【外国人材相談事例#7】「信頼関係の築き方」問題の処方箋

外国人相談事例#7
執筆者:

山下弘喜

私は企業のグローバル採用に関する支援をライフワークとして長年活動し、よく日本の職場に外国人を受け入れるための心構えなどの研修を行っているのですが、その繋がりから外国人材との働き方について相談を受けます。

今回は「外国人材との関係性の築き方」に関するお悩み相談です。
外国人上司と日本人部下の場合、日本人上司と外国人部下の場合でそれぞれ解説します。

【今回の相談内容】

3ヶ月前から上司が外国人になったのですが、信用されてないような気がするんです。信頼関係が薄いというか。先日も会議で私からいくつも提案したのですが、任せてもらえなくて。今の上司になってからも、これまで通り仕事はきちんとしてきましたし、大きな失敗をしたこともありません。以前の上司はもっと信頼してくれて、仕事ももっと任せてもらえていました。

上司は慎重な性格な人かというとそうでもなく、社内では大胆なマネジメントをする方だと思います。他の社員には、すごく信頼されて裁量を渡されている人もいるのですが。嫌われるようなことをした覚えもなく、関係がギクシャクしている訳でもないので、気のせいなんじゃないのと言われればそれまでなんですが、何か違うと思うんですよ。何だと思いますか?
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相談内容の背景

某外資系メーカーで営業部署の今井さんは、3ヶ月前の人事異動で中国出身の李マネージャーの下で仕事をすることになりました。社内の雰囲気は良好なグローバル組織で、以前までの上司は日本人で、今回が初めての外国人上司となります。李マネージャーとの仕事上の関係は特に問題なく、今井さんの今期の営業成績も順調です。

先日、今井さんがこれまで担当したクライアントの中では大きな取引となる案件の問い合わせがありましたが、今井さんには任されませんでした。これをきっかけに、今井さんはもっと仕事を任せてもらってもいいのに、と思うようになりました。

李マネージャーとは一緒に仕事をしはじめて3カ月が経ち、ある程度お互いも打ち解けてきたと思っていたため、今井さんは実績を出している自分のことをもう少し信頼して裁量を与えて欲しいと思っています。もうすぐ上司と面談する機会があり、その時にもっと信頼して任せて欲しいと言おうかと考えたようですが、上司が外国人ということもあってどこまで突っ込んで話をしていいのか、逆効果になるのではないかと悩んでいます。

【今回の問題】信頼関係の築き方の違い

相互で築かれる信頼は、主に2つのタイプに分類されると言われています。

気持ちでつながる信頼と実績を理解する信頼

実績を理解する信頼(cognitive trust
 相手の実績やスキル、仕事上で頼り甲斐や一貫性など、相手を理解した上で生まれる信頼です。
◆気持ちでつながる信頼(affective trust)
 相手との親密さ、過ごした時間の長さ、共感や愛情といった感情から生まれる信頼です。

基本的に世界中どこでも、人との信頼関係は気持ちでつながる信頼、つまり感情から生まれる信頼です。しかし、仕事上で関わる人たちとの信頼関係は感情以外ににもあり、論理的に仕事上で信頼に足る条件を満たしているかの指標をもとに実績が積み上げられて信頼につながって行きます。

2つの信頼のタイプを分けて考えるか、繋げて考えるか

文化の違いによって信頼の築き方に違いが出てくるのは、この2つのタイプの信頼を別のものとして考え実績重視の信頼だけを仕事上の信頼として考えるのか、繋げて一つのものと考えるのかによります。

前者をタスクベース(Task-based)、後者を関係ベース(Relationship-based)と呼び、国ごとに分類すると以下のようになります。

信頼の築き方 国別MAP
※参照 Erin Meyer “The Country Mapping Tool” より抜粋

前者を極端な例で考えてみましょう。

仕事上では、とても素晴らしく尊敬できるスキルや実績を持っている相手と一緒に仕事をするとして、その相手の人間的な性格、生活習慣や価値観が全く合わず口論ばかりなるような相手の場合でも、仕事上では信頼して一緒に仕事できるのが「タスクベースな信頼」の持ち方です。

一方、このような仕事上では問題なくても感情的にぶつかってしまう相手とは信頼関係が作れないのが「関係ベースの信頼」の築き方になります。

この分類をアジア諸国だけで比較すると以下の通りです。

信頼の築き方 国別MAP(アジア諸国)
※参照 Erin Meyer “The Country Mapping Tool” より抜粋

図を見ると、アジア諸国では比較的「関係ベース」に寄っていることがわかります。

世界各国の中では関係性ベース寄りの日本ですが、この中ではタスクベース寄りです。アジア人の中において日本人は、仕事に関しては実績をベースに相手を信頼し、感情からくる信頼とは区別して考えていることがわかります。

つまり、日本人のポジションの場合、より関係ベースな信頼を築いていくべき相手のタイプ(アジア諸国)と、タスクベースで信頼を築いていくべき相手のタイプ(欧米諸国)の両方が存在して、うまく相手に合わせて使い分けることが求められます

「飲みニケーション」の使い分け

このようにタスクベースと関係ベースで、築いていく信頼の質が違ってくることがわかります。

少し話がそれますが、日本の「飲み会」文化は、お酒を飲むという場を設けて時間を共有し、本音で話す、本当の自分を見せると言ったことができる機会と言えます。これは、お酒を許容できる関係ベースの文化圏(中国や韓国、タイ)に共通しています。

一方、タスクベースの文化圏の人たちからすると、お酒で気を許してだらしのない一面を見せてしまうかもしれないということは、信頼を損ねる危険な場となるでしょうし、どれだけその場で時間を共有しても信頼関係が深まることはあまり期待できません。

飲み会で酔っ払った末の無礼講が許容される文化が世界共通ではないということを知っておくべきでしょう。

【処方箋】仕事以外で、気持ちが通じ合う関係を意識する

【処方箋】仕事以外で気持ちが通じ合う関係を意識する、イメージ図

今回の相談に話しを戻しましょう。今井さんは、一緒に働きはじめて3カ月の中国出身の李さんと『気持ちでつながる信頼』がまだ薄いことが想像できます。李マネジャーは、本人も気づいていないかもしれませんが、今井さんよりも仕事上での感情的な信頼関係を重視しているかもしれません。

その場合、お互いのことをもっと知り合って、共感したり、認め合ったりして、感情的をベースとした信頼関係を育んでいくことが重要になってきます。

次の面談の際には、もっと自分が日頃感じていることや、思いなど自分の感情的な一面を共有したり、李マネージャーのことをもっとよく知ろうと質問してみたりといった個人と個人の繋がりを深めてみることが、よりお互いの信頼関係を深める近道だと思います。

また、一緒にいる時間の長さというのも大事な要素ですので、時には休憩時間におしゃべりする時間をもったり、営業に同行したり、時には一緒にランチをしてみたりして共有する時間を増やしていくことをお勧めします。

自分が上司だった場合の部下との信頼関係の築き方は?

相談者の今井さんは部下の立場でしたが、この記事の読者は上司(日本人)の立場の方も多いかと思います。

そこで、日本人上司と、関係ベースの国出身の部下の場合を考えてみましょう。

この関係性の場合は、日本人上司は、外国人部下を実績だけで判断しようとするのではなく、1人の人としてどういう人物であるかというところをしっかり見て、共感や人間性の評価も忘れないようにしましょう。

外国人部下の立場からすると、日本人上司からの信頼を獲得したいと思うのは当然です。外国人部下は無意識かもしれませんが、より日本人上司と感情をベースにした信頼を獲得しようと努めます。そのため、完璧な自分を演じて成果やスキルで身を固めるのではなく、関係性を築くために少し隙がある素の自分を見せて共感を呼んだり親しみやすい印象を与えたりすることを重視していることでしょう。

このような外国人部下からのアクションを日本人上司は察し、タスクベースの信頼関係だけでなく、関係ベースの信頼関係も加味した上で、どこまで部下に任せるかを判断してほしいと思います。

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【明日実践してみること】自分の話をしてみよう

仕事の実績をきちんと確立している人がより相手との信頼を深めていくためには、感情由来の信頼関係を深めていくことが何より重要です。

そのためには、まず自分のことを知ってもらう。そして、相手のことを知ることで、共感したり、時には反発したりして、少しずつ人間関係そのものを深めていくことが大事になります。

そして、お互いの負担にならない程度に、オフの時にも時間を共有するきっかけを作ってもいいでしょう。これ以上はどこまで仕事とプライベートを分けていくかという個人のライフスタイルにもよるので、無理に行うと逆効果になってしまうこともあり、注意が必要です。

【解決のポイント】信頼の源は2種類 どちらの信頼を獲得していくべきかを相手によって見極めることが重要

【解決ポイント】信頼の源は2種類。どちらの信頼を獲得するか相手によって見極めることが重要!イメージ図

今回は、日本人の今井さんからみて、さらに関係ベースの信頼に位置する中国出身の李マネージャーであったため、感情由来の信頼構築を深めていくことの話になりました。

もし相手がアメリカ出身の上司であったら、よりタスクベースの信頼関係を重視してくるかもしれません。人間関係よりも、いかに仕事上での信頼に足る行動、スキル、業績を持ち合わせているのかが重要視されることでしょう。

このような文化的な違いを理解して2種類の信頼の源を見極められるようになると、今度は、個人ごとの性格や価値観の違いによってどちらの信頼をより重んじているのかも分かるようになってきます。

この信頼構築の仕組みは、応用として対外的な顧客や取引先との信頼関係構築にも役立ちます。今井さんのような営業部署の方は、対外的なお客さんとの信頼関係を短期間で構築しなければなりません。グローバル社会での営業活動の中で、文化的な違いを理解することで、しっかり信頼関係を築けるスキルを身につけることにつながっていくでしょう。