農業の人手不足問題と解決策|農家の未来と現状を考える

執筆者:

外国人採用サポネット編集部

日本の農業分野での危機の1つとして、人手不足が挙げられます。
この記事では、農業の人手不足の要因を詳しく解説します。

農業は機械などで効率化できる作業と、どうしても人間がやらなければならない作業があります。
人の手が必要な作業の、労力確保の手段にはどんな解決策があるのでしょうか。

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農業における人手不足問題の現状と背景

日本の農業における人手不足は、深刻な問題です。
農林水産省が発表した基幹的農業従事者(普段仕事として自営農業をしている人)の統計は、人手不足や労働力の高齢化の深刻さを物語っています。

【基幹的農業従事者(個人経営体)】※単位:万人、歳

 平成27年28年29年30年31年令和2年3年4年5年
基幹的農業従事者175.7158.6150.7145.1140.4136.3130.2122.6116.4
うち女性75.165.661.958.656.254.151.248.045.2
うち65歳以上114.0103.1100.198.797.994.990.586.082.3
平均年齢67.166.866.666.666.867.867.968.468.7
出典:農林水産省 「農業労働力に関する統計」基幹的農業労働者(個人経営体)

こちらの表から読み取れるように、基幹的農業従事者は年々減少の推移をたどっています。また、平均年齢においては高齢労働者の割合が多くなっていることがわかるでしょう。

このように、現状のままでは個人経営体の農業従事者は高齢化の一途をたどり、農業分野の労働人口は減り続ける一方です。

人手不足になる原因は大きく6つ

農業従事者の人手不足が進む原因は、大きく分けて以下の通り、6つあります。

  • 地方が多く、人口が少ない
  • 家族経営の農家でも後継者が見つからない・高齢化
  • 作業の繁忙期と閑散期の差が大きい
  • 新規就農のハードルが高い
  • 低所得な農家も少なくない
  • 労働環境が良くない

それぞれ、解説します。

①地方が多く、人口が少ない

そもそも、農業従事者が居住している地方の人口が少なくなっていることが挙げられます。

こちらのグラフをご覧ください。国勢調査のデータを使用し、西暦2045年の農村地域人口と、農業を労働の中心としている、いわゆる「農業集落」の構造の変化を予測したグラフです。

【農村地域人口と農業集落の予測結果】

出典:「農村地域人口と農業集落の詳細予測結果について」|農林水産政策研究所

このグラフからは、いずれも日本の人口は減少をたどり、なおかつ都市部(都市的地域)の人口減少より農業地域の人口減少のほうが著しいという予測が読み取れます。

このように、まず農業地域の人口が減っていくことが、農業の人手不足の一因となっています。

②家族経営の農家でも後継者が見つからない

後継者が見つからないことも、農業の労働人口の減少に拍車をかけています。

下記のグラフをご覧ください。
全国各地、7割の農家が、5年以内に農業を引き継ぐ後継者を確保していないという調査結果がでています。

【後継者確保状況】

また、後継者不足は農業従事者の高齢化も招いており非常に深刻です。
農林水産省が発表している統計の平均年齢に注目してください。

【基幹的農業従事者(個人経営体)】※単位:万人、歳

 平成27年28年29年30年31年令和2年3年4年5年
基幹的農業従事者175.7158.6150.7145.1140.4136.3130.2122.6116.4
うち女性75.165.661.958.656.254.151.248.045.2
うち65歳以上114.0103.1100.198.797.994.990.586.082.3
平均年齢67.166.866.666.666.867.867.968.468.7
出典:農林水産省 「農業労働力に関する統計」基幹的農業従事者(個人経営体)

平均年齢に注目すると、農業従事者は高齢化していることがわかります。

③作業の繁忙期と閑散期の差が大きい

繁忙期と閑散期の差が大きいことも人手不足を招く要因の一つです。この「差」とは、「収入」と「働く時間」の差のことです。

収穫期など、忙しいときは手が回らないほど忙しいにもかかわらず、冬などの閑散期は人手が余り、労働時間や日数が少なくなるなどして収入が減ることも農業従事者にとっては負担となっています。この繁忙期と閑散期の差は、通年で働きたい人の壁ともいえるでしょう。

④新規就農のハードルが高い

繫忙期と閑散期の労働力・収入の差は、新規就農のハードルも高めています。
この場合の「新規就農」とは、農業の仕事に就くことを指します。

農家に就職をしたい人の場合、安定した収入を得るために、他の業種と同じように通年雇用を求めています。しかし、先に述べたとおり、農業には繁忙期と閑散期があり、人材が必要な時期に差があります。繁忙期のみ人手が欲しいからとアルバイト雇用が多くなれば、新規就農を希望する人達は就職ができず、また、新規就農者がふえないことから労働者の高齢化も加速するという悪循環も生まれてしまいます。

⑤低所得な農家が多い

2022年版農業法人白書によれば、全国の農業経営者の売り上げは、87%が1,000万円未満となっています。以下のグラフをご覧ください。

【売上規模】

このように、全国の農業経営者の売り上げは高いとはいえません。一方で、法人経営体は1億円以上の売り上げがあることも読み取れます。
農家では水道光熱費や肥料代などの維持費がかかることから、収益が低いと経営はかなり厳しくなります。

労働環境が良くない

農業従事者には「時間外労働」がないので、労働環境が他業種に比べて良いとはいえないイメージがあることも、人手不足の原因でしょう。

なぜ時間外労働がないかというと、農業には労働基準法で定められている休憩・休日に関する規定が存在しないので、法定労働時間の適用がないのです。「閑散期に十分休養をとることができるから」とされています。また、いつでも自由に休憩をとれる、とった理由も法定労働時間の取り決めがない理由としてあげられます。

さらに、家族経営だと休憩時間も曖昧になりがちです。労働基準法で定められていないため、経営者のさじ加減に頼ってしまうことになります。

農業における人手不足問題の解決策5選

農業における人手不足の解決策として、以下の取り組みがあります。

  • 農地の集約・規模の拡大
  • テクノロジーの導入でスマート農業へ
  • 法人の農業参入支援
  • 労働環境の改善
  • 外国人雇用など採用人材の幅を広げる

順番に説明します。

①農地の集約・規模の拡大

農地面積を特定の地域に集め、規模を拡大することで、農作業を効率的に進めやすくすることができます。

2014年に発足した農地中間管理事業を行う農地バンクは、地域に分散している農地を一括して借り受け、まとまった農地を農業の担い手に再配分しています。この事業により、連続した農作業が可能となった例があります。

②テクノロジーの導入でスマート農業へ

テクノロジーの導入したスマート農業も、人手不足の解消につながります。

農薬や肥料散布に機械やロボットを使用するなど、2022年版農業法人白書の調査結果ではスマート農業技術を導入している割合は72.4%と高い数字となっています。特に、稲作業種においては82.3%の農家が導入しており、テクノロジーの利用は人手不足の解決策の一案となっています。

③法人の農業参入

法人として農業に参入することに、農林水産省は下記のメリットがあると示しています。

  • 経営管理能力の向上
  • 対外信用力の向上
  • 経営発展の可能性の拡大
  • 農業従事者の福利厚生面の充実
  • 経営継承の円滑化

このようなメリットは、人材にとって安心感につながります。「ここならきちんと働けそうだ」と、就職の際に農業を選択肢のひとつとして考えてもらえるでしょう。このように、法人化として体制を整えることは、人材の呼び水となりえます。

④労働環境の改善

人材確保のために、労働環境の改善は欠かせません。
農業には時間外労働の適用はないものの、人材確保のためには労働環境をより良くする必要があります。労働環境を改善するためには、労働基準法で定めている以下の基準を明示するべきでしょう。

【労働条件に関する主な基準】

  • 労働条件の明示…書面またはファックス、メールで労働条件を明示する
  • 賃金の支払…原則的に、通貨で直接労働者に全額、1カ月支払うこと
  • 有給休暇…有給休暇を付与すること
  • 労働時間・休憩時間・休日…農業に関しては適用外だが、一定の基準を明示すること
  • 深夜の割増賃金…深夜に労働させた場合、通常賃金より割増すること
  • 解雇…30日前までに予告すること

また、確保した人材が労災・雇用保険や社会保険が適用される雇用形態・労働時間であった場合、各保険への加入手続きも忘れてはいけません。

外国人雇用など採用人材の幅を広げる

採用する人材に、外国人を含めることも人手不足の解消方法のひとつです。若い労働力として、外国人材が期待されています。また、日本人と比較して、地方においても採用がしやすいというメリットがあります。

2023年10月末時点の厚生労働省の調査(「外国人雇用状況」の届出状況まとめ)では、全産業の事業所において農業分野が占める割合は3.9%で、2.5%の外国人労働者が農業分野で働いています。

また、2022年版農業法人白書によると、外国人技能実習生を受け入れている企業は全体の25.5%、このうち、6名以上の技能実習生を受け入れているのは35.9%と、高い数字になっています。
農業分野では、すでに多くの企業や事業所が外国人を雇用しています。今後、技能実習制度から新制度である育成就労制度に切り替わる際、農業というカテゴリ内でどのような外国人材を受け入れすることができるのか、注目されています。

農業分野で採用できる外国人は?

農業分野で採用できる外国人の在留資格は、以下のとおりです。

  • 技能実習生
  • 特定技能「農業」
  • 留学生(アルバイトとして)
  • 日本人の配偶者などのいわゆる「身分または地位に基づく在留資格」

以上の4種類のうち、どれかの在留資格を持つ外国人材を雇用することができます。
ここではこれらの在留資格について、詳しく解説します。

技能実習生

技能実習生とは、技術や知識の移転による国際貢献を目的として、日本で実習を行うために在留している外国人のことです。

技能実習生の在留資格は「1号」「2号」「3号」の3種類で最大5年まで技能習得のための実習計画にそって実習を受けながら在留することができます。1号から2号、2号から3号へ移行する際には試験が行われ、5年の実習期間を終えると母国へ技術を持ち帰るために帰国をするという流れです。

1年目2年目3年目4年目5年目
在留資格技能実習1号技能実習2号技能実習3号
実習機関特定監理団体は3年一般監理団体

技能実習は行うことができる作業の分類が細かいので、決まった作業しかできません。しかし、収穫など決まった作業が多い農業では、貴重な戦力になってくれるでしょう。

一方で、特定技能「農業」は様々な作業を行うことができます。技能実習「2号」から特定技能「農業」に在留資格を変更することも可能です。こちらについては後ほど詳しく解説します。

技能実習制度は廃止となり、育成就労制度が新たに施行となる予定です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

特定技能「農業」の外国人

特定技能とは、人手不足である12の分野で就労可能な在留資格のことで、このうち特定技能「農業」は、農業分野で活動できる在留資格です。特定技能1号、そして最近追加された特定技能2号があります。

特定技能「農業」は「耕種農業」と「畜産農業」の2種類があります。試験が分かれているため、合格したほうの農業で就労が可能です。「耕種」と「畜産」の試験の両方に合格している場合のみ両方を兼ねることができます。

就労可能な業務が細かく決められている「技能実習」と比較すると、特定技能「農業」は幅広い作業をすることができます。
例えば、収穫の作業しかできない技能実習生がいる一方で、特定技能「農業」で働く外国人は収穫だけでなく肥料や農薬の散布もできる、といった具合です。

特定技能1号の要件

特定技能1号取得の方法は2種類あります。
一つは試験に合格する方法、もう一つは在留資格「技能実習」から移行をするという方法です。

【特定技能1号取得の要件】

  • 各分野の特定技能試験と日本語試験に合格する
  • 在留資格「技能実習」の2号を良好に修了し、移行対象分野の在留資格を移行する ※試験免除

特定技能の試験は「耕種」「畜産」の2種類あり、希望する仕事内容にあわせて受験し、合格したほうの農業で就労が可能です。「耕種」と「畜産」の試験の両方に合格している場合は両方の業務を兼ねることができます。
日本語試験は「日本語能力試験(JLPT)」か「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)」のいずれかを選択します。
要件の詳細は以下の記事で更に詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

農業は特定技能が主流に?外国人技能実習との違いや雇用方法を解説|外国人採用サポネット

2つ目の方法として技能実習2号から移行をする方法があります。

技能実習「2号」を良好に修了すれば在留資格を特定技能1号に移行することが可能です。
技能実習で担当していた作業と移行先の特定技能の分野が一致する場合に限られますが、2種類の試験も免除されます。

また、移行をすることで引き続き働き続けてもらえることはもちろん、業務は技能実習時代よりも幅広く任せることができるようになります。畑作・野菜の作業を担当していた技能実習生が特定技能「農業」へ在留資格を移行する場合、耕種農業全般を任せることが可能になります。

技能実習から特定技能への在留資格移行については以下をご覧ください。

特定技能2号の要件

特定技能2号「農業」は、2023年に追加された新しい在留資格です。
特定技能1号が最長5年の在留資格であるのに対し、特定技能2号「農業」は在留期間の上限はありません。在留期間の更新は必要であるものの、実質的に日本人と同じように雇用することができます。10年間の在留を経れば、永住権の取得も可能性があります。

特定技能2号「農業」の在留資格を得るためには、「2号農業技能測定試験」に合格する必要があります。「2号農業技能測定試験」も「耕種農業」と「畜産農業」に分かれています。
また、現場での3年以上の実務経験または、管理指導の2年以上の経験などが求められます。

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農業分野は派遣での雇用も可

繁忙期にのみ人手が欲しいというときに、派遣として特定技能「農業」の外国人に働いてもらうことも可能です。特定技能の外国人の派遣は、農業と漁業という繁忙期と閑散期のある2つの分野にのみ認められています。通常の特定技能外国人の雇用と同じように、幅広い働き方ができます。

特定技能「農業」の派遣について詳しく知りたい場合は以下をご覧ください。

留学生や配偶者

在留資格「留学」の外国人なら、条件付きでアルバイトとして働けます。
在留資格「留学」とは日本の大学や専門学校などで教育を受けることを認める在留資格です。教育を受けるための在留資格なので就労をするためには「資格外活動許可」を申請して認められなければなりません。
資格外活動とは、在留資格で認められている活動以外で、報酬を貰えるような活動のことを指します。耕種・畜産のどちらでも問題ありません。
ただし、留学生のアルバイトは週28時間以内と上限が決められているので、注意が必要です。

一方、日本人の配偶者や永住権を持つ、いわゆる「地位や身分に基づく在留資格」を持っている外国人は、日本人と同じように制限なく働くことができます。

留学生のアルバイト雇用方法については以下の記事をチェック

どの在留資格の外国人が良いのか

結局、どの在留資格の外国人が良いのかは、どんな風に働いて欲しいか、どんな業務を任せたいのかによって異なります。

正社員雇用で通年幅広く働いて欲しいのなら特定技能外国人をおすすめします。繁忙期だけ人手が欲しいのならば、特定技能の派遣や留学生アルバイトが良いでしょう。

特定技能外国人受け入れ可否診断

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深刻な人手不足は少しでも早く対策することが必要

農業分野における人手不足の現状と背景、そして解決策をご紹介しました。

農業分野の人手不足は、地方における人口減少と高齢化や、農業ならではの繫忙期と閑散期の差による通年雇用の難しさなど、複数の要素が絡み合ったものです。
人手不足の解決策には、農地の集約やテクノロジーの導入によるスマート農業などがありますが、労働力として期待が大きいのは、外国人などの採用人材の幅を広げることだといえます。
技能実習生の受け入れは既に様々な農家が行っていますが、幅広い作業を任せたい場合は、特定技能の外国人の雇用もおすすめです。