農業の人手不足を補う外国人雇用のポイントとは?北海道の大規模農家が語る定着のコツ
雇用のきっかけや、期待と実態、そして感想など、企業の本音をマイナビグローバルの代表取締役社長である杠元樹が聞く対談シリーズ第一弾!
農業は、従事者の平均年齢が67.8歳と、特に高齢化が著しい業種。機械化が進んでも、若い働き手は必要であることに変わりはないでしょう。北海道の大規模農家、本山グループでも働き手の確保は喫緊の課題でした。
2014年から外国人の受け入れを始め、今や「外国人労働者無しというのは考えられない」と信頼を寄せる経営者、本山忠寛(もとやま・ただひろ)さんにお話を聞きました。
本山 忠寛 さん
本山農場代表。36歳。北海道・美瑛町の農家の四代目。留学を経た後、就農。
弟の賢憲さんが代表を務める本山ファームと共に、本山グループ約150haの農地で玉ねぎ・アスパラガス・トマト等を栽培。トマト栽培のビニールハウスは63棟にも及ぶ。2020年に法人化。2014年から外国人技能実習生の受け入れを開始。現在は特定技能含め16名の外国籍人材を雇用している。
【聞き手】
杠 元樹 マイナビグローバル代表取締役社長。
目次
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高齢化による採用難から外国人雇用に踏み切る
杠:本山農場で外国人技能実習生の受け入れを始めたのが2014年とおっしゃっていましたが、外国人採用のきっかけはどんなことだったのでしょうか?
本山:はい。パートの高齢化が進み、働き手の確保が難しくなってきたことがきっかけです。以前はパートが、口コミで代わる代わる毎年10名前後は来てくれていました。それが、入れ替わりのサイクルが鈍くなって、1人減り2人減り……。「何かしらの手は打たなきゃいけない」と思っていたところ、たまたま人材紹介会社の営業の方がいらして。先代である父が話を聞き「この先、外国人技能実習生に頼らないと厳しい時代がやってくるだろうし、乗り出そう!」と。
杠:厳しくなっているとは言え、まだ日本人の応募がある中で外国人雇用というのは、一歩先を行っていた感じがしますね。社内やご家族から反対意見はありませんでしたか?
本山:正直、僕は完全に反対でしたよ。弟や他の家族も「必要ないのでは」という考え。外国人技能実習生が来ることに抵抗感があったことも事実です。しかし、雇用への危機感はありましたし、農業を通じた社会貢献をしたいとも考えていましたから、強く反対はできませんでした。実際、2014年に3人を受け入れるところから始めましたが、思いのほか真面目に働いてくれました。父は長く経営をしてきただけあって、先見の明があったのでしょうね。
真面目に働くのはあたりまえ、夢や目的の実現をサポートする喜びを感じる
杠:今はどのくらいの人数を受け入れているのですか?
本山:私の経営する本山農場、弟の経営する本山ファームを合わせた本山グループ全体で、外国人技能実習生と特定技能外国人、全16名を受け入れています。
杠:本山グループの従業員が約30名とのことですから、半数が外国人なのですね。
最初はネガティブにとらえていた外国人雇用ですが、実際に受け入れてみてどのように感じましたか。
本山:今は外国人労働者無しというのは考えられません。夢や目標をもって日本にきているからか、真面目に一生懸命働いてくれて大満足です。働いている人たちは、それぞれに働きに来た理由があります。技能実習という名目で来ていたりはしますが、実際は家を建てたかったり、お店を経営したかったり、家族のためだったりもします。お金を稼いで自国へ帰って夢を叶えた話を聞くと、「本当に良かったな」と思いますし、夢を叶える手伝いができたことが嬉しかったです。また、心と心の交流ができているとも感じられます。父がもともと「大事な息子さん・娘さんを預かる」という考えで、来てくれた人が「日本に来て良かった」と思ってもらえるように対応していました。例えば、定期的にバーベキューをやって交流を図ります。すると、互いの言葉や文化を教え合えますし、逆に今度は旧正月(春節)のお祝いに招待されたりもするんですよ。今年はコロナ禍で派手なお祝いはできませんでしたが。
農業の現場での工夫
こちらから積極的に声をかけ続ける
杠:外国人労働者たちの退職が少ないと伺いましたが、工夫されている点はありますか?
本山:僕は、まず相手の国の言葉で、高いテンションで挨拶をします。初めは多くの人が硬い表情ですが、自分から挨拶をし続けると、早いと1か月後には緊張が解けてきます。どんなに硬い子でも半年もすればやわらぎますよ。海外から見知らぬ土地へ来て、言葉もうまく話せないなかで、コミュニケーションをとろうとするのは難しいですし、気後れもあると思います。日本人・外国人ということでなく、誰でもそうではないでしょうか。だから、私から話しかけに行くんですね。
杠:打ち解けるまで半年かかるとなると、心も折れそうですが……。
本山:一方通行でもいいんです。とにかく声をかけまくる。初めは、日本語が分からないから、コミュニケーションが取りにくい部分もあると思います。こちらもある程度、向こうの言葉を覚えておけば、向こうも日々勉強をするので日本語能力はメキメキと上達します。コミュニケーションをとるには雰囲気づくりも重要ですね。他の事業者を見ていて、受け入れた外国人に元気がないと思うことがあります。経営者が真面目だと思うのですが、すると働くほうも「真面目にしなきゃ」と思うんでしょうね。窮屈な状態が続けば疲れます。祖国から離れた場所に長年いるのはストレスでしょうし、それを少しでも取り払う努力は必要だと思います。僕はオンオフが切り替えられれば、あとは楽しくやれればいいと思っています。ですから、あえてふざけて接することもありますね。自負するわけじゃないですけれど、本当にバカになれるんですよ、僕は(笑)。
杠:外国人に向き合う姿勢は、日本人から関わり続けることが重要なんですね。
経営者と外国人の橋渡しをするスタッフを配置
杠:実習生たちにはどのように業務指示をしているのですか。
本山:「トマト取る、お願い」など、できるだけ簡単な言葉で言うように気をつけています。また、外国人たちの中に、同年代の日本人スタッフを入れています。これがポイントです。管理者や他の日本人スタッフとの橋渡し役になるからです。実習生だけだと、作業の勘違いが起こり得ますが、日本人スタッフがいるとそれがなくなる。都度教えられますし、コミュニケーションもとれます。同年代であれば実習生と同じ目線で接することができ、お互いに歩み寄りやすくなりますね。例えば50代の従業員が10代20代の実習生と打ち解けようと思うとお互いに大変です。日本人でも同じですよね。
杠:橋渡し役に若いスタッフを配置したことポイントですね。
本山:実は父の代のときは全体ミーティングもしていませんでした。朝になるとそれぞれが現場に向かい作業をし始め、それから父が個別に作業を伝えて回るというやり方。それだと、効率も悪いですし、どういう目的を持って作業をするのかが全員に伝わらない。今では毎朝ミーティングをしています。実習生を受け入れたことで変わりましたね。普通の企業では当たり前ですけれどね(苦笑)。
7年間で失踪者はゼロ
杠:技能実習制度については失踪問題が取り上げられることも多いですが、実際、本山農場さんではどうでしょうか。
本山:本山グループでは今までに1人も失踪者が出ていません。監理団体の方は「すごい」と言ってくれますが、1人の人間として接した結果です。ニュースなどでトラブルの話を聞くと、事業者が外国人を人として扱っていないのかなとも思ってしまいますね。賃金を大幅に減らして残業をさせるという話もあり、耳を疑いました。そういう問題があれば、失踪などにもつながりますよね。当社は賃金も労働基準法に則ったもの。受け入れる側として当たり前ですが、そのような配慮をしていくことで、まず大きな問題は生まれないかなと思います。
杠:賃金の話は、多くの企業様から質問を受けることが多いです。
本山:技能実習から特定技能へと上がる際には、少額であっても賃金を上げるようにしていますね。
業務の幅が広い特定技能のメリット
特定技能なら書類作成の手間も大幅に減る
杠:農業分野でも特定技能人材の活用が一機に進んでいます。本山農場さんでもすでに取り組んでいらっしゃると聞いていますが、その実態やメリットについてはどのように考えていますか。
本山: 必要書類の煩わしさが減ったことはとても嬉しいです。技能実習制度を利用すると、僕らが仕事の手を止めてまで書類作成や手続きをしなければならないこともあったので。それが感覚では1/4くらいに減りますから随分楽です。もちろん仕事を覚えてくれるのも嬉しいこと。当社の場合、技能実習から特定技能にランクアップした人がほとんどで、やはり作業や言語の習熟度も高いです。いろいろな面でメリットはあります。
業務範囲の幅が広いことが最大のメリット
杠:昨今、技能実習機構による法令違反の摘発が増えています。その中でも業務違反によるものが増えていますよね。農業分野では、6次産業の浸透・増加によって業務範囲が広がっていると思うのですが、特定技能人材の採用はこの点でメリットになるのではないでしょうか。
本山:そうですね。やっぱり特定技能は業務範囲が広いことが大きなメリットだと思います。技能実習は業務範囲がかなり狭いですから。当社も6次産業化を考え、加工品を手掛けようとしていますが、その際、技能実習だと作業できないこともありネックになりますよね。現行の実習制度はちょっと固すぎるかなとも思うこともあります……。
「転職可能」は特定技能のデメリットなのか
杠:一方で、特定技能へ移行すると転職も自由になりますが、その点はいかがでしょう?
本山:もちろん、当社より良い企業があれば、そちらへ人材が流れるリスクはあります。それを防ぐためには「この子たちに働いてもらえるような良い農場、経営主でいよう」ということですね。
杠:ある意味、自由競争の世界にさらされるということでもありますよね。
本山:流出のリスクもありますが、逆に特定技能を持った人がこちらに来てくれることも可能です。実習生たちには日本に来た同期ごとでネットワークを持っていたりもします。ですから、ネットワーク越しに良い企業であることが伝われば来てくれます。実際に、来てくれる例もありますよ。これもまた、企業が成長するチャンス。外国人労働者の受け入れは、企業が努力する、きっかけを与えてくれますね。
企業努力を続ける姿勢が外国人の定着につながる
外国人労働者の受け入れが自社を成長させたと、繰り返し語った本山さん。農業でも加速する人手不足を見据えて、三代目がいち早く受け入れを始め、四代目の本山さんが定着させた過程には、“人対人”として交流していくという一貫した姿勢が感じられました。これは決して特別なことではないでしょう。慣れない環境にいる相手には、こちらから声をかけようと思うのは当然の気持ちです。本山グループの事例は、相手にとっても良い会社であろうと努力を続けるからこそ、信頼関係が築けて長く働いてもらえる会社になれることを教えてくれます。
仕事の課題やスタッフの不安に真摯に向き合って、対応していった本山グループ。奇をてらわない、その対応こそが外国人採用を成功させる秘訣に感じられました。
※2021年5月13日インタビュー実施
(執筆協力:三坂 輝)
▶メイン画像写真提供:マイナビ農業
▶参考資料:農業は、従事者の平均年齢が67.8歳(「農業労働力に関する統計」農林水産省)