【外国人材相談事例#6】「会議で反論してくる」問題の処方箋

執筆者:

山下弘喜

私は企業のグローバル採用に関する支援をライフワークとして長年活動し、よく日本の職場に外国人を受け入れるための心構えなどの研修を行っているのですが、その繋がりから外国人材との働き方について相談を受けます。

その中でもよくある相談内容と解決策を、具体的な事例を元に紹介します。

【今回の相談内容

どんな会議でも平気で思ったことをダイレクトにぶつけてくるんです。相手が社長であろうと部長であろうとクライアントであろうとお構いなしといった感じです。そんなこと言ったら相手に失礼だし、場の空気も乱れてしまって……ということばかりです。相手との人間関係が崩れてしまうことが怖く、いつもヒヤヒヤしています。

そんな状況を作っておきながら、会議の後には、その相手にまるで何もなかったかのように気さくに話しかけていくんです。さっきまでの対立はなんだったの?と私も思うしその相手の方も感じていると思うんですよね。
上司の私としては、後からクレームが直接私に来てしまって困ってます。どうしたらいいでしょう。

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相談内容の背景

某食品メーカーの工場でマネージャーの竹藤さんは、500人規模の工場で働いています。外国人技能実習生や外国人の正社員も働いており、竹藤さんの部署にもベトナム出身で20代のクワン(男性)さんが部下として所属しています。クワンさんはとても気さくな性格で、人当たりも良く日本語も問題ありません。コミュニケーション力は高い方だと竹藤さんも認めています。

竹藤さんは部下のクワンさんとともに工場内での定例会議はもちろん、他部署との調整会議、取引先業者との打ち合わせなど、日常的に会議の場に出席します。

この会議のことで竹藤さんは悩みを抱えていました。

クワンさんは会議の中で、相手がどんな立場の人であろうとも、質問というよりは比較的反論に近いことを発言することがあります。コミュニケーション力が高いため、時には相手を論破してしまうようなこともあると言います。社内の他部署とは協調していきながら仕事をしていきたいし、上下関係においては相手の気持ちを害するようなことにもなっているので申し訳ないと思っています。実際、会議の後に個人的に工場長から指摘されることもありました。

しかしながら、クワンさんは会議の後には、反論した相手でも気軽に話しかけにいったりして全く状況に気づいていないようです。クワンさんには何度か注意をしたものの理解できていないようでどうすれば良いか悩んでいました。

【今回の問題】反論することが「良いこと」か「悪いこと」かの意識の違い

今回の問題には、反論することに対する考え方・文化的な背景の違いが影響しています。

日本文化は「和を以て貴しと為す」 調和を乱すことに不快を感じる

国の教育方針や歴史・文化によって、人と違った意見を相手にぶつけて議論することを「良いこと」と教えられている国と、「悪いこと」と教えられている国とに別れます。その理由は国によってまちまちです。

例えば、中国では、「面子(メンツ)」の考え方に起因しています。公の場で、特に立場の低い人から反論を受けることは、自分を否定されたように感じ、面子を潰されたと感じてしまいます。このような面子の観点から、意見の対立を良しとしないと感じるケースが生じます。

日本は「調和を乱すこと」に過剰に反応する社会であり、意見の対立はまさに「調和を乱す」原因として、常識として良しとされていません。意見をぶつけ合うこともさることながら、対立意見を持つこと自体問題だと感じるぐらいです。

このように、同じ反論に対して「悪いこと」と感じる文化でもその理由が異なるケースがあります。

一方、今回のクワンさんのケースでは、一般的に明るく楽観的な国民性のベトナム人にとっては、対立意見を言うことに抵抗がありません。対立する意見を言うこと自体に「良くも悪くもない」という特に何も考えてないことが想像できます。特にクワンさんは、コミュニケーション力がありどんどん意見を出していくタイプなだけに、本人は悪気があって反論しているわけでもなく、気にしてないというだけだと言えるでしょう。だから会議後は、反論した相手に対しても何のわだかまりもなく話しかけているのだと考えられます。

意見の相違を良しとする「意見対立型」と、意見の相違を避けたいとする「対立回避型」の国別の分布は次のようになります。

※参照 Erin Meyer “The Country Mapping Tool” より抜粋

図を見ると、アジア圏では比較的に「対立回避型」へ集中しているといえます。それにも関わらず、今回の竹藤さんのような問題がなぜ起こったかというと、日本が極端に対立を回避しようとする文化であることが原因です。相対的に意見を対立させることに抵抗のない国が多くなるのです。

今回のケースでは、日本とベトナムというどちらも「対立回避型」のゾーンに位置している国同士でありながらも、その意識の文化的な形成のされ方の違いにより、大きなギャップとなっていると言えるでしょう。

会議の在り方への認識が違う場合もある

日本の場合、会議は事前に関係者と合意をとっておいて最終的な「承認」をする場として位置付けられているケースがあります。会議前に根回ししておいて合意をとっておき、会議では議論し合う時間は少なく、公式の場での承認を取るプロセスとしての合意形成の場で使われます。したがって、この場で反論されては困るのです。しかし国によっては、会議は議論を交わして熟慮する場であったり、その場で決断をする場であることもあります。

このように会議をどのような役割をもたせて行うものなのかという認識の違いが、外国人社員と日本人社員とのギャップを生み出す原因である場合もあります。

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【処方箋】会議前の会議や、会議後の会議を実施する

今回の場合、竹藤さんは何度かクワンさんに注意をしたけれどクワンさんには改善が見られなかった、というケースでしょう。なぜなら、クワンさんのような外国人からすると、どこをどのように気をつけたらいいのかわからなかったと予想できるからです。

解決策として、反論されては困る重要な会議では、まず初めに、クワンさんが会議中に一切その場で反論しないことをルールとして設定しましょう

しかしそれではクワンさんは納得できないかもしれません。そこで、承認する場として設定された会議では、事前にクワンさんから内容について意見をもらう会議前の事前会議を実施します。そして、あらゆる反論を事前に解消しておいて、本会議に臨むようにします。そうすれば、会議中に突拍子もない反論が出ることを防ぐことができるでしょう。

「会議前の会議するよ」と畏まって行う必要もありません。会議前にクワンさんに、「次の会議でこういうことが報告されて、こういうことを決めるんだけど、意見はある?」と事前に考えさせて意見を出させて対応するぐらいでもいいでしょう。

また、取引先との会議など内容が不透明な会議の場合は、会議中は意見を書き留めておいてもらい、会議の後にヒアリングして解消するという「会議後の会議」を開きましょう。

どうしても会議の場で話をしておきたいというような反論は、会議の相手ではなく上司の自分に問いかけるようにさせ、内容に問題がないようであればあなたが代わりに先方に投げかけるようにしましょう。

【明日実践してみること】どれぐらいの認識のギャップがあるかを確かめよう

この問題は、相手が気持ちの面で、反論をどのように受け取っているか?で見分けがつくこともあります。相手が反対意見でも議論を深めていくことに対してどう思うかを聞いてみて「意見対立型」なのか「対立回避型」なのかを見分ける方法です。

例えば、外国人社員に好きなもの・事を聞いてみて、それにあえて反論してみたとき、気持ちの面でどう感じたかを話し合ってみてください。

反論を受けた時に外国人社員が「好きなものそのものに反論された」と感じるのか「自分自身が反論された」と感じるのかをチェックします。自分自身を否定されたかのように感じるとすれば、おそらく「対立回避型」であまり反論しようとは思っていないはずです。

一方、好きなものに反論されただけで、自分自身否定されたわけではないと感じているようであれば「意見対立型」である可能性が高いです。外国人社員が反論するとしても、その考え方に対して反論しているだけで、相手を否定しているつもりはないからです。

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【解決のポイント】異なる意見を議論することに積極的な人、否定的な人、何も考えていない人がいることを認識しよう。

まずは、日本は異なる意見をぶつけ合うことに否定的な「対立回避型」ということを前提とし、そうではない考え方の国の人たちもいるということを認識しましょう。

その上で、会議ではどのようなことが議論されるのかを確認して、発言の可否、誰に対してどのような発言に注意しなければならないのかを意識して会議に参加するという習慣をつけることがグローバルチームのマネージャーとして求められる重要なチームビルティングの要素の一つであると言えるでしょう。

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