永住権とは?在留資格「永住者」の取得条件や「帰化」との違いも解説

永住権申請書類の説明をするイメージ
執筆者:

行政書士/井手清香

日本に定着した外国人の多くが在留資格「永住者」を取得したいと思っていますが、それは何故のでしょうか。
また永住者を持っている外国人を企業が雇用する場合に注意すべきことはなんでしょうか。

勘違いしやすい「永住権」「帰化」「特別永住者」との違いを踏まえつつ、取得条件や申請方法などを行政書士が詳しく解説します。
外国人の採用担当にの方は、この記事を一読して日本の永住権の基本から確認していきましょう。

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永住権とは

永住権とは、外国人が在留期間を制限されることなく滞在国に永住できる権利のことです。

この権利は、「永住者」という在留資格にあたります。

・在留資格「永住者」の資格
・在留期間の制限がない
・日本での活動に制限がない(職種や業種などの就労制限が無い)

・しかし、取得には厳しい条件がある

詳しく見ていきましょう。

永住権を取得するための条件3つ

在留資格「永住者」を取得するためには3つの条件を満たさなければなりません。

①素行が善良であること

つまり、「法律や法令の違反をしていない」ということです。

法律を守り、平穏に暮らしているかが審査されます。スピード違反や駐車違反といった軽微な違反については、素行不良とは見なされないケースもあるようですが、繰り返した場合は不許可になる可能性が高いでしょう。

②独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること

日本で暮らしていくための収入や、スキルがその人にあるかどうか、ということを審査されます自活できない人に永住権は許可できないということです。

ただし、収入は世帯全体で考慮されます。本人の収入が少なくても、配偶者の収入が十分であれば「独立の生計を営むに足りる資産又は技能がある」と見なされ、配偶者や子ども等の働いていない方も条件を満たします。

③永住が日本国の利益になると認められること

その外国人の永住が、日本の利益になるかどうか、を審査されます。

抽象的なので、以下で具体的に見ていきましょう。法務省のガイドラインには以下のように書かれています。

ア 原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし、この期間のうち、就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。

イ 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。公的義務(納税、公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに出入国管理及び難民認定法に定める届出等の義務)を適正に履行していること。

ウ 現に有している在留資格について、出入国管理及び難民認定法施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間をもって在留していること。

エ 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと。

出典:法務省|永住許可に関するガイドライン 原則10年在留に関する特例(令和元年5月31日改定)

こちらについて順番に説明すると、

……原則として10年間の在留が必要。さらに、そのうち5年間については「就労資格(技能実習と特定技能1号を除く)」または「居住資格」で在留していなければなりません。

例えば、留学で4年間、技術・人文・国際業務で6年間、日本に在留している場合は、就労資格で5年以上在留していることになりますので、永住権申請の要件を満たします。一方、留学で6年間、技術・人文・国際業務で4年間、日本に在留している場合は条件を満たせません。「技能実習」や「特定技能1号」は対象外となります。ただし、特定技能2号に関しては対象です。

……罰金や懲役などに処されていないこと。また、税金の滞納があってもいけません。

年金、健康保険などは税金ではありませんが、類似の制度であるため、それらにも滞納がないか調べられることがあります。

……現在取得している在留資格の最長の在留期間を持って在留している

3年の在留期間を有していれば、2020年7月現在では最長であるとみなされます。

……外国人本人が何らかの感染症にかかっていないかなど、公衆衛生上の問題がない

上記の条件に該当する場合「永住許可申請」を行うことができ、法務大臣から許可がおりると、在留資格「永住者」(永住権)を得ることができます。

永住権取得の特例

特例として、日本人・在留資格「永住者」・在留資格「特別永住者」の配偶者または子供である場合、以下の要件は満たさなくても良いことになっています。

素行が善良であること
・独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること

「特別永住者」については、後述します。

10年間の在留がなくても永住権を申請できる特例

また、特例によって10年間の在留がなくても永住権を申請できる場合があります。法務省のホームページには以下のような特例が挙げられています。

1.日本人、永住者及び特別永住者の配偶者の場合、実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し、かつ、引き続き1年以上本邦に在留していること。その実子等の場合は1年以上本邦に継続して在留していること

2.「定住者」の在留資格で5年以上継続して本邦に在留していること

3.難民の認定を受けた者の場合、認定後5年以上継続して本邦に在留していること

4.外交、社会、経済、文化等の分野において我が国への貢献があると認められる者で、5年以上本邦に在留していること

出典:法務省|永住許可に関するガイドライン(令和元年5月31日改定)

企業の中でよくあるパターンとしては、1.の日本人配偶者を持つ外国人のケースではないでしょうか。

また、高度人材ポイント制の優遇措置によって、在留期間が10年より短くても永住権を申請できる場合があります。高度人材ポイント制による優遇措置についてはこちらで詳しく解説しました。参考にしてみてください。

永住許可申請の方法

永住権を申請する書類の記入シーン

永住権申請は以下の2パターンがあります。

申請は原則本人が行います。

(1)現在持っている在留資格から永住者の在留資格へと変更したい場合
(2)出生などによって永住者の在留資格を取得する場合

(1)現在持っている在留資格から永住者の在留資格へと変更する場合

変更の期限は、在留期間の満了する日以前です。永住許可申請中に在留期間が過ぎてしまう場合については、別途「在留期間更新許可申請」が必要です。在留期間更新許可申請は、在留期間の満了する日までに行います。

費用は、許可された場合に8,000円が必要です。

(2)出生等により永住者の在留資格の取得を希望する外国人の場合

永住権の取得については、出生その他の事由発生後30日以内に申請します。

この取得の場合、手数料はかかりません。

申請先

申請は以下のいずれかで可能です。

①申請人本人が居住する地域を管轄している、地方出入国在留管理官署
外国人在留総合インフォメーションセンター

審査期間

法務省は、申請~結果が出るまでに4ヶ月と公表しています。

ただし、永住権の審査は厳しく、他の在留資格より時間がかかります。6か月以上かかることもあるようです。

本人以外で申請できる人

本人以外がでも、申請人本人の法定代理人と以下の者は、代理申請を行うことが可能です。

(1)地方出入国在留管理局長から申請取次の承認を受けている次の者で、申請人から依頼を受けたもの
  ア  申請人が経営している機関又は雇用されている機関の職員
  イ  申請人が研修又は教育を受けている機関の職員
  ウ  外国人が行う技能、技術又は知識を修得する活動の監理を行う団体
  エ  外国人の円滑な受入れを図ることを目的とする公益法人の職員

(2)地方出入国在留管理局長に届け出た弁護士又は行政書士で、申請人から依頼を受けたもの

(3)申請人本人が16歳未満の場合又は疾病(注)その他の事由により自ら出頭することができない場合には、その親族又は同居者若しくはこれに準ずる者で地方出入国在留管理局長が適当と認めるもの

出典:法務省|永住許可申請

企業の場合は、申請取次の承認を受けた職員が「(ア)申請人が経営している機関又は雇用されている機関の職員」に当てはまり、本人の代わりに申請することが可能です。

在留資格「永住者」申請の必要書類

永住者の在留資格に変更する場合の、必要書類をリストアップしてご紹介します。

① 申請書
② 写真(1葉。写真の裏面に氏名を記入し、申請書に添付して提出)
③ 16歳未満の方は写真の提出は不要です。
④ 立証資料(元の在留資格によって異なります。詳細は法務省のホームページをご覧ください。)
⑤ 在留カード(在留カードとみなされる外国人登録証明書を含みます。以下同じ。)を提示
⑥ 資格外活動許可書を提示(同許可書の交付を受けている者に限ります。)
⑦ 旅券又は在留資格証明書を提示
⑧ 旅券又は在留資格証明書を提示することができないときは、その理由を記載した理由書
⑨ 身分を証する文書等の提示(申請取次者が申請を提出する場合)

なお、変更前の在留資格によって必要な書類が異なるため、詳しくは法務省のホームページをご確認ください。

在留資格「永住者」「特別永住者」「帰化」との違いについて

間違えやすい3つについて、その違いを紹介しましょう。

「帰化」と「永住者」の違い

「永住者(永住権)」と間違われやすいのが「帰化」です。

「帰化」は日本国籍を取得することをいいます。外国籍ではなくなり、簡単に言えば日本人になることなので、在留資格制度からは外れます。日本人が受ける社会保障などの権利も、全て同じように受けられることになります。

一方、「永住権」は在留資格「永住者」のことですから、あくまで「外国人」として日本に在留し続けるものです。帰化の申請・承認は永住権より更にハードルが高くなります。また、日本では二重国籍が認められていないので、日本国籍を取得したい場合には、元々の国籍を手放す必要があります。元の国籍に戻したいと思った時に、国籍を取り直すことが大変難しい国もありますので、帰化には十分な検討が必要です。

「特別永住者」と「永住者」の違い

「特別永住権」とは、1991年11月1日に施行された「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(入管特例法)」に定められた在留資格を持っている外国人のことです。

日本は第二次世界大戦に敗戦し、サンフランシスコ平和条約によって占領していた朝鮮半島や台湾などが領土ではなくなりました。これにより日本国籍を失った人々と、その子孫に対して永住を許可したものです。特別永住者の数は減少していますが、まだまだ雇用することもあるでしょう。

「永住者」と「特別永住者」の大きな違いは、在留カードです。

・永住者……在留カードの交付あり
・特別永住者……在留カードの交付なし。代わりに特別永住者証明書を交付

その他にも、特別永住者は「外国人雇用状況届出」の提出が不要だったり、申請場所は入管ではなく住民票のある自治体だったりの違いがあります。

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外国人採用担当者向け:永住権に関連するよくある疑問

企業の採用担当者からよく聞かれる、永住権に関する疑問をまとめてみました。採用を検討中でしたら、参考にしてみてください。

永住権を持つ外国人を採用する場合の注意点は?

就労制限等がない在留資格「永住者」ですが、外国人雇用状況の届出」は他の外国人と同様に義務です。必ず提出しましょう。

また、犯罪といった永住に相応しくない行動をした場合は、永住権の在留資格を取り消されてしまう可能性があります。犯罪に巻き込まれないように注意するのは本人の責任でもありますが、企業としても注意喚起をした方が良いでしょう。

企業側が負担するべき費用はあるか?

永住権の申請について、企業側が費用を負担しなければならないことは、特にありません。

永住権を持っている人を採用するメリットは?

永住権を持っている場合、「在留期間の制限がない」「日本での活動に制限がない(職種や業種などの就労制限が無い)」ので、在留期限や就労可能業務内容について気にする必要がありません。在留資格に合わない職種で働かせたり、在留期限が切れているのに働かせたりしてあしまえば、不法就労助長罪で罰せられてしまいますので、担当者は把握をしておく必要があります。

ただし、永住者でも在留カードの更新はあるため、忘れないように注意が必要です。

永住権を持っていることを確認するには?

永住権を持っている、と外国人本人が言う場合でも必ず在留カードを確認しましょう。在留資格が「永住者」となっていれば大丈夫です。

海外転勤と永住権申請との関係に注意

海外に長期で出張(転勤)する場合、いったん日本の在留資格を返納する手続きを取るため、永住権申請に必要な在留年数がリセットされてしまいます。そのため、永住権をとりたい外国人社員に海外転勤を打診しても断られる可能性があるでしょう。将来、海外転勤を視野に入れて採用をするのであれば、注意が必要です。

まとめ

今回は、永住権の申請条件や申請の方法などを簡単に説明しました。

永住権を持っている外国人であれば、他の在留資格のように業務内容や在留期限に注意を払う必要はなくなります。ただし、素行不良などによって永住権が取り消される可能性はもちろんありますし、これから永住権を取得予定の外国人の場合は、長期にわたる海外転勤と在留年数の兼ね合いにも注意が必要です。

とはいえ、永住権を持っているということは、企業に長期間勤めてもらえる可能性が高いということです。永住権を活用して、長く企業の戦力になってもらえると良いですね。

▼他の在留資格については、こちらで詳しく解説しています。