企業が外国人留学生を採用する方法とは?正社員やアルバイトでの雇用方法を紹介!
日本政府は、外国人留学生の日本就職率を50%に引き上げることを目標として掲げています。しかし実際は、外国人留学生のうち65%が日本国内での就職を希望しているにもかかわらず、日本での就職を実現しているのは、わずか37%にとどまっています。
その理由として、外国人留学生にとって日本での就職活動の仕組みがわからないこと、そして、外国人留学生がこれまで身につけてきた知識や技能と就職先の業務の違いから就労ビザの取得がうまくいかない、ということが挙げられます。また、企業が外国人留学生を雇うには、主に、正社員とアルバイトの2通りがありますが、企業が外国人留学生を雇用する場合の方法も複雑です。
そこで今回は、企業が外国人留学生を正社員やアルバイトとして採用する方法をわかりやすく紹介します。
監修:行政書士/近藤 環(サポート行政書士法人)
在留資格に関するコンサルティング業務を担当。2019年に新設された「特定技能」も多数手がけ、申請取次実績は年間800件以上。 行政書士(東京都行政書士会所属 /第19082232号)
外国人留学生の日本での就職事情
独立行政法人日本学生支援機構の調査によれば、2021年5月1日時点で日本に在籍している留学生数は、24万2,444人でした。
新型コロナウイルスの影響で若干、減少傾向にありますが、ここ30年の外国人留学生数をグラフにしてみると、2011年以降、急激に増えていることがわかります。新型コロナウイルスの影響で留学生の入国が叶わず、ここ2年ほどは下降していますが、おさまれば再びこの傾向になるのは間違いないでしょう。
留学生数の推移(各年5月1日現在)
次に外国人留学生の出身地域を見てみましょう。2021年5月1日時点の「国地域別留学生数上位5か国」は以下の通りです。
特に外国人留学生数が多いのは中国とベトナムです。2021年5月1日時点の外国人留学生のなかで見れば、中国が114,255人と最多で、全体の47%を占めています。次に多いのがベトナムで、49,469人(構成比20%)です。
第3位はネパールですが、18,825人(全体の7%)と、中国やベトナムに比べると大きな差があります。中国とベトナムからの外国人留学生を合わせると、すべての外国人留学生に占める割合は67%となっており、この2カ国の間で日本留学の人気が高まっていることがうかがえます。
それでは、これらの外国人留学生は卒業後、どのような進路をたどっているのでしょうか。出入国在留管理庁が2020年12月に発表している「令和元年における留学生の日本企業等への就職状況について」によれば、外国人留学生が日本企業への就職を目的に、在留資格変更許可申請を行った数は、3万8,711人 (注)で、このうち3万947人が許可されています。申請数、許可数どちらも前年に比べて増加しており、申請数は前年比25.2%増、許可数は19.3%増となっています。
(注)就労資格のうち「特定技能」への在留資格変更許可申請は対象外
また、2020年における許可状況の国籍・地域別は、次の通りです。
- 中国 10,933人(前年比 647人、5.6 %減)
- ベトナム 6,582人( 前年比448人、6.4%減)
- ネパール 3,552人 (前年比39人、1.1% 減)
- 韓国 1,376人(前年比287人 、17.3%減)
- スリランカ 1,145人(前年比441人、62.6%増)
出典:令和2年における留学生の日本企業等への就職状況について|出入国在留管理庁
次に、在留資格変更を許可された外国人留学生が、実際に就職した業種別に見てみましょう。製造業に比べて非製造業が圧倒的に多く、卸売業・小売業が最も多くなっています。
外国人留学生の日本でのアルバイト事情
外国人留学生を雇用する方法のひとつとして、アルバイト採用があります。一体、外国人留学生はどれくらいアルバイトをしていて、どのような職業に就いているのでしょうか。
2021年6月、独立行政法人日本学生支援機構が公表した「令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要」によれば、全留学生のうち、70.4%の学生がアルバイトをしていると回答しています。
また、アルバイトの職種としては、軽労働の「飲食業」が全体の40.2%を占めており、続いて、「営業・販売(コンビニ等)」が33.0%、「翻訳・通訳」が6.3%となっています。
外国人留学生採用の3つのメリット
外国人留学生を採用することは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。ここで4つのポイントを挙げてみましょう。
(1)留学生活を経て、日本生活やルールに慣れている
外国人の労働力は、慢性的な労働力不足に悩む日本にとって、とても貴重です。しかし、海外から新たに外国人材を雇う場合、その外国人材が日本の文化や習慣になじむまで時間もかかります。
その点、外国人留学生なら留学経験を通して日本での生活やルールに慣れているため、すんなり労働環境に溶けこむことが期待できます。
また、留学前にビザを取得した経験や、留学ビザを更新した経験もあるため、在留資格の変更も初めて来日する外国人よりスムーズに行えるでしょう。
(2)母国語を活かした業務が可能
外国人留学生が卒業後に採用される職務として、最も多いのは「翻訳・通訳」です。「令和元年における留学生の日本企業等への就職状況について」によれば、「翻訳・通訳」としての就職を許可されたのが全体の約1/4という結果でした。
特に、海外企業と取引をしている企業や、これから進出を考えている企業にとって、母国語と日本語を話すことができる外国人留学生は非常に貴重な存在と言えるでしょう。
▶出典:令和元 年にお ける 留学生 の日本 企業等 への 就職状 況に ついて|出入国 在留 管理庁
(3)海外進出時の戦力となる
特に海外進出や海外での市場拡大を考えている企業にとって、海外の言語を母国語とする社員はとても貴重な存在となります。言葉だけでなく、その国独自の商習慣やビジネスマナーにも精通していれば、海外展開の大きな戦力となるでしょう。
▼外国人採用のキホンはこちらの記事でわかります!
外国人留学生を新卒採用する方法
いざ留学生を雇用するにしても、優秀な人材をどのように集めればいいかがわからない、という企業も多いのではないでしょうか。具体的に、外国人留学生を新卒採用する方法を紹介します。
在留資格の変更手続き 留学ビザから就労ビザへ
留学生を新卒採用する場合、まず、行わなければならないのが、在留資格の変更手続きです。留学生は「留学ビザ」を取得して日本に在留していますが、日本で就労する際には、留学ビザから就労を目的としたビザへ切り替えなければなりません。
ここでは、留学生が日本で働く際、取得をする就労ビザとして代表的な2つのビザについて解説します。
なお、「留学」から就労可能な在留資格へ変更するには、原則として、外国人本人が住所地管轄の地方入国管理局などで申請する必要があります。もし、3月に卒業後、4月から働きたいという場合は、入社3ヶ月前に卒業見込証明書を大学からもらい、入国管理局の審査を受けることが必要です。
留学ビザから技術・人文知識・国際業務へ変更
就労ビザのなかで、最も一般的なのが、「技術・人文知識・国際業務」です。頭文字をとって「技人国(ぎじんこく)」とも呼ばれています。これは、外国人が主に技術者やオフィスワーカーなどとして働くために必要なビザです。
出入国管理庁によれば、このビザを取得することにより、次のような活動ができる、と定義されています。
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動
出典:技術・人文知識・国際業務 | 出入国在留管理庁
該当例として、機械工学等の技術者、システムエンジニア、通訳、企画・営業・経理などの事務職、デザイナー、私企業の語学教師など、さまざまな職種が含まれます。
留学ビザから「技術・人文知識・国際業務」へ変更するために必要な要件は、なんといっても、「外国人留学生がこれまで学んできた知識や身につけてきた経験が、就労先で活かされるか」ということです。
そのため、単純労働をメインの業務として行うことは認められていません。
また、企業側は「労働条件通知書もしくは雇用契約書」などを、留学生側は「卒業証明書」などを用意する必要があり、企業の規模によって必要となる書類が変わるため、外国人留学生の採用を考えている企業は、早めに準備を始めることをおすすめします。
技人国への在留資格変更の詳細については、下記の関連記事からもご確認いただけます。
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留学ビザから特定技能へ変更
日本での就労を希望する留学生にとって、もうひとつの一般的な就労ビザが「特定技能」です。これは2019年4月に設けられた新しい制度で、人手不足が深刻な産業分野において、労働力の確保を目的として定められました。
特定技能が認められている分野は、以下の12分野です。
また、「特定技能」には、1号と2号の2種類があります。
特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
【特定技能2号】
特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
ただし、特定技能2号の受け入れが可能なのは現在、⑥建設 ⑦造船・舶用工業 のみとなっています。
そのほかの分野(介護以外の11分野)においても特定技能2号の拡大が予定されています。
「特定技能」は、「技術・人文知識・国際業務」のように、学歴と業務内容の関連性が求められません。ただし、「特定技能」を取得するには、試験に合格し、就労するのにふさわしい技術と知識を有しているか、証明する必要があります。また、日本語能力を確認する試験でも、規程の成績をおさめなければなりません。
いずれにしても、「特定技能」は外国人留学生側も企業側も準備しなければならない書類や手続きが複雑であるため、早めに着手することをおすすめします。
外国人留学生をどの在留資格で採用したらいいのかは、業種・職種や求職者の経歴などにもよるため、採用を初めて対応する場合は難しいかもしれません。人材紹介会社や行政書士などに相談することをお勧めします。
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外国人留学生をアルバイト採用する方法
次に、外国人留学生をアルバイト採用する場合の方法をみてみましょう。
留学生がアルバイトをする場合、留学生は「資格外活動」の許可を法務省に申請し、許可を得る必要があります。
「留学」は、本来勉強をするための在留資格であり、原則的に、働くことを禁止されています。そのため、留学生が労働をするには、新たに許可を申請する必要があるのです。アルバイトとして採用する場合は、留学生が資格外活動の許可を保持しているか、しっかり確認しましょう。
外国人留学生を採用する際の注意点
外国人留学生を採用する場合、企業はどのようなことに注意すればいいのでしょうか。
注意を怠ると、企業側に罰則が加えられることもあります。ここでは企業が注意すべきポイントをお伝えします。
採用前に在留資格の確認を行う
大前提として、日本で居住できる外国人は、すべて在留カードを持っています。在留カードには、「技術・人文知識・国際業務」「特定技能1号」などのほか、「永住者」「日本人の配偶者等」など、さまざまなものがあります。大事なことは、すべてのカードに有効期限が記載されているということです。※ 期限の年数は在留資格により異なりますが、その期限を超えて日本に滞在することはできません。
近年、在留カードを偽造し、不法に日本で滞在する外国人も増えています。外国人を雇用するときには、在留カードの期限を確認するのはもちろんのこと、偽造されたものでないかどうかも、しっかりチェックしましょう。偽造に関するもっと詳しい確認方法は下記の関連記事からご確認できます。
※永住者は在留期限はありませんが、在留カードの有効期限があります。
就労ビザまたは資格外活動許可の取得が必要
これまで述べてきたように、留学生のビザは勉学を目的としているため、本来は就労することができません。日本での就労を希望する場合は、「就労ビザに切り替えて正社員として働く」または、「資格外活動許可を取得してアルバイトとして働く」の、いずれかが必要になります。
留学生はアルバイトの上限時間に注意!正社員採用の場合も必ず確認
留学ビザの資格外活動許可申請をしてアルバイト活動をする場合、週28時間以内と上限が決まっています。長期休暇中などはその上限が少し伸びますが、留学生は過剰に働くことはできません。アルバイトを複数掛け持ちしている場合は、その合計時間となる点も注意が必要です。アルバイト採用を行う際は、就労時間に注意しましょう。
また、正社員として雇用する際は、就労ビザへの変更の前にオーバーワークになっていないかの確認を行いましょう。上限を超えてアルバイト活動を行っていた場合は、在留資格変更の申請の際に不許可となり、場合によっては帰国となります。
就労時間について偽ったとしても、雇用状況の届出や源泉徴収票などからオーバーワークが判明してしまうため、隠し通すことは難しいでしょう。
実際、留学生のオーバーワークによる在留資格変更不許可となる事例は少なくありません。その場合、採用選考のやり直しになったり、一度帰国して在留資格申請から始めることとなり、就労までに時間がかかります。企業側はきちんと確認を行うことが重要です。
受け入れ体制の準備を行う
外国人留学生は、日本での滞在経験が豊富であり、日本の文化や習慣にもなじみがあるとはいえ、日本で社会人として働いた経験はほとんどありません。そのため、留学生が日本のビジネス文化や習慣になじむよう、現場の社員は配慮する必要があります。社員と留学生が相互に理解を深め、お互いに働きやすい環境を整えることが大切です。
待遇面は日本人と同等にする
外国人留学生だからといって、不当に待遇を下げるのは違法です。日本では2020年4月から「同一労働同一賃金制度」が開始していますが、簡単に伝えると、同じ企業や団体で働く人は、正規雇用労働者と、それ以外の人(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者など)の間で、不合理な待遇差があってはならない、とするものです。
これは外国人にも適用されており、日本人と外国人の間で、賃金の差があってはなりません。詳細については下記の関連記事からもご確認いただけます。
まとめ
新型コロナウイルスの収束とともに、再び経済活動がグローバル化の波に乗り、国際交流が活発化することが予測されます。
そうした時代に備え、外国人留学生を自社の正社員やアルバイトとして雇用する企業もますます増えるのではないでしょうか。雇用には複雑な取り決めやルールがあるので、まずはそれらを把握し、いつでも雇用に乗りだせるよう、準備しておくことが大切です。