建設業の外国人労働者雇用方法|人材不足を乗り切るには?在留資格と注意点を解説
技能実習や特定技能、一般就労、アルバイトなど、外国人を雇用する際には在留資格(一般的に「ビザ」と呼ばれる)の管理とその知識が欠かせません。
特に建設業では、間違った噂や勘違いが大きな問題につながることがあります。最近よくニュースなどで聞かれる外国人労働者の強制送還、雇用会社の書類送検なども、この在留資格の管理不備から生じていることが多いのです。
本記事では、人手不足に悩む建設業の採用担当者の方向けに、外国人労働者の雇用について基本的な知識や注意点を解説します。
目次
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建設分野で外国人労働者を採用するには
建設業ではこれまでも人手不足、高齢化が大きな経営課題になっています。その推移を統計資料でみると、建設業に従事している人数は1997年の685万人から2017年の498万人まで、この20年で187万人(約27%)減少しています。
建設業就業者の現状 技術者等の推移
また、国土交通省の「建設業の働き方改革について」(2019年10月)によると、建設業に関わる労働者の4人に1人以上が60歳を超えているとも言われています。日本の人口減少のもとで、この流れは今後さらに加速していくと思われます。
そこで最近では、建設業においても、外国人労働者の採用に積極的な事業者が増えてきました。以前からある「技能実習制度」に加えて、「外国人建設就労者受入制度」、そして新たに創設された「特定技能制度」の登場によって、建設業に従事する外国人労働者数は急激に増えてきています。
雇用にあたり、外国人は在留資格が必要
ただし、注意が必要なのは「在留資格」です。外国人労働者を採用する際には、日本人の採用の場合と異なり、在留資格の取得や管理が不可欠になります。在留資格によって、どのような仕事をどのくらいの期間できるのかが決まっています。また、在留資格は学歴や職歴など、本人の履歴や身分によっても取得できる資格が変わるのが特徴です。
万が一、在留資格に不備があると、外国人労働者本人は不法就労により退去強制(一般に「強制送還」と呼ばれる)に、雇用している会社も不法就労助長罪などの罪に問われてしまうことがあります。
このように在留資格は、外国人が日本に来て働くために必要不可欠で、取得していることが大前提です。しかし、現在ではさまざまな制度が入り混じってかなり複雑になっているため、採用担当者の方がすぐに理解することも難しいのが現状です。
ただし、建設業での外国人労働者の雇用に限っていえば、まずは下記の点をしっかりと理解しておくと基本的には安心でしょう。
建設分野で働ける在留資格とは
在留資格は約30種類あり、それぞれにできる活動(業務内容など)が違います。建設業の外国人労働者については、違法就労にならないようにするためにも、特に以下の3つの資格について留意する必要があります。
- 「技術・人文知識・国際業務」
- 「技能実習」
- 「特定技能」
また、このほかにも留学生のアルバイトを認める「資格外活動」、インターンシップやワーキングホリデーを認める「特定活動」などもあります。ちなみに、この2つは業務内容や労働時間に制限がある場合もありますので注意してください。
さらに、日本人と結婚している外国人の「日本人の配偶者等」や、日本に長く住むことを認められた「永住者」(「身分系在留資格」とも呼ばれる)という在留資格もあります。これらの在留資格の場合は、業務内容や労働時間に制限がなく、概ね日本人と全く同じように働くことができます。
このように、外国人労働者を採用・雇用するにあたっては、在留資格の種類をきちんと見極め、管理をしなければなりません。外国人労働者本人にとっても雇用する会社にとっても、法律上のリスクを避け長く働いてもらうためには、こうした知識がとても大事なのです。
建設分野で外国人労働者を受け入れるメリット
外国人労働者を受け入れることで得られる利点も多くあります。具体的に見ていきましょう。
人材不足の解消
建設分野で外国人労働者を受け入れるメリットとして、まずは「人材不足の解消」が挙げられます。
日本で働きたいという熱意のある若者を雇用することで、事業を長く続けていく可能性を広げることができます。外国人という点だけを見れば言語や文化の違いから多少の不便もあるかもしれませんが、「日本で働いてみたい」という意欲の高い若者がアジアを中心に海外にはたくさんいて、その多くはとても真面目で熱心な方々です。
建設業では労働者の高齢化も進んでおり、若者の雇用ができることも大きなメリットです。
社内の活性化
建設分野で外国人労働者を受け入れるメリットの2つ目として「社内の活性化」が挙げられます。外国人と一緒に働くことで日本人従業員の意識を高めたり、社内に新しい変化や刺激を生んだりすることがあります。
しっかりとコミュニケーションをとり、お互いの同じ部分を知り、違うところを認め合う「多文化共生」の考え方は、一緒に仕事や生活をすることで養われます。仕事の仕方や働き方の変化が激しいこの時代において、多様性や変化を受け入れることは今後さらに大切になってくるでしょう。
外国人雇用においても助成金の活用が可能で、国からの支援を受けながら雇用ができることもメリットでしょう。詳しくは以下の記事で詳しく紹介しています。
専門技術のある人を雇用するなら「技術・人文知識・国際業務」
では、ここからは個別の在留資格についてみていきましょう。まずは「技術・人文知識・国際業務」です。
技術・人文知識・国際業務は、すでに高度な知識や技術をもった外国人の在留資格です。その道のプロ、専門家や技術者というイメージです。外国人本人は、大学等を卒業した学位もしくは10年以上の職務経験などが必要とされます。また、雇用する会社も、その人がもつ専門の知識や技術を生かした業務内容で雇い、その知識や技術の高さに相応した金額の給与を支払う必要があります。
学位や職務経験などの正式な証明書が必要で、給与額は一般的に高くなりますが、即戦力として頼もしい従業員になります。技術職なら建築士や設計職、事務職なら法人営業や経理職、また現場監督など将来の幹部候補社員というケースもあります。
「技能実習生」を受け入れる場合の方法
一方、建設現場の作業にかかわる場合は「技能実習」を検討するケースが多いでしょう。その数は急激に増えており、ベトナム、中国などから40万人近くの技能実習生が日本に来て働いています。
技能実習制度は、若い外国人が日本の技術を学んだ後、母国でその技術を生かして経済成長につなげてもらうという国際貢献の一つであるため、原則3年(最大5年)までの滞在になり、定められた期間が終了すると帰国します。また、通常は監理団体(事業協同組合など)を通じて、日本語や日本文化・習慣の勉強とともにOJT(オンザジョブトレーニング)で日本の技術を働きながら学ぶプログラムです。
技能実習の手続きには厳しいルールがあり、多くの書類が求められます。ただ、実際は監理団体が十分に機能していなかったり、厳しいルールが守られていなかったりすることもあり、低賃金労働や長時間労働の問題において、世間から厳しい目が向けられていることも事実です。
最長5年で育成しながら雇用するなら「特定技能」がおすすめ
2019年4月に新しくできた在留資格が「特定技能」です。これは、特に人材不足が深刻な業種に限り、これまでは原則禁止してきた建設業や製造業などの現場作業を外国人労働者にも認めていこうとするものです。
建設業では、具体的には型枠施工、左官、コンクリート圧送、トンネル推進工、建設機械施工、土工、屋根ふき、電気通信、鉄筋施工、鉄筋継手、内装仕上げ、表装、とび、建築大工、配管、建築板金、保温保冷、吹付ウレタン断熱、海洋土木の19業種で認められています(2021年10月現在)。また、建設業の特定技能には、現在特定技能1号と特定技能2号が認められていて、1号の場合は通算で最大5年まで、2号の場合は更新回数に制限なく日本で働き続けられるようになります。
特定技能で働くためには、外国人労働者本人は同業種の技能実習(3年以上)を修了しているか、試験(建設分野特定技能1号評価試験および日本語能力試験N4級等)に合格している必要があります。また、雇用会社も、外国人労働者を受け入れる支援体制づくりが求められます。自社あるいは登録支援機関に委託するなどしてあらかじめ受け入れ支援体制をつくっておくことが大切です。
特定技能の手続きでは、出入国在留管理庁での在留資格手続きに先立って国土交通省の受入計画認定の申請が必要で、その際には建設業許可、協議会への加入、建設キャリアアップシステムへの加入、賃金支払いの適正などについても審査されます。
特定技能の建設分野に関する詳細は、以下の記事でご覧ください。
外国人労働者を雇用する際の注意点
外国人労働者を雇用する際に、特に注意していただきたい点を解説します。
特に「技能実習」や「特定技能」の場合には、会社側の受け入れ体制や法令遵守(コンプライアンス)がとても厳しく審査されます。労働関係・社会保険関係の法律についてはしっかりと検討して、あらかじめ体制を整えておくことが大切です。
給与は、最低賃金や同一労働・同一賃金を厳守
最も重要なのは給与の金額です。最低賃金や同一労働・同一賃金の遵守は必須です。外国人だからといって日本人と金額や待遇に差をつけてはいけません。
特に技能実習や特定技能においては、賃金、手当、各種控除の金額が一定期間ごとにチェックされます。そのほかの在留資格でも、外国人であることだけを理由にした格差は外国人差別となるため、認められません。
最低賃金や税金の支払いなど、外国人労働者の賃金で注意すべきポイントの詳細については、下記の記事をご参照ください。
労災に注意。言語の壁による事故も起きやすい
外国人労働者を雇用する際は、労働災害にも注意が必要です。事故発生率の高い建設業においては、労働災害に遭う確率も高くなっています。可能な限り、労働者の安全を図るためにも十分な対策が求められます。とりわけ安全指導・教育や各種安全マニュアルについては、外国人労働者にもわかるように外国語への通訳・翻訳、図表やイラストなどを用いた注意喚起、ていねいな説明や訓練の実施が重要です。
万が一、病気や怪我が生じた場合には、外国語対応可能な病院・診療所への連絡先を確保するなど、事前の準備もしっかりしておきたいものです。
文化や宗教、仕事観などの違いを相互に理解する必要がある
外国人労働者を雇用することは、最初は大変だと思われるかもしれません。日本人同士なら常識や当たり前だと思っていたことが、外国人労働者には上手く伝わらないという経験はよくあります。一つひとつ丁寧に説明したり、実際にやってみせたりするなどの工夫が必要かもしません。
それぞれに生まれ育った環境や文化が違えば、仕事観にも違いが生まれるのは仕方がありません。ただ、これを不便・面倒だと思わずにぜひとも前向きに捉えたいものです。「そんな考え方もあるのか」「何が同じで何が違うのか」「しっかりと伝えるコミュニケーションに工夫の余地はないか」など捉え方を変えれば、それが仕事の仕方やほかの同僚にもよい効果をもたらすことがあるとおっしゃる会社も多くあります。
まとめ
このように、建設業で外国人労働者を採用する場合には、日本人労働者を採用する場合と異なるいくつかの手続きや注意点があります。しかし、外国人労働者の採用が人手不足を解消し、さらに社内によい変化や影響をもたらすきっかけとなることもあります。
会社が仕事をしていく中で、人材はとりわけ大切なものです。外国人労働者特有の注意すべき点にはしっかりと留意しつつ、多様で豊かな労働環境を整えていきたいですね。