外国人介護士採用 “反対派” から “賛成派” になった担当者に聞く、受け入れ成功の秘訣
北海道北見市にある医療法人社団久仁会が外国人介護スタッフの迎え入れについて検討を始めたのは、慢性的な人材不足がより深刻化し始めていた2016年のこと。
その後、同会では2020年の技能実習生1名、さらに翌2021年の特定技能外国人1名を振り出しに15名の外国人介護スタッフを迎え、現在は12名が在職中です。
新型コロナウイルスの影響もあり、検討から受け入れまでに4年もの時間を要するなど、まさに紆余曲折を経験したという同会。
今回は管理職として外国人スタッフ受け入れにおける主導的な役割を果たした嵐さんに、過去の経験から得た教訓や気づき、さらには現場の介護スタッフのケアなどに関する心構えなどについてお伺いしました。
嵐 達也 さん
医療法人社団久仁会 人事課 | 最初は未知の外国人採用に後ろ向きだったものの、情報の収集と分析の結果、方針を転換。主に現場スタッフとの意識の共有に重点を置き、外国人受け入れの態勢の確立に尽力した。 【医療法人社団久仁会】北海道北見市に位置する久仁会は、「白川整形外科内科」から派生した介護支援事業者として、地域に根ざした事業を展開している。
目次
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受け入れ反対から一転、賛成へ。きっかけは他業種との人材獲得競争
―まず最初に、医療法人社団久仁会様の概要についてお聞かせください。
嵐さん(以下、嵐):整形外科から派生した介護事業者として、自治体と連携した介護福祉事業を展開しており、その一環として、入所100床を中心に通所リハ、訪問リハ等、介護老人保健施設「いきいき」を運営しています。
―医療法人社団久仁会様では、どのような経緯で外国人介護スタッフの雇用を検討され始めたのですか?
嵐:外国人雇用を検討し始めたのは、慢性的な人手不足のために現場の負担がどんどん大きくなっていた2016年です。少子高齢化の影響で、介護業界に限らず、日本全体で人材の確保が難しくなってきたころですね。
当会でも採用活動が思うように進まなくなっており、その打開策のひとつとして理事から提案されたのが外国人留学生を雇用するというプランでした。それを受け、外国人採用について本格的に調べてみたのが最初のきっかけです。
―内部で反対意見はありましたか?
嵐:実は、私が一番強く反対していました。
介護職員をまとめる立場にあったため、外国人スタッフ受け入れの話が出てきた当初、「今も人が足りなくて困っているのにさらに仕事が増える」「人手不足対策としては賛成するが、知識と手間とコストに余裕がないと」と思ってしまったんです。
でもその考えが変わったのは、介護分野だけでなく日本全国で人手不足が起きていて、様々な企業が外国人雇用を検討し始めていると知ったことがきっかけでした。
情報収集の過程でさまざまな講習会に参加し、他分野の方々とお話をするうちに、どの業界でも人材確保に関して大きな危機感を抱いていることがよく分かったのです。正直、外国人雇用は手間もコストもかかって非常に大変だと思いましたが、今後は人材の取り合いになると痛感し、やるしかないと思いました。
―情報収集した際はどのようなことについて調べられたのですか?
嵐:違法行為などを行わないためにも、まずは制度について調査・理解するところからスタートしました。
当時はまだ特定技能はなかったので、技能実習とEPA、そして留学生の3つの制度を調べ、自分たちに合った制度かどうかを比較、「EPAだと迎え入れられる人数が限られる」「留学生だとコストをかけたとしても卒業後も働いてもらえる確証がない」という理由から最終的には技能実習生から迎えることにしました。
面接から採用まで完了していたにも関わらずベトナムの送り出し機関が指定停止になってしまって再調整が必要になったり、コロナによる入国遅延などもあったり紆余曲折しましたが、2020年3月に1人目の技能実習生を迎えることに成功しています。
外国人雇用を成功させるための3つの秘訣
—現在は特定技能外国人も受け入れていらっしゃいますが、受け入れを成功させるための秘訣を教えてください。
嵐:それに関しては、3つのポイントごとに説明した方がいいかもしれません。
―なるほど。では、ひとつめのポイントからご説明いただけますか?
嵐:ひとつめのポイントは、「きちんと職員の理解を得る」ことです。
実際に外国人スタッフと共に働くのは現場のスタッフですので、彼らの協力や理解がないと受け入れの成功は難しくなります。
外国人スタッフを迎える目的からきちんと説明し、経営面だけでなく、現場で働くスタッフにとってのメリットについて詳細に伝えることで、現場のメンバーにも「受け入れたほうがいい」と納得してもらうことが大切です。
それまでの勤務体制は、人手不足から希望通りに休みが取れなかったり夜勤が多かったりして自分のライフスタイルが確立できず、毎日が現場作業に追われる日々の繰り返しでした。ですから、「“日本人の採用は難しい”という現実を受け入れて外国人の方々に助けてもらい、私生活の充実や、現場作業以外の業務にも挑戦していけるよう変えていきましょう、大変なところもあるけれどメリットもきちんとあります」と当法人では伝えました。
もちろん、いいことばかりを伝えるのではなく、外国人スタッフを受け入れることで生じる新たなデメリットも含めて、事実をきちんと知らせる必要があります。ごまかしや憶測ではなく、外国人雇用に関する客観的な事実を共有することが、スタッフたちの前向きな姿勢につながります。
外国人スタッフに対する現場のネガティブな反応は、その多くが外国人や外国人雇用制度に対する知識の不足から生じています。外国人と接した経験が乏しく、ニュースで見る事件などに情報が偏っていると、どうしても自分たちとは全く違う存在、未知との遭遇のように感じてしまいがちですが、実際にはそんなことはありません。よく知らないから一緒に働くことに対して不安を感じてしまうわけです。
この職員たちの不安を解消するための取り組みも、経営者や管理者に求められることのひとつです。
外国人受け入れに対する現場スタッフの理解を得るため、当法人では「概要」「受け入れの目的」「生じるメリット・デメリット」、さらには「外国人スタッフの出身国に関する情報」や「制度の概要」といったテーマごとに説明を行う研修を実施しました。これらに関しては、現場スタッフ全員に受けてもらいたかったため、ひとつのテーマにつき2〜3回ずつ行い分散させて参加してもらいました。
こうした地道な取り組みの積み重ねによって、現場スタッフの理解と協力を得られたことが、外国人スタッフ受け入れのための体制づくりにおいて、本当に大きな力になりました。
―現場スタッフとの目的の共有が大切ということがよくわかりました。次にふたつめのポイントについてご説明いただけますか?
嵐:ふたつめは、「外国人スタッフの労働条件を整える」ことです。
待遇などの面になりますが、外国人が日本で働く場合には、住居や暮らしなどに関して、日本人にはないさまざまな制約に直面することになります。そのため、住居の確保や暮らしのサポートなどを行いながら、安心して新しい生活を始められるようにすることも大切です。
新しい環境での暮らしを始める際には、「住まいの設備」「周囲の環境」そして「通勤にかかる時間」など、さまざまなことが気にかかるものです。それらについて事前にしっかり伝えることで、外国人スタッフもより安心して日本での生活をスタートできるようになります。
また、外国人スタッフのなかにはほぼお金がない状態から働き始めるという人もいますので、当法人の場合は「買い物研修」などの名目で、初回の給与が支給されるまで嗜好品以外で生活に必要なものを買えるようにするといった個別のサポートも行っています。そういったサポートをすることで生活の基盤が整うことにより、外国人スタッフは活躍してくれます。
さらには、宗教や文化の違いなどに対する理解や気配りも、外国人スタッフが安心して働くことができる環境づくりには欠かせません。例えば、牛肉が食べられないなどのタブーがあれば強要しないことなどがそうです。
―外国人スタッフが定着するうえでは、安心して働ける環境づくりはとても大切ですね。最後のポイントも教えてください。
嵐:3つめは『「経営者」「管理者」「現場」の3者それぞれの役割をお願いする』ことです。
採用担当者一人にすべてを任せるのではなく、外国人スタッフの迎え入れにおいては、それぞれの立場でしかできないことがたくさんあるため、一緒に進めていく必要があります。
たとえば、現場の業務の指導やサポートについては、当然ながら現場のスタッフにしかできません。しかし、現場スタッフがあまり厳しく外国人スタッフに指導や注意をしてしまうと、毎日顔を合わせる分、お互いに働きにくい職場になってしまう可能性があります。
そこで当法人では、本格的な注意や生活指導については、現場スタッフから報告を受けた管理者が健康面や精神面のケアも含めて行うといった役割分担にしています。
また、経営者に関しては、外国人スタッフに安心感を与えてもらうため、直接顔を合わせて話を聞く機会を設けるといった役割などが考えられます。
大切なのは日本人スタッフからの積極的なコミュニケーション
―2021年に最初の技能実習生を迎えられて以来、現在では特定技能を含め複数の外国人介護スタッフを迎えられています。実際に一緒に働いてみて感じる、最も大切なことはなんですか。
嵐:やはり大切なのはコミュニケーションですね。
出身地の話を聞いたり、他国の文化について教えてもらったりと、相手に関心を持って向き合うことが信頼関係を築く第一歩。現場の日本人スタッフたちにも、ちょっとした雑談でも構わないので、積極的に外国人スタッフに話しかけるようお願いしています。
そうやって関係性を築くことで、現場での指導もやりやすくなりますし、日本語力の向上という面でも効果が期待できます。何より、日頃からコミュニケーションが取れている現場では、外国人スタッフのちょっとした変化にも気づきやすくなりますので、管理者としても個別のケアなどがしやすくなります。
しっかりとしたコミュニケーションは、結果的に外国人スタッフの定着率を上げることにもつながります。
―管理者や経営者は、どのようなコミュニケーションを図っているのでしょうか?
嵐:当会では理事には主に新しい環境で不安を感じている外国人スタッフをケアするようなコミュニケーションをお願いしています。具体的には、理事自らが外国人介護スタッフの誕生日のお祝いをしたり、日本での暮らしでの悩みなどを聞く機会などを設けたりしています。
また、管理者に関しては、施設で働く上で大切なルールなどを外国人スタッフに伝えるといった役目もありますので、より実務的なコミュニケーションを図る必要があります。現場が言いづらいことを伝えたり、「これをしてはダメ」といった注意したりするのも管理者の役目です。
そういったコミュニケーションを図ることが外国人スタッフの現場への定着につながるため、外国人スタッフの要望や悩みなどについては積極的に聞き取りながら、なんでも話してもらえる存在を目指す必要があります。
―コミュニケーションをとる際に気を付けていることはなんでしょうか。
嵐:文化的な違いなどもあって、例えば日本語レベルN2の方でもすれ違いは起きます。
これはよくあることですが、指示を出したときに確認として「わかった?」と聞くとわかっていなくても彼らは「はい、わかりました」と答えてしまいがちです。ですから「今の説明で何がわかったの?」という質問の形でその場で聞き取り確認するようにしています。
これを繰り返すことでわからないことはその際に「わからない」と言えるようになります。早いうちに「わからないことは素直に聞いていい」ということを理解してもらうと、その後のやりとりもスムーズになりますね。
外国人介護スタッフの雇用を検討する施設へのアドバイス
―現在は技能実習と特定技能のふたつの制度を利用されていますが、これから外国人スタッフの受け入れを考える施設には、どちらをおすすめしたいですか?
嵐:特定技能と技能実習の両制度を活用していますが、正直、「どちらがおすすめ」というのはありません。いずれの場合も、きちんと手続きを踏めば望むような人材を迎え入れることができます。
ただ、それぞれの制度で違いがあり、採用できる人数が日本人スタッフの数などによって異なったり、受け入れ要件を満たせない施設もあったりすると思うので、自分たちの施設の規模などに応じてどちらの制度を利用したほうがいいかを考える必要はありますね。
そのためにも、まずはそれぞれの制度についてしっかりと情報を収集し、自分たちに合ったものを選択できるようにするといいかもしれませんね。
―最後に、外国人材の受け入れを検討中の介護事業者や介護施設の方に、メッセージをお願いします。
嵐:当たり前ですが、同じ国の出身者でもそれぞれ考え方が違うし、大切にしているものや価値観も異なりますので、「外国人スタッフ」と一括りにすることはできません。
例えば、「ベトナム出身者にはこんな人が多い」という情報を目にすることもあるかもしれませんが、そんな国民性はあくまでも参考程度のものです。一人ひとりと向き合い、その人が日本で働く上で大切にしていることを理解したり、そのために必要なサポートや指導のあり方を考えてあげることが重要です。
しっかりと相手を尊重して向き合えば、外国人スタッフはこれからの介護において頼もしいパートナーになってくれるはずです。