特定技能「建設」を徹底解説|建設業で外国人材を採用するためには?
特定技能「建設」を徹底解説|建設業で外国人材を採用するためには?
少子高齢化が進む日本では、今後、労働力の不足がますます大きな問題になっていきます。そこで政府は2019年4月、新たな在留資格である「特定技能」を設けました。特定の技能を持った外国人の就労制度が改められ、一定の技術を持つ外国人材が産業やサービスの現場で働けるようになりました。また、2022年8月30日付の業務区分の再編に伴い、建設関係の技能実習職種を含む建設業に係る全ての作業が新区分に分類され、業務範囲が拡大しました。
「特定技能」には12業種ありますが、その中から今回は「建設」を解説します。建設業における外国人材を採用するための要件や試験について詳しく説明します。
監修:行政書士/近藤 環(サポート行政書士法人)
在留資格に関するコンサルティング業務を担当。2019年に新設された「特定技能」も多数手がけ、申請取次実績は年間800件以上。 行政書士(東京都行政書士会所属 /第19082232号)
目次
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特定技能「建設」とは?
2019年4月、新たな在留資格「特定技能」が創設されました。これにより、建設分野では多くの外国人材が働けるようになりました。
特定技能は全部で12分野(2022年に14分野から再編)あり、外国人材が保持する技能レベルに応じて、特定技能1号と特定技能2号の二つに区分されます。
12分野のうち特定技能2号は「建設業」「造船・舶用工業」の2分野のみでしたが、2023年に対象分野が拡大、介護を除く11分野となりました。建設業分野では先行して既に特定技能2号に認定されている方がいます。また、2号の試験も先駆けて実施されています。
このように、1号と2号の両方が設定されているということは、特定技能「建設」は、他の業種に比べて外国人材を採用する可能性が高いといえます。在留資格「特定技能」で働くことができる職種について詳しく知りたい場合は、下記の関連記事をご覧ください。
特定技能1号と2号の違いは、以下『特定技能1号「建設」を取得するための要件』『特定技能2号「建設」を取得するための要件』で解説します。
特定技能「建設」が創設された背景
建設業は、とりわけ人手不足が深刻な業界です。2020年7月、ある民間調査会社がまとめた「人手不足に対する企業の動向調査」によると、従業員が不足している業種の第1位は「建設」でした。「正社員が不足している」と答えた企業の回答は51.9%にものぼります。
さらに人手不足だけでなく、建設業は高齢化も進んでいる業界です。総務省「労働力調査」を確認し、建設業の年齢層別で就業者数の割合を見ると、65歳以上の就業者は2009年には8.1%でしたが、2019年には16.4%に上昇しており、この10年間で急速に高齢化が進んでいることがわかります。
さらに、2019年における65歳以上の割合を産業別に見ると、「不動産業・物品賃貸業」「サービス業(他に分類されないもの)」「生活関連サービス業・娯楽業」に続き、建設業は4番目に高齢化が進んでいる業界です。
建設業界における人手不足と高齢化が深刻な理由としては、以下の理由が挙げられます。
- 過酷な労働環境を嫌がる人が多い
- 昔ながらの労働スタイルが、現在の若者になじまない
加えて、長く「売り手市場」が続いていたということもあり、とくに若者の「建設業離れ」が進んでしまいました。こうした現状を打破するため、有能な外国人材に働いていただく目的で、特定技能「建設」が創設されました。
特定技能「建設」で外国人材が働くことのできる職種
特定技能「建設」では、以下の3区分で外国人材を採用することができます。
もともとは11職種に分かれていましたが、2022年8月に以下の3区分に変更になりました。
- 土木区分
- 建築区分
- ライフライン・設備区分
型枠施工/コンクリート圧送/トンネル推進工/建設機械施工/土工/鉄筋施工/とび/海洋土木工/その他、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業
型枠施工/左官/コンクリート圧送/屋根ふき/土木/鉄筋施工/鉄筋継手/内装仕上げ/表装/とび/建築大工/建築板金/吹付ウレタン断熱/その他、建築物の新築、増築、改築若しくは移転、修繕、模様替又は係る作業
電気通信/配管/建築板金/保温保冷/その他、ライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業
例えば、これまで型枠施工の技能実習を良好に修了した方の場合は、土木及び建築区分に該当します。認定を受けた在留資格に含まれる工事であれば、現場の種類を問わず、従事することが可能になりました。
もし、実際に従事させる場合には、雇用契約上、業務範囲を明確にした上で、同等の技能を有する日本人と同等以上の報酬を設定する必要がありますので、注意してください。
なお、これらの業務は、特定技能1号と2号に共通する業務です。さらに特定技能2号では、建設現場において複数の建設技能者を指導することや、工程を管理する能力も求められます。
特定技能1号「建設」を取得するための要件
外国人材が特定技能1号「建設」を取得するには、どうすればいいのでしょうか。取得するための要件と、取得方法について解説します
特定技能評価試験と日本語試験に合格する
特定技能評価試験
特定技能12業種は、それぞれ独自に試験を行います。外国人材が特定技能1号「建設」を取得するには、国土交通省の定める「建設分野特定技能1号評価試験」を合格しなければいけません。試験の詳細は以下「建設分野特定技能1号評価試験」で解説します。
日本語試験
外国人材が特定技能1号「建設」を取得するには、日本語試験を受ける必要があります。 特定技能「建設」の外国人材は、「国際交流基金日本語基礎テスト」または、「日本語能力試験のN4以上」のいずれかに合格しなければなりません。試験の詳細は以下「日本語試験は2種類から選択」で解説します。
建設業分野の技能実習2号からの移行
外国人材が特定技能1号「建設」を取得するもう一つの方法は、「建設業分野の技能実習2号から移行する」というものです。
「技能実習2号」とは、1993年に導入された技能実習制度に基づき、一定の期間技能実習を行い、要件を満たすことで取得できる在留資格です。
今回、新しく「特定技能」の制度が整備されたことにより、外国人材は「技能実習」から「特定技能」へ、試験を受けずに移行することも可能になりました。
技能実習から特定技能への移行に必要とされる主な要件は以下です。
(2)技能実習での職種/作業内容と、特定技能1号の区分が一致
特定技能2号「建設」を取得するための要件
12業種ある特定技能のうち、特定技能1号と2号の両方がある業種は、建設業と造船・舶用工業の2業種のみです(2022年10月現在)。2022年4月に全国で初めて、岐阜県の中国籍男性が、建設分野の特定技能2号に認定されたことが発表されました。
特定技能2号を取得するには
外国人材が特定技能2号を取得する方法は、「1号からの移行」のみに限定されています(2022年10月現在)。
まずは特定技能1号を取得してから、建設分野特定技能2号評価試験又は技能検定1級に合格して2号に移行することになりますが、建設分野特定技能2号評価試験による移行は2024年度以降の開始で検討されています。
特定技能1号と2号の違い
特定技能1号「建設」は、建設分野に関する一定の知識や経験を要する業務を行います。一方、特定技能2号「建設」は求められるレベルが1号よりも高く、熟練した技能や経験が必要です。
たとえば、同じ土木業務を行うにも、次のような違いがあります。
- 1号……「土木(指導者の指示・監督を受けながら、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業等に従事)」
- 2号……「土木(複数の建設技能者を指導しながら、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業等に従事し、工程を管理)」
そのほか、特定技能1号と2号の間では、以下表のような違いがあります。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 1年・6か月・4か月ごとの更新 (通算5年まで) | 3年・1年・6か月ごとの更新 (更新の制限なし) |
技能水準 | 相当程度の知識又は経験を必要とする技能 | 熟練した技能 (各分野の技能試験で確認) |
外国人支援 | 必須。支援計画の策定実施は義務 | 支援計画の策定実施は不要 |
家族の帯同 | 不可 | 条件を満たせば可能 |
日本語能力水準試験の有無 | ある | ない |
試験の実施状況 | 国内外で実施中(2022年10月現在) | 2024年度以降の開始予定 |
もっと詳細な比較は下記の記事をご覧ください。
特定技能「建設」技能評価試験とは
外国人材が特定技能1号「建設」を取得するには、「特定技能評価試験」と「日本語試験」の、二つの試験で一定の成績をおさめる必要があります。
この記事では主に建設分野での特定技能試験について解説します。特定技能試験の制度や受験資格などについてはこちらの記事で紹介しています。
建設分野特定技能1号評価試験
現在、建設業においては外国人材の受け入れが認められているのは計3区分です。
2022年8月30日付の建設分野の特定技能1号の業務区分の再編に伴い、試験についても新区分で行われる予定ですが、詳細は未定です。(2022年10月現在)。
今後も、旧職種での試験が一部実施される予定です。新区分の学科・実技のテキストやサンプル問題が公開されていますので、参考にしてみてください。
問題数 30問
試験時間 60分
出題形式 真偽法(○×)および2~4択式
実施方法 CBT方式
合格基準 合計点の65%以上
問題数 職種毎に定める
試験時間 職種毎に定める
実施方法 作業試験、判断試験等から職種毎に定める
合格基準 職種毎に定める
建設分野特定技能1号評価試験の実施状況・申し込み先・開催日等はこちらの記事でまとめていますので、参考にご覧ください。
日本語試験に合格する
日本語の試験を行い、日本での就業や生活が可能な日本語能力を持っているか確認します。具体的には、日本語能力試験JLPTのN4以上、もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格する必要があります。
日本語能力試験(JLPT)
日本語能力試験のレベルは5段階で、基礎のN5から幅広い場面で使われる日本語のN1までがあります。N4は、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」レベルです。試験は通常、年2回開催しています。
国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
日本の生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定し、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定するテストです。試験は通常、年5回開催しています。
特定技能「建設」の外国人材を採用するには
特定技能外国人を雇用する企業のことを、「特定技能所属機関(受入機関)」と呼びます。建設業で特定技能外国人を受け入れる特定技能所属機関(受入機関)は、次の条件を満たす必要があります。
<建設業独自の基準> 国土交通省による建設特定技能受入計画認定を受ける
特定技能12業種の中で、建設分野だけは外国人採用の流れが異なります。
建設分野における在留資格「特定技能」での外国人材を受け入れるに当たり、受け入れ企業は外国人に対する報酬額等を記載した「建設特定技能受入計画」について、その内容が適当である旨の国土交通大臣の認定を受けている必要があります。その際、主な審査基準は以下のとおりです。
(2)特定技能外国人に対して、月給制により報酬を安定的に支払うこと
(3)建設キャリアアップシステムに登録していること
(4)1号特定技能外国人(と外国人建設就労者との合計)の数が、常勤職員の数を超えないこと
また、特定技能所属機関(受入機関)は、建設業の許可を取得するほか、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)またはJAC正会員の建設業者団体へ加入が必須となります。
<全業種共通の基準>支援体制の義務を果たす
業種別に設けられた協議会に加盟することは特定技能所属機関の義務です。そのほか、法令遵守、支援できる能力・体制を有するなど、特定技能所属機関となるための要件や基準が設けられています。
特定技能所属機関(受入機関)は特定技能外国人に対し、住居の契約の際に連帯保証人となるなど複数の支援をすることが義務付けられています。ただし、受入機関はこの支援業務を「登録支援機関に委託する」ことができます。
登録支援機関や委託について知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
特定技能「建設」外国人材受け入れ費用について
どのようなルートで特定技能1号外国人を雇用するかによって、費用相場は変わります。ただし、特定技能外国人は日本人と同等以上の給与設定が義務付けられています。
建設業界のみ特定技能1号を採用する際、受け入れ企業が毎月負担しなければいけない「受入れ負担金」が発生します。受入れ負担金はJACに支払います。また、JACまたはJACの正会員である建設業者団体への会費も発生します。
JAC正会員は年会費36万円、賛助会員は年会費24万円(ただし、登録支援機関については、契約企業数により異なる)、受け入れ負担金は海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受ける場合)が年額24万円、海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受けない場合)が年額18万円、国内試験合格者は年額16万5千円、試験免除者(技能実習2号修了者等)は年額15万円です。
そのほかに、登録支援機関委託費用も別途、発生します。
まとめ
人材不足と高齢化が進む建設業で、特定技能の外国労働者は、問題解決の大きなきっかけとなることが期待されています。特定技能12業種のうち、建設業だけに課されている要件も多いので、外国人材を採用する場合はとくに注意しましょう。