韓国人からみた現在の日本就職と、日本企業がこれから考えるべき採用戦略【後編】
日本では深刻な人手不足問題が起きていることから、韓国人を採用したいと考える日本企業は現在も少なくはありません。
しかし、韓国国内の平均賃金上昇や円安などの影響で、以前より採用が難しくなっていることには留意する必要があります。
では、日本企業が韓国人を採用したい場合、どのような採用戦略をとればいいのでしょうか。
海外現地法人のマイナビコリアで代表取締役社長を務めている筆者が解説します。
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海外就職では知名度をあまり気にしない
韓国では、給与格差の問題から日本の大手志向と比べても圧倒的に財閥系大手企業に目が向いてしまう傾向があり、また家族からもこれら大手への就職を望まれていることが多く、知名度が非常に重要になってきます。
ところが、海外(日本)で就職をする場合は国内に比べて知名度に対するこだわりは強くない傾向が見られます。
マイナビコリアは毎年複数回韓国で日本企業の合同面接会を実施していますが、大企業が参加していない場合であっても、QSアジア大学ランキング上位に選出されるような大学の学生が多数参加しています。韓国の有名大学に通う優秀な学生を採用するチャンスが広がっているのです。
待遇改善や福利厚生のアピールは必要
とはいえ、日本と韓国の給与差は逆転傾向であるため、できるだけ待遇改善などのアピールはすべきでしょう。より優秀な人材を採用できる確率が上がります。
2023年初頭から日本国内でもようやく「賃上げ」が話題になり始めましたが、それでも諸外国よりは「上がっていない」のが実情です。海外からの採用に限って待遇を上げることは現実的に難しいかもしれませんが、手当や福利厚生を含めて改善できる余地があれば、海外にいる外国人の採用にとっては確実にプラスの要素になります。
では、どんな点がアピールになるのか見てみましょう。
年収額を提示
日本企業が見落としがちなのが、求人票などにおける給与面の表記の仕方です。
韓国では大半の企業が年俸制での給与提示となるため、求人票記載の年俸額(基本給以外に各種手当等も含めた金額)÷12=1ヵ月当たりの支給額と考えるのが一般的です。しかし、日本のマイナビをはじめとする就職情報サイトでは、初任給欄に「月給」表記をするのが一般的で、「諸手当」や「賞与」は月給以降の別項目に記載、金額内容も詳細が書かれていないため、実際は1年目にいくらもらえるのか、外国人の目線では分からない場合が多いようです。
韓国で就活する学生たちに聞いても、「月給×12=年収」と捉える学生がほとんどで、それも日韓の企業比較の上でマイナスの要素になり得ます。ここでは諸手当や賞与実績も含めて、1年目で受け取れる金額がどの程度になるか「サンプル年収」を提示できると魅力が伝わりやすくなるでしょう。
キャリアアップ(昇進、昇給)の可能性を提示
競争環境に慣れている韓国の学生は、成長意欲が高い場合が多く、キャリアアップに対しても前向きです。儒教の教えが根強い韓国社会では、やはり「役職」や「肩書」を求める傾向も強いと感じます。そのため、キャリアアップについて具体的に提示できると魅力的に感じてもらえるでしょう。
例えば特定の資格や試験合格で昇給する、昇進して役職につくことができるといったことです。
韓国学生からみると、日本企業は「年功序列、昇進がゆっくり」というイメージがどうしても強いのですが、国籍関係なく昇進・昇給のチャンスがあると言えるかどうかは、在韓日系企業や日本で働く上では大事な要素といえます。
勤務地や住宅関連補助があることをアピール
韓国で企業選びをする際には、勤務地はソウルが圧倒的に人気です。韓国には「インソウル」という、ソウル市内にある大学の総称を指す言葉があり、ソウルにある大学かその他の地方にある大学かで暗黙のヒエラルキーが存在しています。また、韓国のソウル市の中でも、例えば一等地と言われる江南(カンナム)にオフィスを構えるかどうかで、応募者数の増減や既存社員の存続に関わります。
来日して働きたいと考えている韓国人も同様で、日本の東名阪や大都市などのロケーションはやはり希望勤務地としての人気は高いです。それらの大都市圏には、自国の先輩の就職実績も多く、日本での生活を送る上でサポートになる要素が多いでしょう。また、大都市圏での勤務かどうかに関わらず、住宅関連の補助になる要素があるとアピールにつながります。
韓国ではこの5~6年における家賃の極端な高騰により、引っ越しも容易ではないという事情があり、居住や通勤に対して企業が補助をするケースが増えています。韓国から日本企業に就職してもらう場合も同様に、「住宅補助」「転居補助」のような福利厚生があると喜ばれます。
韓国人の離職率は高い?
日本人と比べて韓国人の離職率が高いのは大方事実ですが、韓国に限らず海外においては「転職」はネガティブなことではなく、多くは「キャリアアップ」という考えです。
労働政策研究・研修機構が発表する「データブック国際労働比較2023」によると、「平均勤続年数」の比較において日本は12.3年に対して韓国は5.9年と約半分です。仮に1人当たり平均30年勤務すると仮定した場合、平均転職回数は「日本は1人あたり2.5回」「韓国は1人あたり5回」転職するという計算になります。
マイナビコリアに所属する韓国籍社員によると「5社くらい経験するのは普通」という回答でした。転職=キャリアアップ(≒年収アップ)という欧米に近い雇用観を持つ韓国では、1社で長くという概念自体が薄いと言えるでしょう。
3年目と5年目に壁がある
日本で働き始めた後に、ネガティブな要素で転職や帰国を考えることも、もちろんあります。「3年目の壁」「5年目の壁」と私たちは呼んでいて、だいたい3年~5年くらいが帰国を考えやすいタイミングなのだそうです。
「3年目の壁」は、いわゆるホームシックに近いような状態が入社2~3年目でやってくるということです。
例えば韓国で働くかつての同級生たちと比べて自分の立場や成長が遅く感じられたりすると、寂しさに加えて転職を決意しやすくなります。入社当初から周囲に同じような環境の韓国人が多くいると安心感を得られるようで、社内外問わずに大学や出身地域の先輩後輩等が近くにいて、直接話せる環境を提供できると良いようです。また、同僚から積極的に話しかけてもらったり、私生活でも仲良くなったりすると定着につながるようです。
一方「5年目の壁」は、就労ビザ「技術・人文知識・国際業務」の更新のタイミングが影響しているようです。
ここでビザを更新するとまた数年は日本に在留できます。しかし日本人より高い年齢で新卒入社することが多い韓国人は、30歳前半位にあたるこのタイミングが、韓国に戻りたくなる時期と重なることは十分あり得ると思います。結婚や母国の家族のことなど、さまざまな事情が加わるでしょう。
これらのタイミングで適切にサポートができると、自社で長く働いてもらえるのではないでしょうか。
韓国国内の優秀な文系人材は採用できる可能性が高い
ここまで、韓国人からみた現在の日本就職について、日韓の就職・転職事情の違いを中心に解説してきました。
日本と比べると就職環境はかなり厳しい韓国ですが、だからこそ自身で身に着けた語学力を、海外就職・日本就職で活かしたいと考える学生が多く、日本企業にとってとくに文系の韓国人学生は、優秀な人材の採用に至る可能性の高い対象と言えます。
これから韓国籍人材の採用を検討される日本企業の皆さまも、このような違いを理解した上で、採用や育成にご活用いただければ幸いです。
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