特定技能の支援「生活オリエンテーション」の目安は何時間?注意点や重要ポイントなども解説
特定技能1号外国人への義務的支援の1つに「生活オリエンテーション」があります。しかし生活オリエンテーションとして「何を、どれだけ」特定技能外国人に実施すればよいのか、わからないという企業担当者の方もいるのではないでしょうか。
ここでは、生活オリエンテーションにおいて特定技能1号の外国人に説明すべき事項、内容について、詳しく解説します。生活オリエンテーションを実施するときに、参考にしてみてください。
監修:行政書士/近藤 環(サポート行政書士法人)
在留資格に関するコンサルティング業務を担当。2019年に新設された「特定技能」も多数手がけ、申請取次実績は年間800件以上。 行政書士(東京都行政書士会所属 /第19082232号)
目次
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義務的支援「生活オリエンテーション」の目的とは?
特定技能1号外国人への義務的支援の1つが「生活オリエンテーション」です。この支援の目的は、特定技能外国人が日本でトラブルを起こすことなく、安定した生活を送ることです。
実施の目安は少なくとも8時間
生活オリエンテーションの実施時間の目安は8時間以上です。
また、技能実習2号良好修了者が特定技能1号へ在留資格を移行し、同じ企業などで働き続ける場合などは、4時間以上の生活オリエンテーションが目安とされています。
特定技能1号の外国人に対して、生活オリエンテーションを実施しなくていいという場合はありません。必ず行います。
「生活オリエンテーション」で伝えるべき内容
生活オリエンテーションで特定技能外国人に伝えるべき内容は、大きく分けて6つほどです。
① 法令違反の対応に関する情報
② 生活一般に関する情報
③ 公的機関の手続きに関する情報
④ 医療や医療機関に関する情報
⑤ 支援に関する情報
⑥ 防災・防犯・急病などの緊急時に関する情報
具体的にどのような情報を伝えるべきなのかについては、後で述べます。
実施の形式は対面またはWEB
生活オリエンテーションは、対面またはWEB形式などで行います。
実施に伴って注意しておきたいポイントは、テレビ電話やDVDなどの動画視聴でも問題はありませんが、特定技能外国人からオリエンテーションの内容について質問があった場合、適切に対応ができる形式で行う必要があります。
基本的には母国語で行う
生活オリエンテーションは、特定技能1号の外国人が「十分に理解することができる言語により実施することが求められます」(1号特定技能外国人支援に関する運用要領|法務省)とされています。よって、ほとんどは特定技能外国人の母国語で行うことが望ましいでしょう。日本語能力試験N1とN2を取得している特定技能外国人に関しては日本語での実施も可能な場合もあります。
特定技能1号外国人の日本語能力は、日本語能力試験(JLPT)のN4以上を求められます。N4の日本語能力は「ゆっくりと話される日常会話であれば理解できる」程度なので、混み入った話などは母国語でなければ難しいでしょう。
登録支援機関に委託が可能
生活オリエンテーションは、登録支援機関に委託することができます。
過去2年以内に、就労資格をもって在留する中長期在留者の受入れまたは監理を適正に行った実績がない場合は、登録支援機関に支援を委託しなければなりません。
また、生活オリエンテーションは特定技能外国人へ行う支援の中でもかなり手間と時間がかかるため、登録支援機関に委託することも考えてもいいでしょう。
【そのほかの義務的支援を解説した記事はコチラ】
▶【事前ガイダンス虎の巻】特定技能外国人に行うべきガイダンスと注意点を紹介|外国人採用サポネット
▶特定技能外国人の住居は誰が用意する?部屋の広さ・条件・ルール・家賃負担などの疑問を解決!|外国人採用サポネット
生活オリエンテーションで特定技能外国人へ伝えなければならないこと
1号特定技能外国人支援に関する運用要領には、生活オリエンテーションを実施する目的として以下のように記されています。
特定技能所属機関等において1号特定技能外国人が本邦に入国した後(又は在留資格の変更許可を受けた後)に行う情報の提供(以下「生活オリエンテーション」という。)については、当該外国人が本邦における職業生活、日常生活及び社会生活を安定的かつ円滑に行えるようにするため、入国後(または在留資格の変更後)、遅延なく実施する必要があります。
出典元:1号特定技能外国人支援に関する運用要領|法務省
よって、生活オリエンテーションで特定技能外国人へ伝えることは、日本での生活や仕事を安心・安全に行うためのルールやマナー、手続きなどの情報です。
具体的にどのような情報を伝えるべきなのか、詳しく解説していきます。
①法令違反の対応に関する情報
外国人が違反行為を行うと、多くは「退去強制」になり、母国へ強制帰国となります。もちろん、該当する外国人を雇用し続けることはできなくなってしまうので、注意が必要です。
違法薬物の所持・売買
大麻や覚せい剤などは日本では違法薬物にあたるため、所持や売買は犯罪です。
国によっては、大麻の所持が認められていることがありますが、日本で働く場合は日本の法律を遵守するように伝えましょう。
銃砲、刀剣類の携帯・所持
原則として、鉄砲や刀剣の所持・携帯は認められていないので、日本では違法行為であることを伝えましょう。
②生活一般に関する情報
外国人には知らないルールやマナーも、日本には存在します。それらの情報を提供することも生活オリエンテーションでは必要です。
金融機関(銀行やATM)の利用方法
銀行やATMの利用方法のレクチャーを行います。
- 銀行口座の開設方法(印鑑の用意も)
- 入出金や振込方法
- 銀行やATMの利用可能時間
- 特定技能外国人が帰国する際、銀行口座を解約すること(再来日する可能性がある場合は出国前に相談が必要)
- 口座の売買は犯罪行為であること
交通ルールなど
日本の基本的な交通ルールは、イチから重点的にレクチャーするようにしましょう。命に関わる事故を引き起こしかねないからです。
信号の色の意味は国によって違います。
また、日本の車両は左側通行であることを知らないことも珍しくありません。
特定技能外国人の仕事では、自動車免許が必要になることもあるでしょう。免許を取得しないと自動車を運転してはいけないこともレクチャーが必要です。
注意したいのは、自転車を使用するケースです。自転車は車両扱いであり、自転車損害賠償請求保険の加入が必要である場合があることを伝えてください。
交通機関の利用方法
電車やバスなどの交通機関の利用方法は、地域によって違います。就労・居住する地域の公共交通機関の利用方法について伝えましょう。
- 電車やバスの乗り方
- 切符の買い方やICカードの使いかた
- 公共交通機関におけるマナーや禁止事項
- 路線図などの見方
- 定期券の買い方
- タクシーの乗り方
- 目的地までの経路の探し方
電車やバスの中での携帯電話での通話は注意が必要であると伝えることも大切です。
日本の生活ルールやマナーなど
異国の文化は日本と大きく違うことも少なくありません。
日本のマナーやルールを知らないことで悪気なくトラブルとなってしまうこともあるため、丁寧に解説しておくことをおすすめします。
特に、以下のことについて注意するよう促しましょう。
- ゴミの捨て方
- 騒音についての注意
- スマートフォンの使い方
- 畑や空き地への無断侵入
- タバコのルール(近年では禁煙の場所が多い)
- 「禁止」の標識(下図を参照)
特定技能外国人が社宅や寮を利用する場合は、規則に沿った生活をするように指導することも必要です。
生活必需品の購入方法
日本に来たばかりの特定技能外国人は、トイレットペーパーなどの生活必需品の購入方法もわかりません。
地域内で生活必需品を購入できる場所を伝えましょう。スーパーやドラッグストアなど、地域の店の位置を知らせることが大切です。
③公的機関に対する手続きに関する情報
公的機関への手続きは、日本人でも複雑でわかりにくいものがあります。
特定技能外国人への生活オリエンテーションでは、公的機関の複雑な手続きをできるだけわかりやすく解説しましょう。
所属機関(受入れ機関)などに関する届け出
受け入れ機関とは、特定技能外国人を受け入れる企業・団体のことです。
受け入れ機関の名称や所在地が変更になったときや、契約の終了・新たな契約の締結などがあったときに、特定技能外国人自ら14日以内に地方出入国在留管理局に届け出なければいけません。
居住地に関する届出
外国人も日本人同様に、転入届や転出届などの届け出をすることが求められます。
転入届・転出届には、在留カードかパスポートが必要です。手続きをする際は、忘れずに持っていくことを伝えておきましょう。
社会保険や税に関する手続き
日本における税金の仕組みや税金の用途を説明するようにしましょう。
税金は、以下の通りです。
- 所得税…所得に応じて国に払う
- 住民税…居住している自治体に払う
- 社会保険料…「もしも」の際(医療機関に関わる際など)の負担を軽くするために払う
日本では、給料から社会保険料や税金が天引きされます。しかし、外国人はこのことを知らず「事前に聞いていた金額(給与)と受け取る金額が違う」と考えてしまい、トラブルにつながる可能性があります。日本で雇用される場合、税金は給与から天引きされる仕組みだということも説明しましょう。
社会保険料については、こちらの記事を参考にしてみてください。詳しく解説しています。
その他の行政手続き
マイナンバーや自転車の防犯登録の手続きなど、特定技能外国人本人の行政手続きが必要であると想定できるケースについて説明しましょう。
④医療や医療機関に関する情報
日本には多くの医療機関があります。医療機関とひとくくりにしても、それぞれ役割が違っていることを、利用方法と共に伝えておきましょう。
医療機関の情報
医療機関の探し方について説明しましょう。医療機関や診療科目によって、受診できる医療機関がおのずと決まります。診療科目の違いについても情報提供することが必要です。
具体的な探し方は、インターネットや地域の広報誌を利用して探すように説明しましょう。
あらかじめ、特定技能外国人の居住エリア内の医療機関を知らせておくのも手のひとつです。
医療機関の利用方法
医療機関を利用するためには、以下のことに注意するように知らせましょう。
- 特定技能外国人本人の健康保険証の提示
- お薬手帳の仕組み
- 緊急の場合、119番(ケガ、病気の場合による)への電話
- アレルギーや宗教上の理由による治療の制限
⑤支援に関する情報
支援に関する情報とは、特定技能外国人が困ったとき、助けてくれる情報です。どうすればこの情報にアクセスできるか、説明しましょう。
支援を登録支援機関に委託した場合や、自社ですべて支援を行う場合でも、特定技能外国人が困った場面があったらすぐに援助できる、ということを伝える必要があります。
登録支援機関に委託した場合の情報提供
登録支援機関に特定技能外国人への支援を委託しているのなら、登録支援機関の連絡先を伝えましょう。
特定技能外国人に支援担当者の氏名や電話番号、メールアドレス等を伝えておくと、登録支援機関の支援担当者へ直接相談ができます。企業の担当者に連絡が付かない場合はもちろん、母国語で相談をしたい、企業を通さず相談したいなどの場合に連絡ができるようにするためです。
相談・苦情を言える公的機関の連絡先
仕事や生活について、相談や苦情を言える公的機関の連絡先も伝えておきましょう。
以下の公的機関の連絡先を知らせておく必要があります。
- 地方出入国在留管理局
- 労働基準監督署
- ハローワーク
- 法務局・地方法務局
- 警察署
- 最寄りの市区町村
- 弁護士会・法テラス
- 大使館・領事館
⑥防災・防犯・急病などの緊急時に関する情報
災害や事件・事故等への備え
地震などの災害が発生したときに慌てないように準備をすることが大切です。家具の転倒を防ぐために固定をする、最低3日分の食料や飲み水などの備蓄や防災リュックなどの準備をするなど、いざという時に困らないようにします。
また、事件などに巻き込まれないための防犯の備えや、法律に関しても説明があると良いでしょう。例えば、家のドアや窓は必ず施錠をする、空き地や畑などに勝手に入らない、交通ルールを守るなどです。
火災の予防
火災を発生させないように気を付けるべきことについても伝えましょう。
例えば、たばこの不始末をなくすための方法、コンロ・ストーブの取扱いや注意点、家の周りに燃えやすいものを置かないなど。いざというときの消火器の使い方などを説明するとよいでしょう。
行政などによる災害情報の入手方法
地震や津波などの災害に遭ったときに、避難情報や気象情報などの必要な情報はどこで得られるのか伝えましょう。災害に関する行政からの情報の入手方法について知らないと、災害に巻き込まれてしまう可能性があります。
ハザードマップや行政の情報へのアクセス方法、警戒レベルの見方をあらかじめ知らせておきましょう。あわせて、避難方法なども説明してください。
- ハザードマップポータルサイト|国土交通省(https://disaportal.gsi.go.jp/)
- Safety tips(https://www.rcsc.co.jp/safety-tips-jp)
- 防災ポータル|国土交通省(https://www.mlit.go.jp/river/bousai/olympic/)
災害・事件・事故などにあった際の対応情報
警察や救急、消防への連絡方法も説明する必要があります。警察なら110番、消防なら119番への連絡を徹底してください。しかし、軽いケガ程度で救急などに連絡しないように注意することもあわせて知らせておきましょう。
災害などであれば、海上保安庁への連絡・通報の方法などもあると良いでしょう。
生活オリエンテーションの注意点
生活オリエンテーションを実施したときは、「生活オリエンテーションの確認書」の該当欄に外国人の署名入れてもらい、記録しておく必要があります。
■「生活オリエンテーションの確認書」記載例
また、次のことに注意して行うようにしましょう。
外国人によって理解度に差がある
支援担当者は、外国人によって理解度に差があることをまず知る必要があります。
出入国在留管理庁の「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」では、少なくとも8時間以上の行うことが必要と書かれていますが、日本の決まりや仕組みを外国人が理解するには、8時間では到底足りません。日本に居住している外国人が特定技能1号となったときでも、4時間以上の生活オリエンテーションが必要だとされていますが、4時間でも足りないという状況も十分ありえます。
外国人の生活支援は、一回行ったら終わり、というものではありません。随時支援が必要であることも留意してください。
必要な情報の精査が必要
出入国在留管理庁が運用している「外国人生活支援ポータルサイト」があります。こちらは生活オリエンテーションの教材として非常に便利なのですが、紹介している情報そのままでは外国人には難しい情報もあります。そのため、生活オリエンテーションで利用する際は情報の精査をしてからがおすすめです。必要な情報・不必要な情報の取捨選択を行いましょう。
▶外国人生活支援ポータルサイト|出入国在留管理庁
非常に時間がかかる支援なので委託するのもひとつの手
生活オリエンテーションの目的や外国人に伝えるべき情報について解説しました。このように、生活オリエンテーションは非常に時間と手間がかかる支援なので、登録支援機関への委託を考えるのもひとつの手です。登録支援機関に特定技能外国人の支援をすべて委託するのではなく、部分委託というかたちで生活オリエンテーションの支援をしてもらうことを考えてもいいでしょう。
生活オリエンテーションは、特定技能外国人への義務的支援です。
外国人に不安なく生活・就労してもらうために、生活オリエンテーションに力を注ぎましょう。