差別や過酷な労働環境…外国人労働者問題とは。解決策についても解説

執筆者:

行政書士/武田敬子

外国人労働者数は2020年10月末で過去最高を更新しました。しかし、外国人労働者の増加に伴い、不法残留・不法就労・技能実習生の失踪などの問題が増加しています。これらは、外国人労働者の低賃金や労働環境、コミュニケ―ション障害などの問題をはじめ、雇用者側・受け入れ側の認識不足で起きた問題もあります。

この記事では外国人労働者を受け入れる上での問題点や解決策について、行政書士が解説します。

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外国人労働者の現状

上記でも述べたように、外国人労働者数は過去最高を更新しました。2022年の外国人労働者数は1,822,725 人で過去最高を記録。法務省によると2022年6月時点での全在留外国人数は2,661,969人、そのうち約68%が就労していることになります。

在留資格別では2022年は「技能実習」と「資格外活動」で全体の37%を占め、人材不足によって特別な知識や経験の不要な分野での労働需要が増えているためと考えられます。

コンビニエンスストアや居酒屋などで働く外国人を目にする機会が増えましたが、特に外食、介護、建設業などの業種で人材不足が顕著です。それらの経済界の声に押されるように、その業界で外国人が働ける特定技能という新しい在留資格を政府が2019年に設定しました。

技能実習生の人数推移については、下記の記事でも詳しく解説していますのでご覧ください。

外国人労働者の問題点とその原因とは

不法残留は「短期滞在」が61%を占めます

労働目的で日本に滞在したいけれど、働くための在留資格が取得できないため、短期滞在と偽って来日することが原因と思われます。

そこで、この記事では不法就労や技能実習生の失踪、その他就労系の在留資格を持つ外国人の問題を取り上げていきます。

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問題①低賃金

技能実習制度の運用に関するプロジェクトチームの調査・検討結果によると、技能実習生失踪の原因は最低賃金違反、契約賃金違反、賃金からの過大控除、割増賃金不払いが失踪原因の約44%を占めています。

技能実習生が失踪するのは、転職できないことが一番の原因と思われます。

特別な技能が不要なコンビニや居酒屋のアルバイトなどに外国人留学生が多いですが、留学生の失踪はあまり数が多くありません。賃金が低かったり、待遇が悪かったりすれば、辞めて他に働く場所を探せば良いだけだからでしょう。

しかし、技能実習生は基本的には転職が認められていないので、原則3年から5年は同じ受け入れ企業で働きます。さらに技能実習生の場合、同時期に同じ送り出し機関から来た技能実習生達と、残業の多さや待遇などを比較しやすく、不満もたまりやすいと考えられます。受け入れ企業が残業代を出さないため、結果的に最低賃金以下の給与で働かされていることは度々問題となり、抑止のために法改正も繰り返されていますが、なかなかなくなりません。

外国人労働者の賃金についてはこちらの記事でさらに詳しく解説しています。

問題②過酷な労働環境

技能実習生が働く現場は人材不足の業種です。人手不足の現場は、長時間で重労働など過酷な労働環境にも関わらず低賃金で、日本人を募集しても集まりにくく、離職率も高いです。技能実習生の労災も増えており、死亡や重篤な障害の残る場合もあります。建設業で物が落下した、食品製造工場で腕や指を挟まれた、など安全衛生教育が必須の危険な現場も少なくありません。

2020年厚生労働省の労働災害発生状況では、小売業と社会福祉施設で転倒や腰痛などの労災が増加しています。労災が発生するのは危険な現場ばかりではないことも押さえるべきでしょう。

問題③コミュニケーションの障害

ここからは「技能実習」に限らず、広く外国人労働者全般の問題を取り上げていきましょう。

2019年9月内閣府の「企業の外国人雇用に関する分析」によると、企業に外国人労働者の課題をアンケートしたところ、1位「日本語能力に問題がある」29.5%、2位「日本人社員とのコミュニケーションに不安がある」19.5%と、コミュニケーションの問題が49%を占めます。この2つの課題は、幅広い職種でみられますが、特に製造現場の技術者・技能者、製造派遣・請負、技能実習生に多いです。

反対に外国人とコミュニケーションが円滑な企業ほど、外国人労働者の定着率が高い傾向がみられます。

東京都産業労働局の「外国人相談統計」によると、相談件数の多い順に以下のようになっています。

【外国人による相談内容】

1位:退職
2位:職場の嫌がらせ
3位:労働契約
4位
解雇
5位:賃金不払い

コミュニケーション不足がパワハラとつながる可能性もあり、もちろん人権侵害という観点からも許されることではありません。

しかし、コミュニケーション不足や文化・制度の違いなどから「社会保険料が給与から引かれているが、賃金不払いではないか」といった日本人からすると「えっ」と思うような相談もあります。たとえ日本語が堪能であっても、文化や制度の違いを背景とするすれ違いは起こりやすくなります。

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問題④年功にとらわれない昇給・昇進の促進

内閣府の分析では、技能実習以外の高度外国人(「技術・人文知識・国際業務」など)に聞いた課題として「年功にとらわれない昇給・昇進」が1位、「コミュニケーション」が2位になっています。

ご承知のように外国人は転職を繰り返し、よりレベルアップしていくことが一般的で、能力主義の成果報酬を好みます。外国人の考え方や文化に配慮した受け入れ体制を整備しなければ、優秀な外国人ほどすぐ離れていってしまうでしょう。

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外国人労働者問題の解決策

外国人労働者の問題を「技能実習」、外国人全体、高度人材の問題とみてきました。では、どのような解決策があるのでしょうか?

外国人労働者の待遇は日本人と同等に設定

まず前提として、外国人労働者を日本人と差別してはなりません。法に則って最低賃金は守り、残業代もきちんと払う必要があります。

「問題③コミュニケーションの障害」で述べた東京都産業労働局の「外国人相談統計」の相談件数の上位4つ(1位:退職、3位:労働契約、4位:解雇、5位:賃金不払い)については、解決策の1つとして契約書をきちんと結ぶことがあります。

些細なことでも日本人にとっての常識が、外国人にとっては非常識な場合もあります。さまざまなケースを想定し、疑問の余地なく契約しておくことで、認識違いによるトラブルの多くは防げるでしょう。

採用担当者は外国人材の労務管理や採用ルールの知識を深める

例えば、アーク溶接やフォークリフトの運転などでは、特別教育や免許が必要だったり、通常年1回の健康診断が半年に1回は必要だったりします。労働者を生死に関わる労働災害から守るため、安全衛生法に関する知識は必須と言えるでしょう。

さらに、外国人を採用した場合にのみ必要な手続きや適用される法律があります。法律に関しては「知らない」ではすまされず、法令違反や不法就労助長罪などの罪に問われることもあります。自社のみで不安であれば、外国人採用に詳しい人材紹介会社、行政書士などに相談しても良いと思いますし、当サイトにも役立つ記事があります。

企業自身が知識をつけることで、違法な採用を薦めてくるブローカーや監理団体を見極め、違法行為に巻き込まれないよう注意してください。

外国人労働者の受け入れ体制や支援を整える

業務上のコミュニケーションが容易な職場環境の整備は、仕事の効率性のみならず、外国人の定着率向上に必須です。

技能実習生や新卒留学生の場合は、ビジネスマナーより日本語教育の基礎的能力を底上げする人材育成が、高度外国人の場合は、年功的な昇進・昇給制度より能力主義的な成果報酬制度の導入が効果的です。

日本語研修を社内外でサポートしたり、外国人の仕事や生活全般の相談に乗るメンター制度を導入したりしても良いでしょう。

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外国人労働者受け入れ採用のメリットとは何か

課題もありますが、外国人労働者受け入れのメリットも見てみましょう。

人手不足の解消

コロナ禍以前は人手不足が叫ばれており、人手不足を理由とする倒産も2019年には4年連続で過去最多を更新しました。外国人労働者受け入れによる人手不足解消は大きなメリットです。

優秀な若手人材の獲得と海外展開の足掛かり

高齢者が多い人口構成になっている日本。中小企業では、優秀な若手日本人を採用するのは難しくなっています。しかし、外国人人材にまで採用の視野を広げると、中小企業であっても優秀な若手人材を採用できる可能性が高いです。外国人の方が優秀という企業も多く、個人的にもわざわざ海外に出て働こうという外国人は意識が高く、ハングリー精神が日本人より旺盛だと思うことも多いです。

組織の活性化

常識や文化の異なる外国人の視点は日本人だけでは思いつかない新しい発想を得ることも多く、停滞した社内の意識改革と活性化を目的として外国人を採用する企業も多いようです。また、外国への事業展開、インバウンド受け入れの足掛かりにも活用できます。

まとめ

日本人を雇っても年代や考え方の違いで摩擦はおきます。外国人の場合、日本語の問題、文化の違いでなおさらでしょう。一番の問題がコミュニケーションなのは明確なので、外国人を必要不可欠な存在として日本語教育をサポートし、問題が発生してもすぐ相談してもらう体制の構築が必要でしょう。

優秀な外国人を活かし、社内活性化に繋げることができるかどうかは、会社の姿勢次第です。

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