【外国人材相談事例#2】お願いした仕事の「仕上がりがおかしい」問題の処方箋
仕事をお願いする時に、少し難しい業務なのでやり方を説明してから「できる?大丈夫?」といつも確認をします。すると二つ返事で「できます」と言うので任せるのですが、だいたいできてないんです。本人は、「できましたー!」って嬉しそうにやってくるのですが、そうじゃなくて……。みたいなことばかりで、結局自分でやり直すことも多いです。
お願いしたことと違うことをやっていることが多かったり、思ったほどの仕上がりになってなかったり。どうしたらいいでしょう。
このような相談をうけました。
私は企業のグローバル採用に関する支援をライフワークとして長年活動し、よく日本の職場に外国人を受け入れるための心構えなどの研修を行っているのですが、その繋がりからいろいろ相談を受けます。
今回は、依頼した仕事の仕上がりが、期待と違った際の対処方法について解説していきましょう。
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相談内容の背景
朴さんは、前職の韓国の会社で優秀な成績を収めている、いわば「できる」社員として入社してきています。日本語も堪能です。
しかし、今回のように仕事を割り振って、いつまでに◯◯を資料にしてくれ、といった最終的な仕上がりまでの裁量を任せると、出来上がった資料がどうも的を外していたり、時間をかけなくていいところに時間をかけていて肝心なところの内容が薄かったり、求めたアウトプットが返ってきません。
朴さんとしては、自分なりに考えて良いと思ったものをいつも丁寧にやっていると主張してきます。
確かに雑に仕事をしている訳ではないのですが、結果的にできていないことに工藤さんは困惑してしまっています。
【今回の問題】『スケジュール通りの進行管理』を良しとする習慣と『より大事なことに時間を多くかける』習慣の違いによる、すれ違いがおきている
アジアでは、時間軸に沿った時間の使い方より柔軟な時間の使い方が大多数
日本の仕事の進め方(時間の使い方)の特徴として、スケジュール通りに決められたことを順番に行っていくこと良しとするビジネス習慣があります。そんなこと当たり前でしょう?と思われがちですが、アジアの中ではこの特徴が顕著な国は、日本とシンガポールぐらいです。
下記図のように、直線的な時間を使うよりも、柔軟な時間の使い方をする習慣になっている国のほうがアジアでは多く見られます。
例えば会議の進め方を例にとって、違いを説明しましょう。
通常、日本の場合だと会議にはアジェンダがあって今日は何を話し合い、何を決めるということが順番にあり、会議内で一つずつ時間内で決めていくという暗黙の了解があるかと思います。
そのため、進行管理やタイムキーパーのような考え方もあり、時間軸に従って物事を進めていくことが当たり前という、共通認識があります。
一方、柔軟な時間の使い方をすることが習慣になっている国では、アジェンダが用意されていようとも、その時の議論の内容次第で、より重要なことにたくさん議論の時間を使ったり、必要ならば話がどんどん脱線したりします。
「より良い結論を導き出すために重要なことである」となった場合、彼らにとっては時間内に結論を出すよりも議論を深めていくことの方が優先度が高いというビジネス習慣があるのです。
スケジュール通りの進行管理。
会議は時間軸に従って物事を進めていく。
【その他のアジア諸国】
より重要なことに、時間を多くかける。
会議は時間内に結論を出すより、重要なポイントの議論を深めるやり方
今回のケースでは、工藤さんは「いつまでに何をする」というゴールを決めて指示を出していたのですが、朴さんは上記の習慣に従って、自分の考える「より良い結果」を求めてプロセスの途中で脱線しています。
そのため、工藤さんが予想もしなかったことに多くの時間を費やしてしまい、アウトプットが異なる、ポイントがずれるといった結果になるのです。しかしながら、朴さん本人は、重要だと思った部分をより深めたことでよりよいアウトプットを返すことができていると思っています。
ここで、もし工藤さんが「余計なことしなくていいから!」と一方的に否定してしまうと、せっかく期待に応えようと思って頑張っていた朴さんのモチベーションは、一気にフラストレーションに変わってしまうでしょう。
「できます」は、どうなったら、「できている」かの認識が違う
今回のケースでもう一つある認識の違いは、何を持って「できる」状態なのかということです。
よくある例ですが、日本人に「あなたは英語ができますか?」と聞くと、学校教育で少なくとも何年間か習っているにもかかわらず、大抵の人は「できません」と答えます。
一方で、「こんにちは」と「ありがとう」しか知らない外国人に、「あなたは、日本語ができますか(話せますか)?」と尋ねると「できます」と答えてきます。
このように、どこまで習得していれば、できるといえるか?の尺度が違うのです。
したがって、「できる」と言うのであればこれぐらいまでできるよねという、世界共通の尺度はない、ということを認識しておく必要があります。
これが、お願いした仕事の仕上がりを左右するため注意が必要です。
【処方箋】短いスパンで進捗を確認し、できるようになったら少しずつ間隔を延ばしてコミュニケーションの取り方を改善
前提として注意しておかなければならないのは、工藤さんと朴さんは、ハイコンテクスト同士なので、指示を具体的にしてお互いに勘違いをしない、ということです(ハイコンテクストについては、前回の記事をご覧ください)。
そのうえで、「ここまでできたら一度教えてね」という形で、脱線していかないように進捗確認をこまめにしていく。もしくは、「気になったことが出てきたら作業をする前に質問してね」と事前に相談してもらうようにします。そうすることで、朴さんが考える「より重要なこと」が何なのかが少しずつわかってきます。癖のようなものを発見していくのです。
癖がわかってくると、今度は指示の時に事前に「◯◯の時は、こうしてね」と事前に脱線を防ぐような指示が出せるようになります。これを繰り返すことで、朴さんも工藤さんの業務を受ける時に、何を優先し、何が大事なのかがわかってきます。簡単に言うと余計なことをしなくなっていきます。
最終的に、仕事の優先度や重要度を理解してくると、少しずつ進捗確認の間隔を伸ばしていっても、彼女が途中で脱線することは少なくなってきます。もちろん、工藤さんも意識的に何が重要でどのような仕上がり(質)を求めているのかを、日本人に指示するときよりも明確に示してあげることが大事です。
【明日実践してみること】依頼した仕事の大事なところはどこか、どう仕上げるべきかを改めて確認しよう
もし、すでに仕事をお願いしている外国籍の部下がいたら、その仕事で重視しているところを今一度伝え直したり、本人がどう考えているのかをヒアリングしてみましょう。そこで、考え方に違いが起きていないか?脱線の予兆がないか?確認し、早期発見をしましょう。
その際に、「逆にこのギャップを生かせる!」と思えたら、自分の考えを改めることも大切です。
【解決のポイント】仕事をするにあたっての「大事だと思うこと」は国や文化によって異なるため、「できている」の定義も異なることを認識しよう
仕事の完成度、何が良い出来なのか?といった「できている」「できていない」の捉え方は、バックグラウンドが違えば自ずと変わってきます。仕事を仕上げていく過程で求める形に仕上げて欲しい場合は、その期日まで任せっぱなしではなく、途中途中で確認していきながら、想定外の方向に脱線しないように軌道修正していきましょう。
一方で、この価値観の違いから生まれる多様性こそが、新しいアウトプットを生み出し、想定外のイノベーションへ繋がるきっかけにもなるはずです。余裕を持ったスケジュールで余白のあるマネジメントを心がけることにより、より質の高い成果へと繋がることでしょう。
いかがでしたか? このように、ダイバーシティの環境が職場に生まれると、これまでとは違った働き方や意識を社員の方たちは身につけていかなければなりません。外国籍人材を登用することで生まれるこれらの環境の変化が、社員のもう一段高いスキルと意識を身につける機会へとつながります。