。

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