アフターコロナで台湾人の若者の日本就職事情はどう変わったか
日本で働く台湾人は、2019年までは毎年、増加傾向が続いていました。
日本で就労する台湾人は親日で日本語力が高いため、特にインバウンド業界では重宝されています。コロナが収束した今、台湾人の日本就職に対する意識はどう変わったでしょうか。
現在、台湾でマイナビの海外現地法人の董事長を務める筆者が、アフターコロナの台湾人の日本就職事情についてご紹介したいと思います
目次
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台湾人採用のニーズはコロナ前より高い
2024年9月までの訪日客数を見ると、インバウンド観光市場が順調に回復しています。
台湾からの訪日客数は2024年9月が470,600 人、毎年の訪日観光客数の中で9月としては、2024年が過去最高を記録しました。これにより観光事業者もインバウンド対応に追われ、台湾人採用のニーズが急増しています。コロナ前よりも、台湾人採用の求人数が増えているように感じています。
ただ、台湾人の日本就職に対する意欲と求める条件にもコロナ後は変化が見られます。
▶ 参考:JNTO PRESS RELEASE 訪日外客数(2024 年 9 月推計値)|日本政府観光局
なぜ台湾人採用のニーズが高いのか
日本企業において台湾人採用のニーズが高い理由は、以下の3つが挙げられます。
①語学力
前述の通り、インバウンド対応のため、中国語が話せる人材の需要が高まっています。台湾には日本語力の高い人材が多く、さらに英語も堪能な人材も一定数いるので、インバウンド業界では重宝されます。
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②親日、日本文化に詳しい
台湾は世界有数の親日国だと言われています。日本台湾交流協会の2022年の調査によると、台湾人の最も好きな国は日本が断トツ1位(60%)でした。日常的に日本語を勉強したり、日本のドラマやテレビ番組を見たりすることで、日本文化に詳しい人が多いです。そのため、他の国と比べると、日本の職場環境にもなじみやすいです。
▶ 2022年3月 第7回対日世論調査の結果について|公益財団法人日本台湾交流協会
③日本式の接客に慣れている
台湾人には日本旅行のリピーターが非常に多いです。また、台湾に日本のサービス業がたくさん進出しているため、日本式の接客に慣れています。日系のサービス業での勤務経験者も多いので、即戦力として期待されます。
なぜ台湾人は日本で働きたいのか
台湾は日本と同じく、少子高齢化社会が進み、2020年から人口減少に転じました。ただし、日本と違うのは、台湾の若者はグローバル人材や語学力の重要性を叩き込まれてきたので海外志向が強く、海外で働きたいと思っている人が多いです。そんな中、行きたい国の上位はやはり日本です。
台湾人が日本で働きたい理由は、3つ挙げられます。
日本語学習者が多い
2022年の日本語能力試験(JLPT)の国別受験者数を見ると、台湾はミャンマーに次ぐ世界2位です。人口割合で考えると世界1位です。さらに、ミャンマーはN4とN5の受験者数が7割以上に対して、台湾はN3以上が7割です。日本語力の高い人が多く、日本語を活かして日本で働きたい人も多いです。
順位 | 国・地域名 | N1 | N2 | N3 | N4 | N5 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 中国 | 53,400 | 56,655 | 17,002 | 7,417 | 5,459 | 139,933 |
2 | ミャンマー | 570 | 3,500 | 20,144 | 60,712 | 5,074 | 90,000 |
3 | 韓国 | 10,656 | 9,492 | 9,322 | 3,250 | 1,387 | 34,107 |
4 | 台湾 | 7,481 | 7,632 | 7,743 | 6,288 | 4,950 | 34,094 |
5 | ベトナム | 2,823 | 6,736 | 7,517 | 5,768 | 3,401 | 26,245 |
親日である
前述の通り、台湾人は非常に親日です。日本へ旅行や留学をしたことがある人も多いです。日本滞在の経験が良かったので、もっと長く日本に居たい、若しくは住みたいという気持ちを持っている人が多いです。
距離が近い
台湾と日本の距離は飛行機で3時間程度です。一番近い沖縄は約1時間半で、北海道でも約4時間です。直行便も多く、一時帰国することもご家族や友人が来日することも簡単にできるので、心理的抵抗が少ないです
意欲と条件の変化
日本企業の台湾人採用ニーズが高く日本で働きたい台湾人も一定数いるものの、2019年と比較すると、明らかに海外就職の意欲や仕事に求める条件に変化がありました。
台湾国内の就職市場
コロナの流行、生産コストの高騰、政治的要因などの原因で、2020年から台湾の製造業の国内回帰が加速し、求人数が大幅に増加しました。加えて、脱コロナのサービス業の求人需要の急増し、台湾国内は空前の人材不足が起きています。台湾最大の求人サイト「104人力銀行」の発表によると、2023年10月の掲載求人数は過去最高だそうです。
台湾国内の就職機会が多く、給与水準も上昇しているため、日本を含む海外での就職の意欲が低下傾向にあります。
円安
円安でインバウンド市場の活況が続く一方、海外人材にとって日本で働く魅力が大きく下がっています。台湾元換算で、2019年と比べると賃金は約3割減、むしろ台湾現地の給与水準の方が高くなってきています。円安だから日本に就職することを家族に反対されるという声はよく聞きます。
【XE.comを利用して算出した2024年10月31日時点までの日本円の為替レート】
上述の理由から、近年では台湾人が日本で就職する際、勤務地と給与にこだわる傾向が強くなっています。
コロナ前では、日本に行きたい気持ちが先行し、労働条件は二の次というマインドだったのに対して、今は希望条件に合う仕事がなければ日本に行くのを後回しにする、というマインドに変わりました。
台湾人にとって魅力的な条件
では台湾人にとって魅力的な条件とは何でしょう。ここでいくつか挙げていきます。
①給与
サービス業の場合、残業代別で月給20万円、年収260万円が最低ラインです。手取16万円を今のレートで換算すると、台湾では約35,000元になります。これは台湾の新卒の給与とほとんど変わりません。台湾労働部の発表によると、2022年の台湾初任給平均は34,000元です。
なお、台湾人は残業を好まないため、たくさん残業して稼ぎたいという考え方を持っていません。理系人材の場合、今はむしろ台湾の方が給与高いと思われます。特に台湾の経済を支える半導体業界では、院卒の場合、台湾大手企業の年収が日本円で600~900万円まで高騰しているため、日本の給与水準だと優秀な台湾理系人材の獲得が難しくなってきました。
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②住居
給与の他に、寮や社宅の提供、若しくは家賃補助は台湾人にとってはとても魅力的です。日本の家賃は高く、部屋探しも大変と思っている人が多いので、住居面のサポートがあると求職者も安心するでしょう。また、海外生活中は一人でリラックスできる時間と空間がとても大事ですから、寮や社宅は一人部屋が好ましいです。
③生活の便利さ
台湾人は特に日本の交通の便を気にしています。台湾人は日本で車を持つことは基本的には考えていません。お金がかかることはもちろん、車検、保険、道路事情など分からないことだらけだからです。そのため、車がないと生活が不便になる土地は、人が集まりにくくなります。それを解消するために、従業員共用の車を用意するという企業様の事例もあります。
【採用条件を見直して台湾人材を確保】
人材不足且つインバウンド需要が回復した今、親日で日本語力の高い台湾人材の採用ニーズがますます高まるでしょう。日本の給与の優位性がなくなってきているのですが、親日で日本で働きたい台湾人は一定数います。待遇面の改善や働きやすい環境の提供など、魅力をアピールすることが台湾人採用に繋がります。