経済大国になっても日本へ職を求める中国人たち

執筆者:

蔡光

2001年のWTO加盟を機に急成長を遂げた中国は、日本を抜いて世界第二の経済大国となりました。近年日本のメディアによる「中国観光客の爆買い」の報道などの影響もあり、かつてのような「貧しい国」のイメージはすでに過去のものになりつつあるのではないでしょうか。

外国人採用の界隈でもよく「最近の中国人は、経済状況が良いので、普通の条件だと見向きもしてくれない」、「中国人が日本に出稼ぎに来るなんて昔の話だ」などと耳にすることも少なくなく、中国人出稼ぎ労働者が海外を目指す時代も一見、終わりを迎えているかのようにも見えます。

では、実際のところはどうなのでしょうか、本記事で解説していきます。

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中国人労働力の海外輸出の現状

14億の人口を抱える中国は、同時に大量の余剰労働力も抱えており、毎年約50万人前後の労働力が海外に流れています。いわゆる海外への出稼ぎ人員です。これらの人々の大部分は学歴やスキルが高くなく、就労先の国の言葉を話せないなどの理由から、建築、農業、漁業、繊維などの業種で単純労働に従事しています。中国から技能実習生として来日する人々は、ここに分類されます。

下の表1と表2が示すように、中国が世界2位の経済大国になった2010年代以降も、中国から海外への労働力輸出はほぼ横ばいに推移しています。

海外への労働力輸出人数推移グラフ
※単位:万人
海外の中国人労働人口の推移グラフ
※単位:万人
※表1・表2:中国商務部発表データより筆者作成

2019年時点で海外にいる中国人労働者数が一番多かった地域はアジア(71.11%)で、全世界の国別では日本が14.5%でトップでした。
※上記記述の「中国人労働力」は日本の在留資格で分類される「専門的・技術的分野」の高度人材は含まない

消えていなかった「ジャパンドリーム」

2020年、日本における中国人労働者数は419,431人で、国籍別では初めてベトナムに抜かれ第2位になりましたが、それでも毎年増え続けています。全体の約半分を占める長期就労目的の「技能実習」と「専門的・技術的分野」の在留資格をみると、減少傾向の「技能実習」を補うかのように、「専門的・技術分野」は増え続けており、双方を合わせると全体的には毎年増加していることがわかります。

在日中国人労働者の推移グラフ
※単位:人
※上表は厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況より筆者作成

技能実習生においても2017年にベトナムに逆転され、2012年に約10万人だった人数が2020年には約7.7万人までに減少していますが、筆者と交流のある中国現地送出し機関の担当者たちは、技能実習生を希望する現地の中国人の数はまだまだ多いと口を揃えます。学歴やスキルなどを持たずチャンスに恵まれない人々がまだ数多く存在し、日本に出稼ぎに行くことは今でも「ジャパンドリーム」として有効だと言います。つまり、現地の希望者は減っていないのに、受入側の日本企業の変化など諸要因によって中国人に開いていた技能実習という入口が近年狭まりつつあるのが現状です。
そのため本来であれば技能実習で来日していた人の中で、なんとか学歴条件を満たす一部の人材が「専門的・技術的分野」にスライドする形になっていることから、中国人の「専門的・技術的分野」人材レベルは、低レイヤーからIT系の高度人材まで、非常に幅が広いのが特徴です。

また近年、日本のインバウンドビジネスの拡大に伴い、中国語を話す人材の需要が急増したことにより、中国の大学で日本語を専攻した人材の大量採用が盛んに行われたことも「専門的・技術的分野」の増加の一因となっています。

なぜ彼らは日本での就労を目指すのか?

では、なぜ彼らは日本で就労したいと考えているのでしょうか。これには3つの理由があります。

① 「地域による経済格差」

世界有数の格差社会である中国では、所得上位1%の人たちが下位50%の全体より多くの資産を保有しているとも言われています。中国には23の「省」と呼ばれる行政地区がありますが(他に5つの「自治区」や4つの「管轄地直轄市」もある)、それらの地域間には大きな経済格差が存在します。

例えば、私の地元である中国東北部の吉林省(人口2690万人)は、人口規模では上海市(2428万人)と同程度ですが、2019年のGDPは吉林省の11,727億元(19.6兆円)に対し、上海市は38,700億元(約64.6兆円)と3倍以上の差があります。そのため都市部に“良い仕事”を求める人が集中します。

② 「農村戸籍と農民工」

また、中国には国民の戸籍を都市と農村に分ける独自の戸籍制度があり、2018年時点では農村戸籍の比率が5割以上を占めています。多くの農村出身の労働者(農民工)は賃金の高い都市に出稼ぎに行き、建設現場や製造工場などのブルーカラーとして働いており、2019年の時点で農民工は2.9億人にのぼります。平均月収は3千元(約5万円)台程度ですから、都市部の物価を考えると生活は大変厳しいことがうかがえます。

③「学歴至上主義社会」

「中国の給料は日本と変わらない」というような話を時々耳にしますが、それはあくまで北京、上海、広州、深センなどの大都市の外資系や現地中堅企業、国有企業の管理職などのごく一部の話であり、未だに5,000元(約8万円)以下の月収で働く人々が全体の8割以上を占めています

そもそも、条件の良い仕事に就くためには、大学受験から始まる熾烈な競争を勝ち抜かなければなりません。昨年の大学受験者数は1000万人を超え(日本は約55万人)、世界からみても激しい受験戦争と言えます。また、例え大卒であっても、一流大学(重点大学)卒でないと中国の大都市では、上述したような仕事に就くのは非常に困難です。多くの学生たちが欧米や日本に留学するのも、自分の専門性を高めたり、海外の大学や大学院の学位によって自身の学歴に箔をつけたりして、将来良い仕事に就きたいと考えるためです。

中国人留学生のアルバイト事情

「中国人留学生はお金に困ってないからアルバイトをしなくなった」とのような話をよく聞くが、実態はどうでしょうか。
2019年、日本で働く中国人就労者418,327人のうち、留学生によるアルバイト(資格外活動)の人数は84,014人で、20%の割合を占めています。
これは、2019年の中国人留学生数124,436人のうち、68%がアルバイトをしている計算になり、10年前の2010年の80%から下がる一方ですが、中国人留学生の母数も増え続けているため、アルバイトをする中国人留学生数もここ10年間で全体的に増加傾向にあります。

外国人留学生在籍状況調査結果グラフ
外国人留学生在籍状況調査結果
※単位:人
※上表は厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況とJASSOの「外国人留学生在籍状況調査結果」より筆者作成

確かに、経済力の上昇により両親からの仕送りだけでも学費と生活費を賄える中国人留学生が年々増えているのは事実です。学費や逆仕送りのためにアルバイトに励む多くの東南アジア留学生たちと違って、社会経験や語学の実践、交友などの目的で週2~3回程度のアルバイトをする中国人留学生が多いそうです。

今では30万人規模にまで増えた外国人留学生ですが、国籍別では中国が4割を占めており、人数では未だに圧倒的なトップです。近年留学が終わったら国に帰って就職する中国人も増えてはいますが、中国人留学生が外国人新卒採用市場において主力となる予備軍であることはおそらく今後も変わりないでしょう。

>>【徹底解説】外国人留学生のアルバイト採用方法と知っておくべきポイント

中国人求職者の置かれた厳しい現状

直近では、インバウンドブームで来日した数多くの中国人就労者たちが、旅行業の打撃によって余剰人員として採用市場に出回っているうえ、一時的に帰国を先延ばしした「特定活動(就職活動)」の留学生たちも加勢して就職競争はさらに激しさを増しています。
新型コロナウイルスの影響で先行きが見えない今、ワクチンの普及と世界経済の回復次第で国家間の人材移動が徐々に緩和されるとは思いますが、コロナ以前のような賑わいを取り戻すにはもう少し時間が掛かりそうです。

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