大規模農業の労働力対策に外国人雇用!居心地の良さと口コミで採用拡大

サンクローバーメイン画像
執筆者:

外国人採用サポネット編集部

雇用のきっかけや、期待と実態、そして感想など、企業の本音をマイナビグローバルの代表取締役社長である杠元樹が聞く対談シリーズの第二回。
北海道で酪農を営む株式会社サンクローバーの菅原達夫(すがわら・たつお)さんにお話を聞きました。

サンクローバーには約1000頭の牛がいるため、搾乳は1回で約4時間。朝夕2回で合計8時間もかかります。必要不可欠な搾乳にかかる人手確保への対策が、外国人労働者の受け入れです。今では完全に外国人労働者たちによって搾乳が行われるとのこと。受け入れのきっかけや、採用が広がっていくという、その実態について対談しました。

【話し手】
菅原 ​達夫 さん
株式会社サンクローバー代表取締役。5戸の酪農家が集い、2015年に法人化。
もともと約700規模だった飼養頭数を精力的に増やし、現在では約1000頭。業務を「搾乳」「ストール」「ホスピタル」「哺育」の4部門に分け、作業の効率化を図っていることも特徴。創業時から外国人技能実習生がおり、現在では中国人15名・ベトナム人4名が働いている。

【聞き手】
杠 元樹 
マイナビグローバル代表取締役社長。
経営者必見!外国人採用で成功する企業と失敗する企業の違い

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経営規模拡大から外国人労働者の受入数も増加

株式会社サンクローバー外観

前身から外国人労働者の受入を始めたサンクローバー

杠:まず外国人採用を始めたきっかけを教えてもらえますか?

菅原:きっかけは先代社長です。サンクローバーはもともと、私も含めて5つの酪農家が集まって設立しました。先代社長もその1人で、もともと中国人の技能実習生を受け入れていたのです。そこでサンクローバーを設立後も、受け入れを続けたことがきっかけでした。

杠:もともと集まった5戸のうち、他の4戸に外国人労働者はいなかったそうですが、受け入れに抵抗感を覚えた方はいませんでしたか?

菅原:いなかったですよ。素直で真面目に働いてくれましたから、むしろ印象も良かったです。そこから、牛の飼養頭数を増やすにつれて、さらに外国人労働者の受け入れを増やしていきましたね。

杠:今は、どれくらいまで増えたのですか?

菅原:今では19名です。中国人が15名、そのうち特定技能が1名、残りの14名は技能実習生です。その他にベトナム人が4名いて、特定技能が2名、就労ビザ(技術)が2名です。

外国人労働者たちが大事な戦力として活躍

ロータリーパーラーでの搾乳の様子

杠:御社は、食堂を設けるなど従業員の福利厚生もしっかりされているので、日本人の採用には苦労しない印象を受けましたが、あえて外国人労働者の受け入れを増やした理由はなぜでしょうか?

菅原:やはり採用には苦労していますよ。しかし、応募者を増やしたくて外国人労働者へ目を向けたというよりは、仕事内容が理由ですね。サンクローバーでは搾乳にロータリーパーラーを使用していますが、1000頭近くの牛がいますから朝夕2回の作業だけで8時間かかります。単純作業は日本人には敬遠されがちで人気がないため、外国人労働者の力を借りています。今では搾乳はすべて外国人だけで行っています。

杠:仕事を回す上で、外国人労働者たちが本当に大事な戦力になっているということですね。

菅原:そうですね。もしいなくなったら、うちの牧場は廃業しなければならないほどです(笑)

技能実習生たちの業務の幅には注意が必要

搾乳作業を行う、外国人労働者

杠:事業者の方々にお話を聞くと、年間を通じてさまざまな仕事が発生するとおっしゃいます。だから、「技能実習生には本当はいろいろな仕事をしてもらいたいけれど、それは違法になってしまう」と。決まった業務しかできないことがネックになることがあるようですが……

菅原:他の牧場で、違法行為を指摘されたというケースを聞きました。結果、そこで働いていた技能実習生が他に働ける会社へ移る必要があり、うちの牧場に来たこともあります。サンクローバーではもちろん、きちんと技能実習計画に沿った作業をしています。

杠:御社では、外国人労働者の皆さんそれぞれに、違う仕事をやってもらいたいと感じるときはないのでしょうか?

菅原:サンクローバーは、搾乳に特化した経営を行っています。例えば、TMRセンターから餌の供給を受け、牧草を刈って詰めるといった余計な作業を生じせない仕組みをとっています。ですから、仕事は年間通じて同じような内容ですし、技能実習生たちに違う仕事をやってもらうという必要性がないのです。

杠:大規模化によって専門分野を分けているうえに、事業自体も専業化しているから、他の作業に当たってもらわなくても済んでいるのですね。

菅原:はい。ただ、それでも技能実習生の作業の幅には不自由を感じることもあります。搾乳の作業はお願いできるけれど哺育の作業は難しいなど、制度の利用上の制限もありますから。

特定技能のメリットは業務範囲の広さ

杠:御社では技能実習生から特定技能へ移行した方もいらっしゃいますよね。

菅原:はい。特定技能は技能実習に比べて業務範囲が広いので、雇用するメリットが大きいですね。

杠:農業では6次産業化が進み業務範囲も広がっていると思いますが、その点ではいかがでしょうか?

菅原:当社では現状、搾乳だけで手いっぱいなので、6次産業化はまだできていません。6次産業に取り掛かっている事業者では業務の幅が広くなるため、やはり特定技能外国人を雇用するほうがメリットはありますよね。

杠:一方で、特定技能は技能実習と違い、いわゆる「就労ビザ」です。職場の選択、転職が自由になりますよね。農業の事業者さんのなかには、転職を心配して技能実習生しか受け入れていないという例もあります。

菅原:他に移ってしまうリスクはありますよね。しかし逆に考えれば、他から自社に来てくれて助かるということもあります。うちでは特別な対応をしているという意識はないのですが、良いと言って来てくれるケースは多いです。それはとてもうれしいことですね。

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居心地の良さを作り出す心構え

日本人も外国人労働者もみな一緒にランチを食べている、その様子

「また働きたい」と言ってもらえる事業所づくりを考える

杠:今は必要な人手が確保できていると聞いています。

菅原:実はコロナ禍の影響から、帰る予定だった外国人たちが日本に残っている状況です。子どもを母国に残して働きに来ている人もいますから、帰りたい気持ちは強いでしょう。ですが聞いてみると、帰って落ち着いたら「また日本に来て、サンクローバーで働きたい」と言ってくれています。居心地が良いのだそうです。

杠:菅原さんが考える、居心地の良さを作る秘訣は何でしょうか?

菅原:仕事ですから、ときに厳しくすることもあるかもしれませんが、それだけではダメですね。優しく接することも大事です。暴力を振るうなんてもってのほかです。若い経営者や従業員だと、我慢できる範囲が狭いのかもしれませんね。当社の基となった5戸の酪農家は、皆が60代に近い。技能実習で来るのは20代の子たちですから、子どもたちみたいなもの。私なんか「お父さん」と呼ばれていますよ(笑)。そういう意味では、大人の対応ができているのかもしれません。

SNSでの拡散も念頭に外国人雇用をしなければならない

杠:途中で辞めたり、帰国したりする方はいらっしゃらないですか?

菅原:いないです。むしろ母国へ帰った方からの紹介で新しい方が来てくれています。それは設立当初からで、最初に働いてくれた中国人の方も帰国後に周りの方に当社を薦めてくれていましたよ。

杠:口コミ紹介で、雇用のサイクルがとても上手く回っているのですね。

菅原:そうなんです。外国では、日本よりもインターネット文化が進んでいます。悪い噂も良い噂も瞬く間に広がっていきますよね。そうした横のつながりで、サンクローバーに来てくれる人も増え、採用人数が増えていった部分もあります。

杠:Facebookの利用率もベトナムは日本の倍ですからね。SNSの外国人ネットワークは日本よりも盛んで、口コミで就労先の情報が広がっていくことも念頭に置かなければなりません。悪い噂が流れれば、その農家は選ばれなくなってしまいます。逆に魅力的な職場であれば、評判を聞きつけて働きたい!という外国人労働者が増えて、御社のように採用も円滑になるわけですね。

評判が採用を好循環していく

菅原:在留資格には期限があるものが多いので、外国人労働者を毎年受け入れていくと数人ずつ入れ替わるサイクルになり、残った人が新しく入った人に仕事を教えてくれるという良さがあります。搾乳の作業はそう難しい技術指導が必要ではないのですが、それでも乳房炎の見つけ方など、教えておきたいことはあります。また、日本での生活習慣についても伝えなくてはなりません。

杠:残った人が新しい人に生活習慣なども率先して教えてくれると助かりますよね。牧場では餌が乾燥しているため喫煙に注意しなければならないのに、なかなか守らない人がいて困ったという話を聞いたことがあります。

菅原:当社では喫煙で困ったことはないのですが、やはり注意はしていますよ。彼らも「分かりました」と口では言うものの、直してくれないこともあります。繰り返しコツコツ言い続けることがポイントですね。

片言でも日本語でコミュニケーションをとること

杠:言葉の壁についてはいかがでしょうか?

菅原:彼らにはなるべく日本語を覚えてもらいたいという思いもありますから、できるだけ頑張って日本語で伝えます。また、翻訳機も駆使してコミュニケーションをとることもあります。人にもよりますが、片言でも積極的にコミュニケーションをとっていると、少しずつ日本語が上達してきて言いたいことが分かるようになりますね。

杠:長く働いている方だと、日本語も上手になってきますよね。

菅原:はい。技能実習から特定技能に資格を移行した方は日本にいる期間が長いので、日本語能力は比較的高いですね。ただ、当社の場合、人数が増えてグループができてしまい、日本語が得意な人を通して皆に指示が伝わるようになってしまって……。すると、まわりの人はあまり日本語が上達していかないという課題を感じることもあります。

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先入観をなくして、まずは外国人労働者の受け入れを始めてみる

オンライン対談を行う、菅原 ​達夫さんと杠 元樹。

杠:外国人採用を迷っている農業の事業者さんは、まだまだいらっしゃいます。人手不足は分かっているのだけれど、踏みとどまっているという話を聞きます。長く外国人採用を経験している菅原さんからアドバイスはありますか?

菅原:踏みとどまっているという、その壁を無くさないとならないですよね。まずは1回、思い切ってみることです。当社近くの個人経営農家さんは、はじめは悩んでいたのですが、いざ踏み出してみたら手放せなくなって、次々と外国人労働者を採用していますよ。

杠:まずは一緒に働いてみるということですね。

菅原:職場とその人が合うか合わないかは、日本人同士の場合でもありますから。それをはじめから見抜くことは日本人の場合と同様に難しいでしょう。だからまずは一度、受け入れを始めてみてはいかがでしょうか。想像よりずっと助かると思いますよ。

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対談後記:居心地の良い労働環境で採用を広げる

日本の農業では大規模化が進んでおり、同時に農業法人や企業の農業参入も増えています。一方で大規模化には労働力の確保が課題となります。その際、外国人労働者の受け入れは一つの選択肢ですし、特に大規模化に伴う業務の拡大では、業務範囲が広い特定技能はメリットでしょう。

これは酪農でも同じこと。サンクローバーは紛れもない大規模農家の一つです。ロータリーパーラーなど作業を効率化させる大型機械の導入や、専門分野を分けての業務で効率化を図っていますが、大規模化を推し進めるに当たって、外国人労働者を積極的に受け入れてきました。

菅原さんは何気なく語りますが、20名弱の外国人労働者たちを受け入れ、居心地の良い労働環境をつくることで、母国に帰っても口コミをしてくれる企業風土は、特筆すべきことでしょう。

「あの農家が良い」と言われるからこそ、働き手も集まってくれます。

※2021年5月27日インタビュー実施

(執筆協力:三坂 輝)


※参考資料:Facebookの利用率もベトナムは日本の倍

以下より、日本の利用率は約32.7%、ベトナムは約61.5%(6000/9762)。