【外国人材相談事例#3】「勝手に進めて失敗されちゃう」問題の処方箋

執筆者:

山下弘喜

私は企業のグローバル採用に関する支援をライフワークとして長年活動し、よく日本の職場に外国人を受け入れるための心構えなどの研修を行っているのですが、その繋がりから外国人材との働き方について相談を受けます。

その中でもよくある相談内容と解決策を、具体的な事例を元に紹介します。


【今回の相談内容】

『会議で決まった業務をチームで役割分担しながら進めていくことが多いのですが、途中でやり方を変えたり、指示したことと違う方法で進めたりするので困っています。

本人はそれでいいかもしれないですが、周りで一緒に働いている人に迷惑がかかってしまうケースがあったり、最悪の場合「できませんでした」と失敗してから報告してきて……。
「事前に相談して」と何度も言うのですが改善されません。どうしたらいいでしょう?』

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相談内容の背景

IT企業でソフトウェア開発のプロジェクトマネージャーである高田さん(仮名)は、4〜5人の開発メンバーと一緒にチームで分担して開発作業を進めています。
受託開発が主な現場では、要件定義で決まっている仕様書に沿ってコーディングしていく業務は、時間的にも余裕があるとは言えない環境です。

チームメンバーの中で唯一の外国籍であるベトナム出身のロイさんは、開発経験5年の中堅社員として活躍しています。ベトナム在住時代、オフショア開発現場で日本の仕事をしていた経験から日本語でのコミュニケーションを取ることができ、来日2年目です。

定例でメンバーと会議をして、進行管理を行っていく中で、方法やプロセス、役割分担を決めて仕事を進めています。会議の時には、ロイさんを含めメンバーの合意をとって仕事を進めていっているはずなのに、途中でロイさんは、仕様や方針を勝手に変更してしまうことがあります。

目的のプログラムが出来上がったとしても、他のプログラムに影響がでたり(出るかどうかをテストする必要があったり)、時には、「問題がありました」と締め切り前日に言ってきたりと、いわゆる「報・連・相」がないのです。かと言って細かくチェックする時間もないので、ある程度任せなければならない状況です。

あらかじめ相談してくれれば、調整もできるし、何よりロイさんは技術があるので、より良い仕上がりしていくこともできるはずなんですが……と悩んでいました。

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【今回の問題】決定プロセスに対する考え方が違う

みんなに同意を取りながら決めていくか、自分の権限の範囲で決めていくか。決定プロセスにおいて日本は独特の文化がある

日本の仕事の決定プロセスは、強固な「合意形成型」で進行していく文化です。

【合意形成型】
みんなで決めて仕事を進めると言うことを徹底しています。
「稟議」システムがその典型で、決定事項は、「全員の同意(コンセンサス)のもとで」と言う前提が企業文化として根付いていて、現場レベルになると会議で合意をとります。
自分で勝手に決めないで、上司や周りのメンバーに相談するという行為がないと仕事がやりにくいという習慣があります。

一方、アジアの多くは「役割 – 権限 – 責任」が一体となってその職域(ポジション)が明確な文化です。

【職域が明確な文化】
仕事において、権限の範囲内で自分が責任を持って決断し、役割を担うべきと言うことが常識です。
自分が行う仕事は責任を持って自分で判断するべきであり、他人に(アドバイスは求めたとしても)合意をとってから仕事を進めると言う概念自体がなかったりします。
アジアにおける決裁の仕方の違い MAP
※参照 Erin Meyer “The Country Mapping Tool” より抜粋

日本は、上の図のように極端に「合意形成型」の決定プロセスを重んじている文化です。それが当たり前なので、そうでないと仕事がうまく進みません。

また、逆も然りで、この文化でない外国籍の人たちは、同意をとりながら仕事を進めていくことに大きな違和感を感じています

何に対して、誰に合意をとっていけばいいのかが感覚的にわかりません。なにしろ、どんなことにも周りの同意をとっていたら、仕事が一向に進まないというだけではなく、「自分で決められる権限が極端に狭すぎる」ということに対して「認めてもらえてない」と言う感覚に陥るからです。

その割に、「責任を持って」なんて言われても、自分で決めていないことに、なぜ責任を取らなければならないのかというロジックにつながるわけです。これは、日本の組織文化において、責任の所在が曖昧になる構造の問題に直面していることも事実として言えます。

フラットな組織か、上下関係の強い組織かどうかも関係している

職場に上下関係があまりなく、フラットな組織が形成されている企業文化では、コミュニケーションが取りやすいという理由から決定プロセスは自然と「合意形成型」になりやすいものです。上下関係や権限がはっきりしているヒエラルキー型の組織では、自分自身での判断に責任が伴うため、自己判断に重きが置かれやすい環境になります。

しかし困ったことに、日本はヒエラルキー型組織であるにもかかわらず、権限がはっきりしていない(もしくは極端に狭い)ため決定プロセスにおいては「合意形成型」にしなければならないというトリッキーな仕組みになっています。これに、外国籍の人たちはで混乱し、「仕事しづらい」と感じる一面のようです。

【処方箋】「報・連・相」を「権限と許可」に置き換えて考える

問題の処方箋。「報・連・相」と「権限と許可」に置き換えて考える

「勝手に進めて失敗されてしまう」ことの対策としては、やはり「報告・連絡・相談」をしてもらう必要があります。そのうち報告と連絡は仕組み化しましょう週報や日報、定例のミーティングなどの情報共有の場を仕組み化すれば、情報は伝達されます。また、何を報告・連絡すべきなのかも、事前に設定しやすいです。

しかし、相談は、本人からの発生ベースなので不確定要素が強く、人によって相談しやすい、しにくいと言った感情的な部分や、人間関係に左右されます。

特に外国籍社員の場合、日本語での意思疎通というハードルがあるだけにより一層相談しにくい心理的な要素も加わります。こう言った気持ちの面も重なり外国籍社員は自己完結型になりやすく、責任の範囲内でやり抜いてしまおうとして結果が違ったものになったり、できないままになってたりしがちです。「なんでも相談してください」は、基本的に彼らを放置している状態に等しくなります。

そこで「報・連・相」がうまくいかない対策としては、「変更をするときは、必ず許可を取ってください」と、彼らの権限の範囲を明確にすることが大事です。ここまでは自分で決めて良い【権限】を設定し、そうでないものは一度必ず【許可】を取らなければならない仕組みを作ります。

「報告・連絡・相談」を、「権限」と「許可」に置き換えるのです。

今回の高田さんのケースの場合……

◆必ず実行しなければならない仕様はどこまでかを明確にし、「変えてはいけない」と言うことを前提として話をしておく。【権限】

◆その上で、変更をする必要が出た場合やしたほうがいいと思った場合は、必ず許可を取る。【許可】

こうすることによって、ロイさんは、自分でどこまで決めて良いかがわかりますし、判断を別の人に委ねなければならない、合意をとる習慣が身についてきます。

【明日実践してみること】日本では、みんなで同意しながら仕事を進めていく考え方すると理解してもらおう

あらためてチームで働く環境を、「役割 – 権限 – 責任」という視点で見直してみてください。あなたが考えるチームメンバーの一人ひとりの役割に対して、どこまでの権限と責任を渡しますか? 言い換えると、どこまで自由にできることをメンバーと決めていますか?まずは、この線引きをしっかり行うことが大事です。

その上で、それ以外のことに関しては、みんなの同意を得ながら仕事をしていく事が、日本のチームワークなんだと言うことを理解してもらいましょう。

【解決のポイント】日本型の意思決定システムは日本固有の組織習慣で、外国人にとって経験のない職場環境であると理解しよう

解決ポイント

海外企業と仕事をしていると「日本は遅い」とよく言われます。何が遅いかと言うと「意思決定」が遅いと言うのです。

それもそのはず、日本は何事にも全体の同意を求める必要がある上に、ヒエラルキー型組織で、下から上に、上から下にと同意形成が求められるからです。一方海外では、権限のある立場の人がその場で決めてしまえば(決裁者判断型)、ひとまずスタートします。

日本の場合だと決まるのは遅いが、一度決まってしまえば、全体に合意が取れているので、一気に事業が進むという利点があります。一方、決裁者判断型文化の場合はとにかくトップダウンで意思決定がなされると、その後の調整に時間を要し場合によってはご破産になることも。つまり、どちらの仕組みも一長一短があるわけです。

外国人社員が、「みんなの同意をいつも求めていたら、仕事が捗らない」と言ってきたらこの話をしてみてください。「自分ひとりで決めてしまってその後ダメになったらあなたの責任だけど、みんなで同意できてから実行した方が成功率は高まるし、あなた1人の責任で責められることもないよ。その方が、安心して働けるでしょ?」と。

いかがでしたか? 日本の意思決定の文化は、ずっと同じ会社で働くことを前提とした終身雇用を維持していくために、責任が社内全体に分散して、個人に偏らないようにという思いやりの文化なのではないかと思います。逆に、誰も責任を取らないようになるじゃないかといった耳の痛い声も聞こえてくるのも事実です。

いずれにしても、違う文化の人が入って来ることではじめて議論になるわけですから、やはりダイバーシティな職場環境になると、さまざまな新しい発見に繋がっていくことは間違い無いかと思われます。

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