外国人労働者の日本離れは起きている?データで見る現実と将来のリスク

執筆者:

㈱マイナビグローバル 代表取締役 社長執行役員/杠元樹

円安などを理由に、「外国人労働者の日本離れ」が進んでいるという話題を見聞きする機会が増えました。同時に、外国人労働者の受け入れ国として韓国や台湾との競争が激化を懸念する話題も耳にします。
一方で、統計上では外国人労働者総数は過去最多を更新し、230万人を突破しています。
ベトナムの伸び悩みやインドネシア・ミャンマーの急増、外国人労働者の待遇――数字の裏には、日本の魅力を左右する複雑な要因があります。
外国人労働者の「日本離れ」は本当に起きているのでしょうか?最新動向を踏まえてその実態や今後の見通しを解説します。

外国人労働者の総数は増加傾向

厚生労働省の『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)』によると、外国人労働者数は230万人を超え、この1年間で大幅に増加しました。外国人労働者の1年あたりの増加数は過去最多の25万人以上、日本全体の就業者増加数(42万人)の59.5%を占めます。これは、2024年卒の新卒大学生(約45万人)の半数(55.6%)に匹敵する規模です。
この結果だけ見ると、諸外国の賃金上昇や円安の影響により「選ばれない日本」になったという見方は当てはまりません。

ただし、全体の増加の裏では、外国人労働者の国籍や在留資格に変化が生じています

ベトナムの鈍化と東南アジア諸国の台頭

国籍の変化はここ数年の大きな特徴です。厚生労働省が発表している『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』によると、2024年の調査では、かつて増加率上位だったベトナムの増加率は10.1%にとどまり、他国と比べると勢いは鈍化しています。

一方で、ミャンマー(前年比61.0%)、インドネシア(同39.5%)、スリランカ(同33.7%)、ネパール(同28.9%)など、その他の東南アジア諸国を中心に存在感を増しています。

増加数ではベトナムが約5万人と依然最多ですが、インドネシア・ミャンマー・ネパールも年間4万人以上増加しており、ベトナムに迫る勢いです。

こうした変化の背景には、各国の済状況や国際情勢の影響あります。
ベトナムでは経済成長と円安により、日本との賃金差が縮小しつつあり、今後の動向次第では、送り出し国としての地位が大きく変化する可能性があります。

一方で、ミャンマーは政情不安と経済の悪化が続いており、インドネシア・ミャンマー・ネパール・スリランカも現地の賃金水準が低いため、日本での就労に対する関心が高い状況が続いています

技能実習から特定技能へ、受け入れの主役が交代

日本では、単純労働に従事する外国人を受け入れる制度として「技能実習」制度が長年活用されてきました。建前は研修ですが、実質的には日本の労働力を支えており、人権問題など様々な問題が指摘されています。このような背景のもと、単純労働を正式に認めた在留資格として2019年に「特定技能」制度が創設されました。転職が可能など、技能実習とは制度面で異なる点が多数あります。

▶ 関連記事:特定技能と技能実習の違いとは?

在留資格別の変化を見ると、2024年10月末時点で特定技能の在留者数は前年比49.4%、1年間で68,477人増加し、合計数が20万人を超えました。

特に注目すべきは、特定技能技能実習の年間増加数を初めて上回った点です。外国人労働者の受け入れ制度として特定技能が中心的な存在になりつつあるといえます。

企業が技能実習制度を敬遠し、特定技能に移行している面も当然ありますが、求人を募集する海外の現場においても、技能実習生の募集が難しくなっているという声が聞かれます。
こうした状況を踏まえると、仮に特定技能制度が創設されていなかった場合、外国人労働者の受け入れは現在ほど進んでいなかった可能性があります。

外国人が働くための日本の制度設計が、海外から見た「日本で働く魅力」に影響すると考えられるでしょう。

▼最新の外国人労働者数の変化はこちらの記事で解説しています。

特定技能の浸透で変化、低賃金では通用しない

厚生労働省の「令和6年外国人雇用実態調査」によると、在留資格別の待遇は以下のとおりです。

在留資格月間きまって支給する現金給与額月間所定内実労働時間月間超過実労働時間
専門的・技術的分野289.1千円158.5時間17.0時間
うち特定技能250.3千円160.2時間21.3時間
技能実習210.0千円163.2時間26.2時間
身分に基づくもの302.3千円163.8時間21.6時間

かつて最低賃金を下回るケースも指摘されていた技能実習と特定技能とでは月給に約4万円の差があります。労働時間を踏まえると、技能実習と比較して特定技能の待遇がよいことがわかります。

もちろん、建前とはいえ研修が目的の技能実習と就労が目的の特定技能では同一のはずはないかもしれません。しかし、外国人ネットワークで悪い噂が漏れ聞こえる技能実習よりも、特定技能が魅力的に映るのは自然の流れといえるでしょう。

この待遇差は、特定技能においては技能実習並みの賃金では採用が困難であることを示しています。

技能実習制度では初期契約で3年間の実習が義務付けられているため、比較的低い賃金で雇用することが可能性となってしまう構造です。一方、特定技能はより良い条件の職場を求めて転職が可能であるため、待遇が採用の成否に直結します。つまり、技能実習と同水準の待遇では人材確保が難しい、ということです。

ベトナムに限らずですが、日本との賃金差という魅力が薄れ、かつての待遇では相対的に日本の魅力が低下しているとも言えます。

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外国人材の獲得へ、企業の待遇改善が加速

上記のとおり、特定技能が浸透してきたことにより、企業側の待遇改善が進んでいることが実態として表れています。厚生労働省が発表した「令和6年外国人雇用実態調査」によると、特定技能の月給は1年間で7.6%増加しました。マイナビグローバルでは多くの特定技能人材をご紹介してきましたが、待遇改善は採用現場でも実感している部分です。

「外国人は最低賃金かそれ以下での賃金でもいいのか」といった声も最近は聞くことがなくなってきています。

外国人であっても、必要な人材を獲得するためには相応の待遇が必要であるという考え方が、企業側にも着実に浸透してきていると言えるでしょう。

ベトナム人労働者の場合、希望する賃金水準には届かないケースもありますが、受け入れる企業側の待遇改善により、その他の国の労働者の増加につながっています。

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日本就労を左右する、海外現地からの渡航ハードル

人材を送り出す国の状況はどうでしょうか?

日本含め海外での就労を決める要因として、待遇面はもちろん重要ですが、もう一つ重要な要素があります。それは「海外(日本)への渡航のハードル」です。

在留資格を得るためには、語学基準や試験、雇用の枠(倍率)などの条件があります。待遇の良さを求めるのは当然として、その前のハードルとして日本に行きやすいかどうかが重要なポイントであることを忘れてはいけません。

たとえば、特定技能で日本に入国するには、試験への合格が必要です。そのため、海外現地での試験実施状況が渡航のハードルに影響します。

▶ 関連記事:特定技能の取得に必要な試験とは?
▶ 関連記事:特定技能の取得方法を解説

実際に、特定技能の海外現地試験は、インドネシア・ミャンマー・スリランカなどで頻繁に開催されており、非常に多くの合格者がいます。日本で働くことに魅力を感じるから試験を受けるという面もあると思いますが、試験が実施されているからこそ日本を目指せるという側面もあります。一方、ベトナムでは試験の実施が遅れており、特定技能の在留数にもその結果が表れています。

特定技能の分野によっては試験が実施されていない国や、試験回数が少ない国もあるため、今後、各国での試験実施の有無や回数の増加によって、日本を目指す人材が増える可能性は十分にあるでしょう。

単に「日本が好きかどうか」といったイメージだけではなく、時間的・経済的に渡航可能かといった現実的な側面も日本の魅力を左右します。

さらに、現地の送り出し機関や日本の人材紹介会社による投資も進んでいます。明確な数字は出せませんが、ベトナムでの試験実施の停滞などを背景に、現在はインドネシアへの投資が加速しており、現地での教育機関の設立が活発化しています。
こうした民間事業者の動きが活発になることより、日本の求人情報や日本で働く魅力が現地の求職者に広がり、人材募集の加速につながっています。

外国人労働者の増加は続く?拡大の裏に潜むリスク

ここまでを整理すると、以下の通りです。

  • ベトナムは伸び悩んでいるが、インドネシア・ミャンマーなどその他の国は増加傾向
  • 特定技能人材の活用拡大とともに、待遇改善も進んでいる
  • 海外からの入国ハードルが下がれば、日本での就職希望者数はさらに増加する可能性がある

一部に日本離れの予兆が懸念されるものの、全体としては危機感をもつ状況ではないといえます。では、「このまま順調に拡大し続けるのか」というと、そうは断言できない不安要素や未確定要素もあります。

就労意欲は高いが懸念材料も

日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能への意識に関する調査(2025年)|マイナビグローバル

マイナビグローバルが2025年に日本に在留する外国人に行った調査では、引き続き日本で働きたいと考える外国人は92.3%にのぼり、日本での就労意欲は依然として高いことが示されました。

一方で、「日本で働きたくない理由」としては「円安(35.5%)」「給料が低い(26.3%)」など日本の経済状況や収入面への不満を感じている回答が目立ちました。また、「他国の方が稼げるから(10.5%)」は前年より8.4ポイント増加しています。東南アジア諸国の賃金上昇や円安によって日本の魅力が相対的に下がり、就労先として「選ばれる日本」からの優位性の低下が危惧される結果となりました。

韓国・台湾との競争は激化している?

もう一つは韓国・台湾の台頭と両国の外国人労働者受け入れ制度です。

日本の技能実習制度・特定技能制度にあたる韓国の制度に「雇用許可制」がありますが、受け入れ枠がコロナ禍前の2019年と比べ約2.3倍に拡大しています。日本よりも待遇が良いと言われているほか、宿泊業や飲食店も対象に追加されるなど外国人労働者の受け入れ対象を広げています。

台湾の低熟練労働者を受け入れる就労制度では、業種や送り出し国によっては語学研修や技能訓練の受講のみで就労可能な職種があり、入国のハードルが低いと言われています。今までは待遇の低さから日本と競合することはなかったものの、台湾全体の賃金上昇に伴い外国人労働者の賃金が上昇すると、日本と競合する機会が増加する可能性があります。
ただ、現時点では職種の違いもあり、現場では競合が激化している状況にはありません。

まとめ:外国人労働者の日本離れは起きているのか?

「円安の影響により、日本離れが進んでいる」「まだまだ日本就労意欲は高い」という単純な二元論では、現状を十分に説明することはできません。

ベトナムの伸びはかつての勢いからは鈍化していますが、インドネシア・ミャンマー・ネパールなどは日本への就労意欲は依然として高い状況です。背景には特定技能制度の創設と、特定技能の浸透による企業側の待遇改善があります。仮に単純労働に従事できる在留資格が技能実習しか存在せず、低賃金の待遇のままだったら、人材確保はより困難になっていたでしょう。

一方で、円安や諸外国との賃金格差の縮小がさらに進めば、日本離れが起きる可能性は否定できません。
今後も送出し国における市場開拓は進むと考えられます。ただし、日本の待遇改善が進むことが前提です。特定技能制度の浸透と企業側の待遇改善があってこそ、日本で働く魅力を維持できるでしょう。